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歩積両建預金とは?銀行員のノルマと金融庁禁止の理由

東日本銀行の不正事件で歩積両建預金という言葉を初めて耳にしたという人も多いのではないでしょうか?

歩積両建預金とは金融庁に禁止されている不正行為です。

もしも、銀行から融資を受けた際や、申込の際に銀行から歩積両建預金の依頼をされたら、しっかりと断らないと、自社が損失を被ることになってしまいます。

また、銀行側にも過剰なノルマ設定のために、支店レベルなどで承知の上で不正を行なっているケースも存在すると思います。

歩積両建預金の概要や、銀行現場の実態などについて解説していきたいと思います。

 

目次

歩積両建預金とは

歩積両建預金は(ぶづみりょうだて)と呼びます。

歩積両建預金については、金融庁に禁止されている行為ですが、実際には多くの銀行で近いことが行われていると考えられます。

それだけ、担当者レベルで簡単に行うことができ、支店や担当者にとっては都合のよい行為なのです。

歩積両建預金とはどのような行為で、なぜ金融庁に禁止されているのでしょうか?

融資金を預金に回す行為

歩積両建預金とは、顧客に融資を行い、その預金を定期預金として預金させることです。

融資とは、本来顧客がお金を使う必要があるため行われるものですが、顧客に必要以上の融資を行い、余った金額を銀行に預金させるのです。

例えば、顧客が1,000万円を必要としている場合に「2,000万円を融資するので、1,000万円は預金してくれ」というものです。

顧客は融資金全額の利息を負担し、損失を負う

歩積両建預金の問題点は、顧客が損失を被るということです。

顧客が必要とする以上の融資を行い、不要な部分を預金をさせたとしても、顧客は借りたお金全額の利息を負担しなければなりません。

金利1%で1,000万円1年間借りた場合の利息負担額は10万円ですが、歩積両建のために、2,000万円を1%で融資した場合、顧客の利息負担額は倍の20万円になってしまいます。

歩積両建預金は顧客に不要な利息負担を負わせる行為ということが禁止されている理由の1つです。

実際のお金よりも融資量も預金量もアップする

歩積両建預金を行うことによって、銀行の経営がかなり不透明化してしまいます。

例えば、1億円の預金を預かって、そのうち8,000万円を融資した場合、この銀行の預金量は1億円、融資量は8,000万円という規模になります。

ところが、8,000万円の融資のうち半分の4,000万円を歩積両建預金とした場合はどうなるでしょうか?

銀行の預金量は1億4,000万円になってしまいます。

実際には、融資金という資産8,000万円の中から預金に回しただけですので、銀行の預金は増えていないにも関わらず、数字上は預金が増えてしまうことになり、このようなことが許されると、銀行の経営状態は非常に不透明になってしまうのです。

歩積両建預金は、銀行の財務状態の透明化に繋がらないためというのも禁止されている理由の1つです。

銀行は優越的地位を濫用して歩積両建預金を強制する

なぜ、銀行が歩積両建預金を行うことができるのでしょうか?

お金を借りる側は、必要もないお金の融資を依頼されたとしても「いやだ」と言えば済むことではないでしょうか?

ここには、銀行の優越的地位の濫用があると言われています。

企業の中には銀行からお金を借りないと経営活動ができない場合があります。

このような困った企業に対して、必要以上の融資を提案して「余ったお金を預金すれば融資に応じますよ」と持ちかけるのです。

企業とすれば、たとえ過大なお金でも、銀行から必要な資金を調達することができるので、利息を多く払うことになったとしても銀行の提案に乗り、歩積両建預金をするのです。

このように、企業の「お金に困っている」という弱い立場につけ込み、銀行の「お金を貸してやる」という行為は、優越的地位を明らかに濫用していますので、歩積両建預金は優越的地位の濫用に当たるのです。

 

銀行の現場の実態

一般的に、歩積両建預金は銀行が「お金を借りられないと困る」という弱みにつけ込み、銀行の優越性を利用して行われる「優越的地位の濫用」によって行われるものとされています。

しかし、筆者の銀行員としての経験上は、歩積両建預金は銀行の優越的地位の濫用によって起こるわけではないと思います。

銀行の現場では、どのようなプロセスによって歩積両建預金という不正が行われているのでしょうか?

