法人でも「急に取引先から入金が遅れると連絡が入った」とか「今日中にお金を用意しないと手形が不渡りになってしまう」など、急にお金が必要になったときには、即日で融資を受けたいところ。
しかし、基本的には法人が銀行から即日融資を受けることはほぼ不可能です。
銀行の法人審査は様々なプロセスが伴うためです。
では、銀行の法人融資はどのようなプロセスで融資が行われるのでしょうか?
また、法人が即日に近いスピードで融資を受けたい場合には、どのような手続きを行うべきでしょうか?
目次
銀行の法人融資の即日実行は可能か?
法人が銀行から即日融資を受けることはほぼ不可能であると考えておきましょう。
しかし、事前にいつお金が急に必要になってもいいように準備している場合には、法人も即日融資を受けることも可能です。
銀行で法人が即日融資を受けることは基本的には不可能
今まで一度もその銀行と融資取引を行ったことがない法人が、銀行から即日融資を受けることは不可能です。
業況のよい会社は、銀行の渉外担当者がやってきて「御社なら確実に融資が出ます。早く融資が出せますのでお金を借りてください」と営業をかけてくることがあります。
しかし、いくら銀行の渉外担当者が「早くお金を融資する」と約束したとしても即日でお金を借りることは不可能です。
銀行の法人向け融資においては「確実にお金を借りられる」からといって「その日のうちにお金を借りることができる」とは別問題です。
極度枠を作成している場合は可能
法人が取引のある銀行から即日で融資を受けることができる方法が2つだけあります。
その1つが事前に銀行に極度枠を作成している場合です。
極度枠とは?
極度枠とは、銀行に「〇〇万円までならお金を借りることができる」という枠を作ることです。
この枠を作成しておけば、いつでもその極度枠=限度額の範囲内で、法人でも即日で融資を受けることができます。
ただし、この枠の作成には当然審査があります。
銀行が「この会社であれば○○万円まで融資をしてもよいだろう」という場合のみ、極度枠を作成することができます。
極度枠はいつでもお金を借りることができる枠であるため、審査はかなり慎重に行われます。
そのため、極度枠の作成の審査自体に2~3週間程度の時間が必要になります。
手形 当座貸越 割引手形など
極度枠には短期借入金である、手形貸付や、割引手形限定の枠、比較的長期借入金に近い当座貸越の枠などを作成することができます。
極度枠は1つの借入の種類につき1つの枠しか作成することができません。
極度枠を作成しても、会社の業況の急激な悪化により枠を閉鎖されてしまうこともあることはリスクとして理解しておきましょう。
コミットメントラインを作成することで可能
もう1つがコミットメントラインを作成している場合です。
銀行との間に「○○万円までなら審査なしで融資可能」という契約を期限を設けて締結することをコミットメントラインといいます。
コミットメントライン契約を事前に銀行と締結している場合にも審査なしで即日で銀行から融資を受けることができます。
ただし、コミットメントラインを締結することができるのは、それなりの規模がある大企業だけであり、中小企業でコミットメントラインを契約できるのは、年商10億円以上ある中堅企業だけとなっていることが一般的です。
また、コミットメントラインは金利とは別に手数料が発生し、限度額の中でお金を借りない部分に関しては、別途手数料を支払う必要があります。
このため「いざというときのためにコミットメントラインを契約する」というケースでは必要もない手数料がとられてしまうことになるため、無駄な経費が発生してしまうことになります。
コミットメントラインは契約期間内は銀行も融資に応じる義務があるため、確実に審査なしで融資を受けることができるというメリットがありますが、継続的に銀行から融資を受けている企業でないと向かない方法といえるかもしれません。
極度枠にしろコミットメントラインにしろ、一度審査に通過してしまえば、銀行からお金を借りるたびに要求される必要書類がないうえに、面倒な契約書の記入も必要もありません。
もちろん審査なしで融資を受けることができます。
事前準備をしておけば以上2つの方法であれば法人でも銀行から即日融資を受けることができます。
しかし、これらの準備をしていない法人が銀行から即日融資を受けることは不可能です。
銀行で法人が即日融資を受けることができないわけ
なぜ、個人のカードローンでは即日融資に対応できる場合もあるのに、法人は銀行から即日融資を受けることができないのでしょうか?
