銀行が企業などに融資を行う際には、ただ「返済できるから」とか「担保や保証人がいるから回収に問題ない」という理由だけで融資には応じてくれるわけではありません。
融資には「公共性」「安全性」「収益性」「流動線」「成長性」の5つの原則があります。
この5つの原則を満たしていると銀行が判断できる事業者が融資を受けることができます。
この記事では、融資の基本である5つの原則を解説するとともに、融資を受けやすくなる申込とはどのようなものなのかを解説していきます。
目次
公共性の原則
公共性の原則とは、銀行の融資は健全な社会の発展に役立つものでなければならず、世間から非難を受ける目的へはお金を貸さないというもので、主に資金使途を確認する際に利用される原則です。
公序良俗に反する融資はしない
公共性の原則とは、公序良俗に反した資金使途へ融資を行うことができないということです。
公序良俗とは、社会の一般的秩序および善良な風俗(社会の一般的道徳観念)のことを示し、要するに社会の一般的な道徳観念に照らして問題だと思われる資金使途へは融資を行わないということです。
公共性の原則に反する使途の事例
事業資金で公共性の原則に反する資金使途で代表的なものとして、「風俗業」「ラブホテル」などを挙げることができます。
これらの業種は公序良俗に反しているとみなされるため、融資によって事業を始めることができない業種です。
個人向けのカードローンで、ギャンブルのお金を借りることが難しいという理由は、この公共性の原則に反しているからという理由が最も主な理由です。
安全性の原則
銀行が融資した資金を確実に回収することができるということが安全性の原則です。
つまり、返済能力と返済意思がある人に対してしか融資を行わないということです。
安全性の原則が守られているかどうかは、返済能力と保全能力で判断します。
返済能力
返済能力とは、貸したお金を現金で返済できるかどうかを示す基準となっています。
返済能力を算定するには以下の2つの方法があります。
①返済原資を求める
返済原資は損益計算書から簡単に求めることができます。
返済原資=税引き後当期純利益+減価償却費
税金を支払った後の利益と、非現金支出である減価償却費を合計すれば、会社が手元に残しておけるお金を算出することができます。
返済原資が500万円であれば、その会社はお金を借りても年間500万円まで返済にまわすことができるという考えです。
②キャッシュフローから
上記の返済原資では、売掛金などのまだ現金化していない資産が加味されていません。
もしかすると入金にならないままに不良債権となってしまう売掛金もあるかもしれません。
返済原資は返済能力を求めるものとして、少しざっくりしすぎています。
そこで、キャッシュフローから返済原資を求めるほうがより正確に安全性を確認することができます。
営業活動によって現金がプラスとなったのか、マイナスになったのかを計算する営業キャッシュフローがプラスとなっている場合には、その金額までは、確実に営業活動で現金をプラスにできたということですので、より正確に返済能力を知ることができます。
毎月の現金の流れを追う資金繰り表などを作成し、その資料を銀行に提出すれば、銀行は「この経営者は返済に対する意識が高い」と好印象も持たれるようになるでしょう。
保全能力
保全能力とは、もしも現金で融資金が返済できない場合には、担保や保証などで回収可能かどうかという能力です。
最も保全能力が高いのは信用保証協会の保証です。
信用保証協会の保証さえつけば銀行は確実に融資金を回収できるため、最初に銀行と取引を行う際には、信用保証協会の保証付き融資となることが一般的なのです。
そのほか、不動産を担保に融資を行うこともあります。
銀行は、現金での返済を大前提としているため、審査の際には保全能力よりも回収能力の方が審査のウェイトが高くなります。
また、返済能力に問題ない企業はたいてい信用保証協会の保証を得ることができます。
なお、ノンバンクの不動産担保ローンの審査が銀行融資よりも甘いのは、融資5原則のうち、安全性の原則しか重視しておらず、安全性の原則の中でも保全能力しか重視していない「回収できればよい」という観点に立っているためです。
安全性の原則は自分で判断できる
安全性の原則は、返済原資やキャッシュフローから求めることができるため、自社の決算書を見れば自分でいくらの返済までが可能かを知ることができます。
融資申し込みの際には、返済原資やキャッシュフローから年間いくらの返済までは可能なのかを自分で算出し、その金額の範囲内に年間返済額が収まるような申込を行いましょう。
審査担当者のイメージもよくなりますし、審査もスムーズに進みます。
返済能力がない場合は将来の計画で
赤字企業の場合には、安全性の原則を守れないことになります。
赤字であれば返済原資もありませんし、キャッシュフローも赤字になるためです。
しかし、このような企業でも融資を受けることはできます。
そもそも、不景気の時に融資を行い、企業を支援することも銀行の役目です。
このような場合には、いつ業況が回復するかの計画を根拠を立てて立案し、将来のキャッシュフローや資金繰り表が黒字になり、返済に問題がないという計画書を提出しましょう。
計画書に合理性があれば、今は赤字でも将来的には返済に問題ないという判断する場合には融資受けることができます。
計画によって、将来の安全性を確保することが重要です。
収益性の原則
収益性の原則とは、融資量と金利によって銀行が収益を上げることができる融資かどうかの原則です。
要するに儲からない企業には融資を行わないということです。
これは、企業が受けることができる融資量や金利に関係します。
格付け
銀行は取引先ごとに格付けを決定し、その格付けに応じた融資限度額や金利を決定しています。
業況がよい会社は融資限度額が高く、金利は低くなります。
金利が低くても高額の融資を行えば銀行は利益を確保することができるのです。
また、業況がよくない会社は融資限度額を低く、金利を高く設定しています。
