借入は借入本数が多ければ多いほど毎月の返済負担が大きくなっていくものです。これは個人でも法人でも変わりません。
個人であればカードローンやフリーローンなどで一本化を行うことができますし、借り換え専用ローンなども様々な銀行で取り扱いがあります。
目次
借入の一本化は銀行から見てプラスの印象にはならない
一般論として、法人の借入の一本化を行うということは銀行から見てマイナス印象です。
法人の借入審査は個人ローンのように単純に個人信用情報などを審査して短期間で行うというようなものではありません。過去の実績、今後の見通しなどの審査を行い、その資金が当該事業に必要かつ、売上の見込みが立つからこそ融資を行うためです。
このため、既存の借入金が返済できなくなってしまうということは、事業に対する見通しが甘かったか、景気動向などによって売上が減少して返済ができなくなってしまったのかどちらかです。
借入の一本化を行って返済が楽になったとしても事業に対する見込みや見通しが持てない状況に変わりがなければ当該企業は銀行にとって延命させているだけになってしまいます。
このため、たとえ借入の一本化を行うことができたとしても銀行にとってはマイナス印象となり、格付けが下がったり信用が落ちたりするのが一般的であると考慮に入れておきましょう。
借入の一本化の他に返済を楽にする方法
借入の一本化を行う他に返済を楽にする方法としては条件変更手続きというものがあります。
条件変更手続きというのは、既存の借入金の返済期間を延長したり、元金の返済を一定期間据え置く方法です。
期間の延長
例えば金利2%、返済期間5年、借入金額1,000万円の借入金の返済期間を3年延長すると毎月の返済額は175,278円から112,809円になり、毎月の返済額は6万円以上楽になり、その会社の資金繰りは6万円改善することになります。
この場合には収支計画の中で、毎月6万円返済額を軽減すれば、会社の運転が正常に行われるという見込みが立たなければ変更には応じてもらえません。
元金返済の据え置き
借入金の返済を一定期間据え置き、据え置き期間の間は利息だけ支払っていくという方法です。
この方法は景気動向などの突発的な事情によって、一定期間返済が難しくなった場合に使用される方法です。
元金据え置き後には売上の回復が見込める場合に採られる方法で、こちらも売上の予測が一定期間に回復するという見込みがない限りは銀行は応じません。
条件変更は格付け下落する
期間の延長や元金の据え置き期間を設けるように条件変更手続きを行うと、銀行は当該債権を条件緩和債権とします。
条件変更を行った先は「条件変更先」となり、条件変更先は要注意先と見做しますので、格付けが下落します。
※銀行員が明かす銀行の企業格付けと債務者区分と融資。金融検査マニュアルとは?
格付けが下落すると、金利が高く設定されたり、新たに融資を受けにくくなってしまいます。また、一般的には条件変更を行った先は最低でも正常に1年以上返済を続けないと新たな融資を受けることはできません。
さらに、銀行にとっては業況を監視する対象となりますので、銀行員が定期的に訪問したり、定期的に業況に関する様々な資料の提出を求められることもしばしばです。
これらの理由から企業経営者が条件変更を避けようとして、企業は無理をしてでも既存の借入金の返済を続けようとしてしまいます。
では、どうしても返済に困った時には条件変更以外でどのように対処すればよいのでしょうか?
どうしても返済に困ったら銀行は対応をしてくれる
リーマンショック以降、国は資金繰りに困った企業を救済するための具体的な措置として、『中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(中小企業金融円滑化法)』を制定しました。
この法律では債務の弁済に支障があったり、そのおそれがある企業に対して返済のリスケジュール(返済の猶予)等の努力義務を金融機関に義務付けました。
金融機関は返済に支障のある企業を積極的に救済する義務が課せられたため、資金繰りに苦しい中小企業は銀行に返済の猶予などを申し出れば銀行はそれに対して何らかの対策を講じなければならず、ひと昔前のように、立ち直る見込みのない企業は倒産するしかないというような状況は改善されました。
この法律は平成21年12月に施行され、平成25年3月末に終了しましたが、現在も中小企業の返済を銀行が助けなければならないというこの方針は変わりません。
返済に支障がある場合には銀行は返済の猶予や据え置きや一本化など何らかの策を講じてくれます。
借入の一本化の方法
複数の借入金を一本化する方法としてはどのような方法があるのでしょうか?
自己資金で返済後に一本化
最も支障なく一本化できる方法が、一度既存の債務を自己資金で返済し、その後に自己資金で返済した分も含めて新規で借入れるという方法です。
例えば500万円、200万円、300万円の借入があり、1,000万円に一本化したい場合です。
この場合には自己資金でまず1,000万円の返済を行います。その後、1,000万円の借入を新規で行うという方法を採用します。
この方法であれば、すでに自己資金で既存の債務を返済した後に新規の借入を行うため、期限の延長にはならず、格付けも低下しません。また、1,000万円+αで新規の融資を受けることも可能になります。
銀行や保証協会が最も応じやすい借り換えになります。
ただし、当然ながらこの方法は手元に1,000万円の自己資金がなければ行うことができない方法です。
単純に複数債務の一本化
単純に複数の債務を1本化するという方法です。この方法は信用保証協会の保証をつけて行うという方法もありますが、民間の保証会社をつけて銀行が行う方法もあります。
民間の保証会社をつけて借り換えを行う方が銀行にとって審査は楽ですし、時間もそれほどかかりませんが、民間の保証会社は保証料がどうしても高くなる傾向にあります。
筆者が銀行員時代、複数債務約1,000万円程度を1本化した際に保証料だけで100万円以上が必要になった人もいました。
このため、できれば保証協会の保証をつけて借り換えを行った方がよいでしょう。
銀行が無保証プロパーで借り換えに応じるというケースは銀行にとってよほど倒産したら大きな損失が発生し、支援を行う必要があると認められる企業以外に行うことはほとんどありません。
信用保証協会の借換保証
信用保証協会の保証制度には、中小企業の複数の信用保証協会の保証付き借入金の1本化等を促進するための、借換保証制度というものがあります。
民間の保証会社をつけて借り換えを行うよりも、金利や保証料を抑えて借入れることができるというメリットがあります。
金利は銀行と借主の間で決まるものですが、一般的にはそれほど高く設定されているものではなく、3%前後となるのではないでしょうか?
