政府系の金融機関の日本政策金融公庫は中小企業への融資を積極的に行っています。
日本政策金融公庫は、銀行などで中小企業向けの融資として取り扱っている信用保証協会付の融資とは別枠で借りることができるため、中小企業にとっては銀行や信用金庫などで取り扱う信用保証協会付の融資と、日本政策金融公庫からの融資の2本立てで資金計画を立てることが出来ます。
目次
日本政策金融公庫とは
日本政策金融公庫とは2008年に設立された財務省所轄の特殊会社です。
教育ローンや農林水産事業者の資金調達支援や中小企業の資金調達支援を行っています。
銀行の信用保証協会付の融資とは別枠
現在、銀行は新規の事業融資先へは信用保証協会の保証を付けて融資を行うことが一般的です。信用保証協会は中小企業へ保証を行う額を2億8,000万円としています。
つまり、銀行から借りようと、信用金庫から借りようと、どこから借りても信用保証協会が保証を行う額には限度があります。様々な融資を保証協会の保証をつけて行ったとしても、総額で2億8,000万円までしか借りることはできません。
この額はあくまでも限度額ですので、会社の規模によっては保証協会が「この会社の限度額は2,000万円まで」などと決める場合もあります。
要するにいかに融資を受ける金融機関を変えようとも信用保証協会付の融資を受ける金額には限度があります。
さらに、銀行はよほど業況がよくない限りはプロパー融資は行いませんので、銀行や信用金庫から融資を受けることができる総額=保証協会が決めた保証限度額と考えた方がよいでしょう。
日本政策金融公庫からの融資は別枠
信用保証協会からの保証限度額を使い切ってしまったとしても、日本政策金融公庫からの融資は別枠です。
そのため、銀行や信用金庫から融資を断られたとしても、まだ日本政策金融公庫から借りることができる可能性が残されていると言えます。
中小企業からの借入は銀行や信用保証協会からの借入と、日本政策金融公庫からの借入の2本立てで考えた方がよいでしょう。
日本政策金融公庫へ融資を申込む流れ
日本政策金融公庫への申込方法
日本政策金融公庫への申込は基本的に来店して行います。面談で詳細な相談を行うと、申込みに必要な書類を指定されるため、申込書と必要書類を用意して後日持参します。
ただし、申込段階で決算書や事業計画書を持参すると、申込み段階でより詳細な相談を行うことができます。
申込に必要な書類は以下の通りです。
- 会社案内、製品カタログなどの参考資料
- 法人の登記事項証明書
- 最新3期分の決算書・税務申告書
- 納税証明書
- 直近の試算表(決算月から半年以上経過している会社)
- 設備投資を行うときは見積書など投資の概要がわかる資料
- 登記事項証明書などの担保の情報が分かる資料
商工会議所でも申込可能
日本政策金融公庫では最寄りの商工会議所で「一日公庫」という定例相談会を行っています。この相談会でも、初期の資金繰りの相談を行うことができ、実際に申込を行うことが出来ます。
その後の申込の流れは来店での申込と同じ流れになります。
また、日本政策金融公庫には小規模事業者経営改善資金(マル経融資)という融資制度があります。
この融資制度は融資を受けたい事業者が商工会議所の経営指導員から事業計画の策定実施の指導を受けて、商工会議所の推薦を得た会社だけが利用できるものです。
金利は1.16%となっており、非常に低利で融資受けることができる制度です。
このように、日本政策金融公庫は銀行を窓口とした信用保証協会と比べて窓口が少ない分、地域の商工会議所と密接に連携しており、商工会議所からの申込を行うことも可能です。
日本政策金融公庫の審査
日本政策金融公庫の審査は甘い?
