地方銀行の不正が相次いでいます。
最近(2018年)、最も有名な不正融資と言えば、スルガ銀行のアパートローン不正融資の事件ですが、銀行の不正はそれだけではありません。
東京の第二地銀、東日本銀行は融資業務だけでなく、数多くの不正を行い、行政処分を受けています。
スルガ銀行と比較して、東日本銀行の不正の方が、元銀行員の筆者とすれば、ノルマに追われた銀行員が比較的簡単に手を染めてしまう可能性がある不正だと思います。
近年になって、地方銀行をはじめとする地域金融機関の経営がいかに苦しいのか、東日本銀行の不正を考えることで、よくお分りいただけるのではないでしょうか?
東日本銀行の不正について詳しく考察していきたいと思います。
目次
不正の概要
東日本銀行の不正は、スルガ銀行のようにスケールの大きなものではありません。
おそらく、東日本銀行のニュースを見た日本全国の銀行員の中には「自分もヤバいのでは」と考えた人も多いのではないでしょうか?
それほど、スケールの小さな、やろうと思えばすぐにでもできるような不正のオンパレードなのです。
主な不正としては、以下の3つの不正を挙げることができます。
それぞれの不正の概要について詳しく解説していきます。
根拠不明の手数料の設定
東日本銀行は、根拠がよく分からない手数料を設定していたことが指摘されています。
東日本銀行の全83店舗のうち69店舗で、根拠不明の手数料を受け取っており、その手数料について顧客への説明がなかったり、種別が不明な手数料が合計で997件、4億6000万円に達していたと報道されています。
一件あたり、約46万円もの手数料を取っていた計算になりますので、おそらく事業向けの高額設備資金融資の際に、適当な名目をつけて、手数料を取っていたものと思われます。
お金を借りる人というのは、高額の融資になると、手数料などを気にしなくなる傾向にあります。
このため、後述する、営業実態のない営業所設立資金融資の際に不透明な高額手数料を設定し、融資を行なっていたものだと筆者は個人的に思います。
なお、不透明な手数料は、自治体などと商品内容を協議して決められている制度資金融資にも設定されていたと報道されています。
制度資金は、どこから借りても、同じ制度であれば、金利などは同じ条件で融資を受けられるものですが、おそらく、東日本銀行で借りた場合のみ、融資実行後の顧客への融資金の振込金額が少なかったものと思われます。
これは、他行との比較において、東日本銀行が決定的に信用を失う行為だと思います。
営業実態のない営業所設立資金融資
さらに、顧客に営業実態のない営業所を設立させ、その不動産購入資金などの融資を繰り返し実行していたことも報道されています。
実体のない営業所を通じて企業に融資したことにして、営業成績を上積みしていたとされています。
企業実体のない営業所をつくって融資したのは約2年間で総額37億円で、そのうち7億4500万円が焦げ付いたとのことです。
この不正に関しては耳の痛い銀行員は必ず存在するはずで、特に現在支店長クラスになっている50代くらいの銀行員には珍しい話ではないと思います。
バブル崩壊まもなくの時代までは、銀行がそこそこ業況のよい企業の社長に、使いもしない工場や営業所を作らせて、設備資金を融資するというようなことはよくある話でした。
筆者も銀行員時代に、そのような不要な設備投資の返済に困窮し、資金繰りの悪化した企業を何社も見たことがあります。
東日本銀行も、この融資によって、7億4500万円もの焦げ付きが発生していますので、おそらく、この融資の返済ができずに経営が傾いたり、倒産した企業が存在しているはずです。
銀行側の不正ばかりがフォーカスされていますが、このような不正が行われることによって、会社を倒産させてしまうという事実にも目を向けなければならないと思います。
歩積み両建て
さらに、融資金から預金を確保する、歩積み両建てという不正も報道されています。
東日本銀行は、取引先に必要以上の額を融資したうえ、一部を東日本銀行に定期預金させる不適切な融資も50店で行われていました。
歩積み両建てが行われたのは358件の計39億円で、全支店の6割超で不正が行われていたことになります。
こちらも日本全国の銀行員の多くに耳が痛いニュースではないでしょうか?