セーフティネット保証に該当すれば保証料を低く抑えることができる
借換保証制度は信用保証協会が定めるセーフティネット保証制度を利用することで、保証料を低く抑えることができます。
セーフティネット保証制度とは以下の通りです。
1号:連鎖倒産防止
2号:取引先企業のリストラ等の事業活動の制限
3号:突発的災害(事故等)
4号:突発的災害(自然災害等)
5号:業況の悪化している業種(全国的)
6号:取引金融機関の破綻
7号:金融機関の経営の相当程度の合理化に伴う金融取引の調整
8号:金融機関の整理回収機構に対する貸付債権の譲渡
1号から8号まで、セーフティネット保証制度の指定を受けるためには、さらに具体的な条件があります。
例えば4号の突発的事故の指定を受けるためであれば以下の5つの災害が該当します。
平成28年新潟県糸魚川市における大規模火災
平成28年台風10号による災害
平成28年熊本地震
平成28年鳥取県中部地震
平成27年台風18号等による災害(関東・東北豪雨)
この災害に該当し、当該地域で1年以上継続して事業を行っており、災害等の影響を受けた後の3か月間の売上高等が前年同期比マイナス20%以上の見込みである中小企業者が指定されることになります。
セーフティネット保証の保証料率は概ね1%以内で各自治体の信用保証協会によって定められています。
ちなみにセーフティネットに該当しない借換保証の場合には0.45%~1.9%です。
一般的に1%以下の保証料が適用されるのは業況に問題がない先ですので、セーフティネットに該当する場合は一般保証よりも低い保証料で借換を行うことができます。
期間の延長でも条件変更に該当しない
借換保証は最長10年間まで借りることが可能です。一般的に運転資金は期間が5年~8年程度となっていますが、この点も借換保証の大きな強みです。
例えば借換保証で以下の借入金2本を1本化したとします。
A借入金:残高400万円 残期間4年 毎月元金返済金84,000円
B借入金:残高600万円 残期間5年 毎月元金返済金100,000円
2つの借入金1,000万円を期間10年で借り換えた場合の毎月元金返済額はおよそ84,000円となり、借換によって毎月10万円の資金繰りの改善が見込めます。
この場合、期間10年の借換保証制度を利用したことでA借入金の期間を6年、Bローンの期間を5年延長したことになります。しかし、この場合には、個別のローンの条件変更を行ったわけではないため、銀行にとって条件緩和を行ったわけではありません。
借換保証は銀行にとって条件緩和債権に該当するわけではないため、個別のローンの期間の延長を行った際に下落する格付けが必ずしも下落するわけではありません。条件変更を気にする経営者の方も安心して借換によって返済額の軽減を図ることができます。
審査に通過すれば新たな資金の注入も可能
借換保証は制度上、借換額以上の新規融資を受けることも可能です。例えば上記の事例で言えば、A、B借入金の合計額プラス新規融資分として500万円の計1,500万円の融資を受けることも制度上は可能です。
この場合、期間10年に借りれば1,500万円借りて毎月の元金返済額は125,000円ですので、500万円の新規融資を受けても借換前よりも6万円程度の資金繰りの改善が望めることになります。
ただし、どの企業でも新規の融資を受けることができるわけではありません。新規融資と合わせて借換保証を利用する場合には、一般の借換以上の厳格な審査があり、当該審査に通過し新規の資金注入に合理的な理由があると認められる企業に対してしか新規融資を受けることはできません。
信用保証協会の保証付以外の借入金の借り換えはできない
借換保証は会社の借入金のすべてをまとめることができるわけではありません。借換保証の対象となるのは信用保証協会の保証付きの借入金のみです。
銀行プロパーの借入金や民間保証会社の保証付きの借入金などの借入金をまとめることはできないため注意が必要です。
銀行はよほど銀行にとって救済の必要が認められる会社以外は基本的にプロパーでもおまとめは行いません。
このため、低いコストで借り換えができるのは保証協会の借換保証制度のみです。
むやみやたらに様々なお金を会社名義で借りてしまうと、後からまとめるのもかなり大変になってしまうため、基本的には中小企業は信用保証協会の保証付きの融資を受けておいた方が無難です。
事業計画書の策定が必須
借換保証には事業計画書を策定し保証協会に提出しなければなりません。
保証協会のホームページには既往借入金の状況や、借換による効果、今後の会社経営に対する取り組み方針、経営の実績と見込みなどを記載する様式例があります。
様式例だけ見ると「簡単な書類だ」と思いがちですが、実際にはこの用紙に記入した情報の根拠となる資料も添付しなければならず、この作成がなかなか大変です。
基本的には相談した銀行が作成してくれます。銀行から様々な資料の提出を要請される可能性もありますので、面倒がらずに対応しましょう。
親身になってくれる担当さんを作っておくことがこういう時に生きてくるんでしょうね。