筆者が銀行員であったころは日本政策金融公庫の審査は甘いというイメージありました。
銀行からの保証協会の保証付きの融資の審査に通過できない人も、その後の日本政策金融公庫の融資を受けることができたケースが散見されたためです。
しかし、実際には審査の基準はそれほど変わらないようです。
ただし、日本政策金融公庫は銀行から資金調達を行うことが難しい中小企業者を助けるという名目があるため、銀行から借りることができなくなった人でも融資を行う傾向にあるようですが、それも湯水のように融資が行われるわけではなく、やはり、融資を行って当該企業の資金繰りを助けることで再生の可能性があるかないかによるようです。
銀行から借りることができなくなった人は事業計画書が重要
銀行からまだ融資を受けることができる事業者が日本政策金融公庫から融資を受けることはそれほど難しくはありません。
銀行に提出している書類である決算書、資金繰り表、売上や受注の状況などを提出することで「返済に問題なく、資金使途や金額にも合理性がある」と認められれば融資を受けることができる可能性が高くなります。
しかし、銀行から借りることができなくなってから日本政策金融公庫から融資を受けようとする場合には、今後の事業計画が非常に重要になります。
日本政策金融公庫からしてみれば、融資を行うことによって本当に再生の見込みがあるのかないのかが非常に重要になります。売上の向上や経費の削減などによって経営の改善の見通しが立たない場合は融資を行っても無駄に時間を稼ぐだけになってしまいます。
もちろん運転資金の融資を受けるということは、当該資金が手元にあるうちは、時間を稼ぐことができるため、時間稼ぎのための資金と言っても過言ではないのですが、時間を稼ぐことによって改善が見込めるかどうかが審査の際には重要になるのです。
このため、事業計画書には見込める限りの真実のポジティブな情報を記入するように心がけましょう。
日本政策金融公庫の融資制度
日本政策金融公庫には以下の融資制度があります。
ここでは代表的な融資制度をいくつかご紹介します。
普通貸付
運転資金、設備資金などの様々な目的でほとんどの中小事業者の人が利用できる資金です。
運転5年以内、設備10年以内で使用することができ、金利は基準金利である2.16~2.55%、担保がある場合には1.16~2.15%の利率が適用されます。
これが日本政策金融公庫における最も基本的な融資制度です。
セーフティネット貸付
売上の減少、取引先銀行の倒産、主要取引先の倒産などの一定の状況下にある企業が利用できる資金です。
経営環境変化対応化資金、金融環境変化対応資金、取引企業倒産対応資金の3つの資金が用意されています。
ここでは経営環境変化対応資金について説明します。
経営環境変化対応資金は、最近の決算期における売上高が前期または前々期に比し5%以上減少している、最近3ヵ月の売上高が前年同期または前々年同期に比し減少しており、かつ、今後も売上減少が見込まれる、最近の決算期における純利益額または売上高経常利益率が前期または前々期に比し悪化しているなど、一時的に経営環境の変化によって業況が悪化しているが、今後は売上の回復が見込める先に対して融資を行う制度です。
融資限度額は4,800万円、運転資金は8年以内、設備資金は15年以内と普通貸付に比べて長期の利用ができます。
金利は基本的な利率は2.16~2.55%です。
ただし、
①雇用の維持または雇用の拡大を図る場合は1.61~1.66%
②次のいずれの要件も満たす場合も1.61~1.66%
- 借入負担が重く、経営の改善に迫られている
- 小企業等経営強化法に定める認定経営革新等支援機関または公庫の経営指導を受けて事業計画書を策定
①②いずれも満たす場合には1.41%となります。
新企業育成貸付
新規で開業を行う人、女性若者シニアが開業を行う場合、一度廃業して再チャレンジを行う人、第二次創業を図る人のための制度も用意されています。
このうち新創業融資制度は無担保無保証の貸付として多くの創業者が利用する貸付金です。
新創業融資制度については詳細に後述します。
生活衛生貸付
日本生活金融公庫の融資制度の中で最も特徴的と言ってもよい融資制度がこの貸付です。
生活衛生貸付とは飲食店営業、喫茶店営業、食肉販売業、食鳥肉販売業、氷雪販売業、理容業、美容業、その他公衆浴場業の生活衛生事業を営む人だけが利用することができる貸付金です。
本資金を利用するためには都道府県知事の推薦書が必要になり、金利も普通貸付よりも低利の融資を受けることが出来ます。
生活衛生貸付は延べ10種類もの制度があるため、生活衛生事業を営む人はまずは日本政策金融公庫へ相談を行ってみましょう。
運転資金は7年以内、設備資金は長いもので20年以内の長期で借入を行うことが可能です。
その他の制度
日本政策金融公庫にはこの他にも様々な融資制度があります。
・前述した商工会議所と連携した「マル経融資」
・政府の地方創生事業であるまち・ひと・しごと創業戦略に貢献する人を対象とした「まち・ひと・しごと創生貸付利率特例制度」
・企業の再建を図る人向けの「企業再建資金」
・次世代エネルギー設備の導入によって環境対策の促進を図る人向けの「環境・エネルギー対策資金」
・社会問題の解決のための事業を営む人向けの「ソーシャルビジネス支援資金」
など、元銀行員の筆者から見ても「おもしろい制度がたくさんあるなぁ」という印象です。
これだけ数が多いと、自社の事業や業況に対してどのような制度が最適かは分かりかねますので、まずは日本政策金融公庫へ(または地元の商工会議所に)相談をしてみましょう。
新創業融資制度
日本政策金融公庫の融資制度の中で、創業時の資金を融資する新創業融資制度は開業時の強い味方として多くの人が利用しています。
新創業融資制度は新規創業時に新規開業資金、女性、若者/シニア起業家資金、再チャレンジ支援融資(再挑戦支援資金)、新事業活動促進資金、食品貸付、生活衛生貸付、普通貸付を利用する際に無担保無保証で利用できる特例措置です。
新創業融資制度の特徴とはどのような点にあるのでしょうか?