預金のノルマと融資のノルマに追われている銀行員にとって、歩積み両建ては融資も獲得でき、預金まで獲得できるので一石二鳥です。
さらに、多くのケースで、銀行員にとって融資は「貸してやるもの」ではなく、「借りてもらうもの」なのです。
特に基盤の弱い東日本銀行のような第2地銀にとっては、融資とは仲の良い社長のところへ行って、「借りて下さい」と言って頭を下げるものなのです。
このようなお願いを聞いてくれる人を何人集めることができるかどうかで、銀行員の評価は決まると言っても過言ではありません。
企業とすれば、必要ないお金を借りるので、銀行が「そのお金を預金して下さい」といえば、大抵の場合預金してくれます。
ただし、事業資金をそのまま個人預金として預金してしまったら大問題なので、一度現金で引き出し、数日経ったあと、預金として預かり直すというように、実際には多くの場面で歩積み両建ては行われていると思います。
それだけ、「お金を借りたい」という人よりも「頼まれてお金を借りる」という人が多いのが現実なのです。
手数料の話はともかくとして、実態のない営業所の融資や、歩積み両建ての話に関しては、筆者は「近いことはどこでもやってることじゃないの?」というのが実感です。
そして、おそらく金融庁もそのような実態は分かっていますが、東日本銀行の場合には、組織的に行われていたのが問題とされているのだと思われます。
このような、不正を行う人は銀行員の中でも「手段を選ばずノルマ達成に邁進する人」です。
個人で不正を行ったとしても、組織内で処分されるだけか、大きな問題にならずにお咎めなしになっているので、報道されないだけです。
東日本銀行に関しては、組織的に手段を選ばずに数字を伸ばすことが当たり前のようになっていたのだと思います。
では、なぜ東日本銀行は組織的に不正をしてまで数字を追いかける必要があったのでしょうか?
厳しい営業環境とノルマが不正の原因か
このような不正を組織的に行う背景には、地銀を取り巻く厳しい経営環境と、東日本銀行と横浜銀行との経営統合が原因と言われています。
また、銀行は、このような不正をやろうと思えば簡単にできてしまうということも、不正を助長する原因となっているのではないかと思います。
地銀の多くが本業で利益を出せていない
地域経済の縮小、企業の内部留保の拡大、日銀のマイナス金利導入などを原因として、地方銀行を中心として銀行の経営は非常に厳しくなっています。
18年3月期の上場地方銀行80行は6割が最終減益となっており、そのうちの6行は本業で赤字を計上しています。
※地方銀行の苦境と生き残り再編と金融庁の方針から今後の銀行融資の方向性を理解する
さらに、2018年から地銀の大きな収益源であるカードローン融資も即日融資が不可能になるなど、銀行経営は非常に苦しくなっています。
※銀行カードローン問題<まとめ保存版>過剰融資と自主規制の流れ【2017年に社会問題化】
手数料の不正などの小銭を稼がないと収益を上げることが難しくなっている背景が銀行にはあるのです。
横浜銀行との経営統合
このような、厳しい経営環境を背景に、東日本銀行は2016年に横浜銀行との経営統合を行いました。
横浜銀行は地銀の最大の銀行ですので、東日本銀行は経営統合の際に自行を少しでも大きく見せようと、融資量や預金量や収益を大きくしようと、過剰なノルマを設定したものと考えられています。
ノルマは現実を見ずに経営側にとって必要な利益ベースでやってくる
筆者の経験では、ノルマは経営側が「いくらの利益が欲しい」という考えの元で決められています。
普通、ノルマというのは、これまでの売上の推移や、市場動向などを考慮したうえで決められるのではないでしょうか?
しかし、完全に上意下達の組織である銀行に関しては違うのです。
経営側がいくらの収益が欲しいと決めたら、その収益が達成できるようにノルマが各支店、各行員に割り振られます。
ノルマの達成によって、営業推進の役員は頭取に、営業推進の担当は役員に、支店長は本部に、行員は支店長に、それぞれ評価される仕組みになっているので、割り振られたノルマは常識的に達成不可能なものでも、達成する手段が明示されていなくても、達成すべく邁進するものとなってしまっているのです。
手段を選ばずノルマ達成に走る銀行の行為は、このような銀行のノルマ決定と評価のプロセスを原因として起きているというのが、筆者が考える不正の原因です。
融資は創ることができる
本来、融資とは需要がある所に生まれるものです。
例えば、会社が儲かっているから、利益拡大のために新工場を設立したいとの需要があればそこに融資は生まれます。
しかし、需要がない場合には銀行が需要を無理矢理にでも創るのです。
会社の社長に「必ず儲かるし、資金は銀行が用意するから新工場を設立しましょう」とか「御社くらいの会社はもっと立派な本社ビルを建てるべきだし、それが会社の信用に繋がる」などと説得し、融資をしてしまうのです。
おそらく、東日本銀行の営業実態のない営業所の融資も「信用に繋がる」「使わなくても不動産価格の上昇で利益が出せる」などと、経営者をそそのかしたのではないでしょうか?