実際には優越的地位の濫用で行われているわけではない

私の経験上、今は歩積両建預金は優越的地位の濫用によって行われているのではないと思います。

銀行は現在、融資先が乏しいので、お金に困ってもいない企業に頭を下げてお金を借りてもらっています。

このため、銀行に顧客に対する優越的地位はそもそもないのです。

企業とすれば、そもそも必要もないお金を銀行に頼まれて借りているわけですので、使わない融資金を「とりあえず銀行へ預金してくれ」と言われたら、会社や自宅に置いておくより安全ですので、預金に応じます。

このように、今は優越的地位とは逆に、銀行の融資ノルマのために仕方なく借りた企業が、また銀行に預金を頼まれて歩積両建預金が成立するという仕組みになっているのだと思います。

少額の歩積両建預金は珍しくない

中小企業に数百万円程度の融資を行い、そのうちの全部や一部を銀行へ預金をしてもらうということは、担当者レベルではよく行われることです。

このような担当者レベルで行われる歩積両建預金は数百万円程度のそれほど大きくない金額の預金です。

金額が小さいため、銀行の内部管理も金融庁検査でもお咎めなしとされているため、大きな問題にならないだけで、実際には少額の歩積両建預金は頻繁に行われていると思います。

運転資金融資で行われる

企業の設備資金は、資金の行方が全て追われる融資です。

融資金は全て銀行に管理され、設備導入のための資金以外には1円も借りたお金を使うことができない仕組みになっています。

このため、設備資金融資では歩積両建預金は行われませんし、やりようがありません。

歩積両建預金は資金の行方を追わない、運転資金融資で行われます。

運転資金は、「会社の運転のために必要」という名目があり、いつまでも融資金を振り込んだ口座に置いておくわけにはいかないため、基本的には融資実行後は現金で払い出しを行います。

一度、現金で払い出してしまえば、「取引先からの売上金」「個人の預金」など適当な言い訳をつけてしまえば、資金の出所など分かりようがありません。

このため、融資金を再び歩積両建預金として預かっても、追求する術はなく、銀行担当者レベルの歩積両建預金はそれほど珍しい話ではありません。

 

歩積両建預金が行われるのはノルマのため

歩積両建預金は銀行が優越的地位の濫用によって行なっているのではなく、むしろ銀行が必要もないお金を融資している実態が原因だということを説明しました。

そして、銀行が顧客に頭を下げてまで歩積両建預金を獲得しているのは、銀行員や支店に課せられる過剰なノルマのためです。

銀行のノルマは地域経済や市場の動向とは無関係に、経営側が必要とする売上や収益を基準に一方的に決められます。

このため、獲得が不可能なノルマを達成する目的で、最も簡単な手段である、歩積両建預金という不正に走ってしまうことが多いのです。

支店は預金も融資もノルマを抱えている

銀行の支店は、月末預金量〇〇億円、月末融資量〇〇億円というように、預金と融資両面で厳しいノルマが課されています。

これは、基本的には前月よりもプラスになるように設定されていますので、支店は預金も融資も獲得しなければなりません。

融資量確保のために、月末数日だけ、当座貸越を借りてもらうなどということはよくあることです。

企業としては必要もないお金を借りているのですから、この融資金を預金として預けて貰えば、預金も融資もダブルで増えるという数字作りができるのです。

支店レベルで承知していることが多い

支店レベルで預金も融資もノルマが設定され、支店が目標に届かないと、支店長が本部から、ひどく怒られることになります。

このため、担当者レベルで取ってきた歩積両建預金については、実際には支店レベルで承知していることが多いのです。

歩積両建預金として融資先から担当者が預金を取ってくると、上司や支店長が「融資から2週間経っているからいいだろう」などと判断しているケースが多いと思います。

融資から日が浅ければ歩積両建預金が疑われてしまいますが、融資から日が経っていない場合には、歩積両建預金ではないかと疑われた時に言い訳が成り立つ場合があるためです。

本部のノルマとコンプライアンスで現場は板挟み

東日本銀行の不正では歩積両建預金も行われていました。

半分以上の支店で、歩積両建預金が行われていたと報道されましたが、逆に言えば、半分近くの支店では歩積両建預金が行われていなかったということです。

つまり、銀行全体として歩積両建預金などの不正を推奨していたわけではないということです。

銀行の現場では支店長の方針が大きく影響します。

支店長が「ノルマが達成できなくても、コンプライアンスを重視しろ」という方針であれば、不正は起こらないですが、そのような支店はノルマが達成できないため、支店長は評価されません。

一方、ノルマ達成のために不正を許容する支店長であれば、その支店は不正が横行します。

このように、そもそもコンプライアンスを守っていたら達成不可能なノルマが設定されているので、営業現場がコンプライアンスとノルマの板挟みになり、ノルマを優先する支店では不正が起こるという仕組みになっているのです。

 

まとめ

歩積両建預金は顧客に損失を追わせる不正です。

もしも銀行から歩積両建預金を提案された場合には、断るか、銀行本部か金融庁へ相談した方がよいでしょう。

銀行経営は今非常に苦しく、不正を行わなければ収益を確保しにくいという状況になっています。

今銀行は、融資先が足りなくて困っていますので、歩積両建預金を提案するような銀行からお金を借りるくらいであれば、他の銀行へ相談すれば融資に応じてもらえる可能性があります。

債権者が有利な立場、債務者が不利な立場という時代は昔の話です。

これからは「お客様」という優越的な立場で、お金を借りる側が銀行を選ぶ時代になるのではないでしょうか?

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