※2017年に銀行のカードローン貸付が社会問題化しましたので、現在は個人向けカードローンでも即日融資できる銀行は減りました。
それは銀行の法人向け融資はすべて人間の目で行っているということと、審査のプロセスが個人向け融資よりも複雑であるということに起因しています。
初めての取引には企業審査がある
銀行が初めて取引を行う企業には、企業そのものの内容を審査する企業審査という審査を融資に前に行わなければなりません。
主に決算書などの資料から企業の業況を審査し、その企業の格付けを決定します。
ここでまず「取引を行ってもよい企業かどうか」を審査し、取引を行ってもよいと判断した場合のみ、融資案件の審査に進みます。
融資金の返済さえあればよいわけではない
銀行が法人へ融資を行う際には、お金を返済できるからよいという目線では審査を行いません。
ここが個人向けの融資との最も大きな違いです。
銀行は融資を行ったことによって、企業の将来がどのように成長できるのか、業況が回復できるのかなどを審査します。
個人向けカードローンのように、返済に問題がなさそうという理由だけで、必要もないお金を融資するようなことはありません。
「融資によってその企業の将来がどうなるのか」という審査は人間の手で行います。
個人向けカードローンのように「回収できるかどうか」だけが審査の目線であれば、コンピューターによるスコアリング審査で十分ですが、法人向けの審査はこのようなわけにはいきません。
この、審査に対する目線の違いが法人向け融資に時間がかかる理由のひとつです。
初めての取引時のプロパー融資はほぼ不可能
初めてその銀行と取引する企業に対しては、銀行にとってまだ信頼関係を構築できていない状態ですので、プロパー融資は行いません。
プロパー融資とは保証協会の保証を付けない融資で、銀行内部で審査が完結するため審査の時間が比較的に短い融資です。
初めての銀行と融資取引を行う企業はプロパーで融資を受けることができないため、素早く審査を完結させることができないのです。
信用保証協会の審査がある
初めて銀行と融資取引を行う企業などの銀行から信頼を得ることができていない企業は、プロパー融資を受けることができませんので、信用保証協会の保証を付けて融資を受けることが一般的です。
このため、信用保証協会の保証審査の時間も必要になります。
通常、信用保証協会の保証審査は3日~1週間程度の時間がかかってしまいます。
また、銀行は信用保証協会の保証審査を通過してから銀行内部での審査も行い、この審査も3日~1週間程度の時間がかかってしまいます。
つまり、企業審査(1~2週間)→信用保証協会の保証審査(3日~1週間)→銀行の融資案件の審査(3日~1週間)程度の時間がかかってしまうのです。
銀行から信頼を得ることができていない企業は、審査にこれだけのプロセスが必要になってしまうため、融資までに時間がかかってしまうのです。
必要書類の数が多い
また、法人が銀行から融資を受ける際には契約時に必要になる書類も膨大です。
- 商業登記簿法本
- 法人の印鑑証明書
- 納税証明書
- 代表者の印鑑証明書
などの公的書類が必要になり、これらの書類を用意するだけで、法務局、市区町村役所、税務署などを回らなければならず、契約手続きにも時間がかかってしまいます。
制度資金には自治体の審査も加わる
地方自治体は中小企業の支援のために制度資金を用意しています。
制度資金は、地方自治体・銀行・信用保証協会の3者が関係する融資です。
3者や地域の経済団体関係者などで話し合った融資制度(金利・返済期間・融資限度額など)を地域の中小企業に貸し付ける融資ですが、制度資金を利用すると、地方自治体の審査も加わります。
制度資金は、信用保証協会が保証し、銀行が融資し、金利や保証料を地方自治体が補助するという仕組みです。