このようにして、ノルマ達成のために銀行は無理矢理需要を作り出し、融資を実行します。
借りた企業が、返済困難になった後、当時の担当は転勤になっていないというように、非常に無責任な構造になっているのです。
小さい銀行は預金と融資の両方のノルマがある
小さい銀行になると、営業担当に預金と融資両方のノルマがあります。
このような時に歩積み両建てを活用しているものと考えられます。
大型銀行になると、預金のノルマなど存在しません。
会社の決済用口座、給与振込、年金振込などで、黙っていても預金は集まるためです。
しかし、小さい銀行は黙っていても預金は集まらないため、定期預金などで預金を集める必要があり、さらに融資のノルマがあります。
普通の企業で言えば、仕入担当のバイヤーと販売担当を一緒にやらされているようなものですので、簡単に預金ノルマをこなすことができる歩積み両建てに走ってしまうのでしょう。
構造そのものに無理があるため、無理を達成しようとするために不正が生まれてしまうのだと思います。
銀行の優越的地位の濫用はよくあることか
銀行の不正の原因として「優越的地位の濫用」ということが度々挙げられます。
優越的地位の濫用とは、銀行が債権者という優越的な地位を利用して、債務者に不利益を被らせることを指します。
東日本銀行の不正の件は優越的地位の濫用に当たるかどうかは分かりませんが、銀行は顧客に対してどのように優越的地位をもって接しているのでしょうか?
銀行員は困ったらメイン先の社長のところに駆け込む
銀行員の特性として、ノルマに困ったらメイン先企業の社長のところに駆け込むのは事実です。
そのため、メイン先企業の社長やその家族には、ありとあらゆる銀行の商品が設定されていることがよくありました。
カードローン、積立、クレジットカード、保険、投資信託などなど、銀行員のノルマとされるものが全てセットされているのです。
優越的地位の濫用とは、極端に言えば「銀行の依頼を断ったら融資取引を継続できない」という地位を利用することです。
中には、人がいいばかりに銀行員の様々なノルマに答えてる人もいますが、このような人も腹のなかでは「嫌な顔をして銀行の機嫌を損ねるのが怖い」と考えていたとすれば、これは優越的地位の濫用だと思われます。
一方、社長の中には「お願いに来る銀行員はかわいい」と考えている人もいますので、銀行が仲の良い社長に対して優越的地位を濫用しているかどうかは微妙なところです。
ちなみに筆者は、お願いに行くのは好きではなかったため「前の担当は、ことあるごとに来たのに、君は全然来ない」と怒られたことさえありました。
以前は、金融商品を販売していた事例も
最近は金融庁の指導によって規制されましたが、以前は融資先企業や社長や家族に対して、リスクの高い投資信託や保険商品を販売していたという事例は数多くありました。
酷いケースになると、銀行が融資をしたお金から投資信託を買わせていたような話も聞いたことがありますので、ここまで行くと完全に優越的地位の濫用と言えるでしょう。
現在は、事業資金融資先に対する金融商品販売に関しては基本的に銀行は自主規制を行なっていますので、ここまで露骨な優越的地位の濫用は行われてはいません。
銀行に対する信用を逆手にとっている現実
不正がなぜ起こるのかといえば、優越的地位の濫用というよりも、「銀行が言うから安心」という信頼を逆手にとっているためだと思います。
理由不明の手数料などは最たる例です。
よく分からない手数料が融資金から控除されていても「銀行に間違いがないだろう」ということで、深く追求せずに、顧客は支払っているのです。
お金はどこから借りても、預けても同じ商品ですので、銀行が売っているのは信用です。
その信用を逆手に取って不正を行っているのが実態だと思います。
優越的地位がないから不正が発生する
地域金融機関にとって、融資先に対する優越的地位などもはや存在しないというのが、筆者の実感です。
先ほど述べたように、銀行は頭を下げてお金を借りてもらっています。
それほど融資によって、収益を生み出すことが難しい時代だからこそ、不正をしなければ収益を上げることができないのだと思います。
まとめ
東日本銀行の不正のようなことは報道されていないだけで、様々な金融機関で行われていると思います。
何となく「悪いことをしている」という部分ばかりが報道されていますが、このような不正のために倒産するような企業も存在していることに注意すべきだと思います。
銀行が何と言おうと投資の判断は自分で行う、不明な点は理解できるまで質問するなどということを徹底するようにしましょう。
銀行が信用されている原因の1つとして、「銀行は潰れない」と思われていることです。
しかし、銀行が潰れない時代は終わり、今、金融機関は最も経営環境が厳しい業種の1つとなりました。
銀行の優越的地位はなくなり、顧客に優越的地位がありますので、最も信用できる銀行を選ぶようにしましょう。