後述しますが、銀行にとってリスクの高い会社は融資量が多くなれば多くなるほどコストが大きくなります。
このような会社へは少額融資で高金利という形になります。
貸倒引当金
銀行は融資を行っている企業のリスクに応じて貸倒引当金を計上しなければなりません。
リスクの高い取引先には、融資量の50%もの引当金を積み立てることもあります。
つまり、リスクの高い企業へ融資を行ってしまったら、貸倒引当金の費用負担も大きくなってしまうのです。
例えば、1,000万円を金利5%で融資した際の利息収入は年間50万円ですが、この会社の業況が悪化して50%の貸倒引当金を計上する場合には、費用は500万円にも上ります。
このような企業へ融資を行っても赤字ですので、リスクの高い会社へは少額融資しか行わずに収益性の原則に合致できるような経営を行っているのです。
信用保証協会の融資は収益性の原則をフルカバー
銀行は信用保証協会の保証付き融資へは貸倒引当金をごくわずかしか計上していません。
融資先にもしものことがあっても融資残金の一部もしくは大部分を信用保証協会が保証してくれるためです。
このため、信用保証協会の保証付きの融資では、企業の銀行内部の格付けに関係なく、信用保証協会が了承した融資金額までは比較的低利で融資を受けることができるのです。
また、あらかじめ金利などが決まっている地方自治体の制度資金も、どのような格付けの会社でも同金利で融資を受けることができるため、収益性の原則に関係なく低利で融資を受ける商品であるといえます。
やはり、銀行からの信用が薄い企業においては、信用保証協会の保証付き融資の方が借りやすいと収益性の原則からも言えることです。
流動性の原則
銀行は預金者から預かったお金を融資して運用しています。
銀行は預金者から預金の引き出しの請求があったらすぐに応じなければなりません。
この際に預金をすべて長期間の融資に回していたら預金の引き出しに応じることができないため、ある程度預金と貸金の流動性を勘案して融資を行わなければならないという原則です。
昔は短期の方がお金を借りやすかった
流動性という観点から見れば長期資金よりも短期資金の方が銀行にとって流動性は高まります。
そのため、景気がよかったバブル崩壊前などは長期の資金よりも短期資金の方が審査に通過しやすいという時代が確かにありました。
今は流動性の原則は気にする必要はない
今は、銀行は融資を行う取引先がなく、お金が余っている状態です。
このため預金者から預金引き出しの請求があってもすぐに応じることができるため、長期資金の融資を銀行が嫌がるということは全くありません。
銀行が金余りのこのご時世に流動性の原則を気にする必要はないでしょう。
長期とか短期を最初から決めて申し込むべきではない
流動性の原則を気にする必要がない以上、長期で借りたいとか短期で借りたいとか気にする必要はありません。
銀行が最適な融資期間を設定してくれますし、今は、ほとんどの融資が信用保証協会の保証付きの長期資金で行われます。
返済が一括である短期資金の方が、返済に対する懸念が高まり、むしろ安全性の原則を脅かす可能性もあります。
成長性の原則
銀行は融資によって、企業と地域経済を発展させるという社会的な責務を負っています。
したがって、融資した資金が融資先の成長と発展に貢献し、さらに銀行自身の成長と発展にも役立つものでなければならないという原則です。
不要な資金は融資しない
成長性の原則とは、その企業にとって、必要な資金を融資するからこそ企業の発展につながるという考えですので、不要な資金を融資することはありません。
いくら、安全性の原則に鑑みて高額な融資を行っても問題ないという企業であっても、不要な借入は返済によるキャッシュフローの悪化を招きますし、利息負担によって収益も悪化させるためです。
企業の発展にとって必要と判断される融資を行わないのが基本です。
そのため、現金収入がある飲食業などはいくら収益があっても運転資金を借りることが難しいのです。
運転資金を希望する場合
運転資金の借入を希望する場合には、融資によってその後会社の資金繰りがどのようになるのかの予測の資金繰りを立てることが重要です。
運転資金を借りて、手元に融資金がある間は会社の運転を行うことができますが、融資金が枯渇した後は、返済金の負担だけがのしかかるためです。
そのため、今後、売上と資金繰りがどのように変化するのかの予測を立て、売上が増加しているという予測を銀行が納得できる根拠を付けて作成することが重要になります。
設備資金を希望する場合
バブル崩壊前は、無茶な投資計画に対して銀行が融資を行い、結果として倒産となってしまったという事例が数多くありました。
そのため、設備資金の借入を希望する場合には、その投資による事業の見通しを立てることが非常に重要になります。
新たに工場設備を建築するのであれば、当該設備からどのくらいの売上増加を見込み、どのくらいの運転資金が増加し、収益はどのくらいを見込んでいるのかという予測が重要です。
さらに、設備投資を行なって、実際に収益となるまでには通常は時間がかかるため、どのくらいの期間で投資効果が表れるのかの計画も銀行が納得できるようにしなければなりません。
いずれにしても、銀行が「成長性が見込める」と納得できる計画を立てることが重要です。
まとめ
銀行が融資の際に重視するには5つの原則があります。
公共性に合致した資金使途で、安全性が見込まれ、企業が成長できるという案件であれば銀行が融資に応じてくれる可能性は高いといえるでしょう。
なお、信用保証協会の保証付き融資であれば、収益性の原則は気にする必要はありません。
銀行が融資先に困窮し、銀行の本業の儲けである業務純益が下落の一途をたどっているこのご時世では流動性の原則を気にする必要もありません。
資金繰り表やキャッシュフローから返済に問題ないことを示し、将来の成長を根拠を付けて銀行に説明することができれば、銀行から融資を受けることができる確率は決して低くないでしょう。