このため、銀行と信用保証協会の審査に加え、地方自治体も制度の趣旨に合致した企業や資金かという審査を行うため、この審査にも時間が3日~1週間程度かかってしまいます。
急いでいるならノンバンク融資の活用も
急いでお金が必要という場合にはノンバンクの融資の活用も視野に入れたほうがよいかもしれません。
ノンバンクの融資は早ければ即日融資に対応してくれますが、法人がノンバンク融資を受けるということにはリスクも伴うため注意が必要になります。
早ければ即日融資
ノンバンクの審査は「回収可能かどうか」だけを主な基準で行っているため、融資までの時間が非常に速いという点が大きな特徴です。
早いところでは申し込んだその日に融資を行ってくれますし、平均的には3営業日程度で融資に応じてくれます。
まさに、急な資金繰りには強い味方となってくれます。
銀行と比較して審査が甘い
銀行の審査では、回収可能かどうかだけではなく、その企業の将来の成長なども重要な審査の基準です。
しかし、ノンバンクの審査基準は「貸したお金が回収可能かどうか」だけです。
会社の利益から返済不可能でも、連帯保証人や担保から回収可能と判断できれば融資には応じてくれる傾向にあり、銀行と比較してかなり審査が甘いという点が特徴です。
担保や保証人が必要な場合も
審査の基準が回収可能かどうかだけですので、業況の悪い会社は不動産の担保や、連帯保証人の信用力で融資を受けることができます。
銀行では、いくら担保や有力な連帯保証人がいたとしても会社本体に返済できるだけの売上や収益がなければ融資に応じてもらえませんが、ノンバンクは担保や連帯保証人から回収可能と判断できればすぐに融資に応じてくれます。
ノンバンクはリスクもある
素早く簡単に融資を受けることができるノンバンクは確かに急いでお金が必要な時には力になりますが、法人がノンバンクを利用するということには大きなリスクも伴います。
①金利が高い
銀行の法人向け融資の金利は1%半ば~3%程度です。
しかしノンバンクの金利は15%~18%程度の高金利です。
これだけの高金利になってしまうと、支払利息という費用が増加して確実に会社の収益が圧迫されてしまいます。
②銀行からの信用が下落
銀行にノンバンクを利用しているということがわかってしまうと、銀行からの信用は失墜します。
銀行はノンバンクからの借入がある企業に対して「お金に困って最後の手段をとった」と判断する傾向にあるため、そのような企業の格付けを下落させてしまうこともあります。
以後は、銀行から融資を受けることが難しくなってしまうことがあります。
銀行からノンバンク融資について聞かれた際には「〇月の月末にどうしても急にお金が必要になった」などのノンバンクから融資を受けたことの合理性をしっかりと説明できるようにしておきましょう。
また、できれば、決算となる前には、ノンバンクの融資を返済し、ノンバンク融資は短期間だけの利用にしておいたほうがよいでしょう。
まとめ
銀行と事前に極度枠の作成やコミットメントライン契約を結んでいる企業でない限り、銀行から法人が即日融資を受けることは不可能です。
銀行の法人への審査は人間の手で行い、単純に回収できればよいというものではないためです。
また、銀行の審査には企業審査と案件審査があり、さらにそこに加えて信用保証協会の審査と、地方自治体の審査も加わることもあるため、審査のプロセスが多いことも即日融資が不可能な理由の1つです。
どうしても即日もしくは数日でお金を借りたいという場合には、ノンバンクという選択肢がありますが、ノンバンクは金利が高い、銀行からの信用が下落するというデメリットがあるため、できれば必要になる数日だけお金を借り、すぐに返済といような短期間の利用だけにとどめておいたほうがよいでしょう。