無担保無保証
日本政策金融公庫の新創業融資制度は原則的に無担保無保証で融資を行います。
創業資金というものは通常は創業前に融資を行うものであるため、お金を貸す側から見ると当該事業が海のものとも山のものとも分かりません。
つまり銀行にとっては返済が履行されるかどうかが不透明なリスクが非常に高い融資であるとも言えます。
このため民間銀行では創業時の貸付ではほぼ必ず信用保証協会の保証がなければ融資は行いません。
日本政策金融公庫の新創業融資制度では担保も保証人も原則として不要にて貸し付けています。
何の信用力もない新規創業者にとって日本政策金融公庫の新規創業融資制度は強い味方であると言えるでしょう。
新創業融資制度の利用条件
次の1~3の条件をすべて満たしている人が対象になります。
1、新たに事業を始める人、もしくは創業してから税務申告を2期終えていない人
2、次のいずれかに該当する人。ただし、新創業融資制度の貸付金残高が300万円以内の女性については当該要件は対象外となります。
(1)雇用の創出を伴う事業を始める方
(2)技術やサービス等に工夫を加え多様なニーズに対応する事業を始める方
(3)現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で、次のいずれかに該当する方
(ア)現在の企業に継続して6年以上お勤めの方
(イ)現在の企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方
(4)大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上お勤めの方で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める方
(5)産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援事業を受けて事業を始める方
(6)地域創業促進支援事業による支援を受けて事業を始める方
(7)公庫が参加する地域の創業支援ネットワークから支援を受けて事業を始める方
(8)民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方
(9)既に事業を始めている場合は、事業開始時に(1)~(8)のいずれかに該当した方
(日本政策金融公庫ホームページより抜粋)3、事業開始前、または事業開始後で税務申告を終えていない場合は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金がある人。
ただし、以下の要件に該当する場合は、自己資金要件を満たすものとします。
(1)前2(3)~(8)に該当する方
(2)新商品の開発・生産、新しいサービスの開発・提供等、新規性が認められる方
(ア)技術・ノウハウ等に新規性が見られる方
(イ)経営革新計画の承認、新連携計画、農商工等連携事業計画、地域産業資源活用事業計画又は地域産業資源活用支援事業計画の認定を受けている方
(ウ)新商品・新役務の事業化に向けた研究・開発、試作販売を実施するため、商品の生産や役務の提供に6ヵ月以上を要し、かつ3事業年度以内に収支の黒字化が見込める方
(3)中小企業の会計に関する指針または基本要領の適用予定の方
(日本政策金融公庫ホームページより抜粋)
新創業融資制度の概要
融資金額:運転資金1,500万円、設備資金3,000万円まで
金利:利用する融資制度や審査によって以下の6つの区分のいずれかが適用されます。
基準利率 | 特別利率A | 特別利率B | 特別利率C | 特別利率E | 特別利率J |
2.16~2.55 | 1.76~2.15 | 1.51~1.90 | 1.26~1.65 | 0.76~1.15 | 1.11~1.50 |
融資期間:利用する各制度に設定された融資期間
申込みの流れ
①電話か来店で相談
②以下の必要書類の持参または郵送
創業計画書
設備資金のお申込の場合は見積書
履歴事項全部証明書または登記簿謄本
担保をご希望の場合は、不動産の登記簿謄本または登記事項証明書
生活衛生関係の事業を営む方は、都道府県知事の「推せん書」または、生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」
③面談
面談時には創業の事業内容について詳しくヒアリングが行われます。
資産や借入内容についてもヒアリングがありますので、しっかりと答えられるようにしておきましょう。
会社や工場などにも実際に職員が赴きます。
④審査
提出書類、面談内容から審査を行います。
⑤契約~融資
契約書類が郵送されてくるため、必要事項を記入し、契約に必要な書類とともに返送します。
書類の確認後、指定口座へ振込みにて融資を行います。
新創業融資制度はホームページから申し込むこともできます。
また、申込時に必要な創業計画書はホームページからダウンロードできるため、来店で申込を行う場合には、創業計画書を記入して持参すると、話が早く進みます。
創業計画書の記入方法
何の実績もない創業時に融資を失敗しない最も重要なポイントは創業計画書の記入をしっかりと行うことです。
創業計画書の記入ポイントは以下の通りです。
①創業の動機
この欄は単純に儲かりそうだからというよりも、サラリーマンなどを行っていた時の実績、自分の事業が社会にどのような貢献ができるのか、独立する夢などを記入したほうがよいでしょう。
この欄では、過去からの実績と、創業にかける気持ちと熱意を図っています。
②経営者の略歴等
この欄では、創業する業態と類似業態で長期間勤務している状態がベストです。
もしも、複数の職業を転々としている場合にはありのままを記入して嘘を記入することだけは絶対にさけましょう。
複数の業種を経験しているということは、それだけ異なる複数の知識と人脈を持っているということでもありますので、ヒアリングの際にはその点をアピールすればよいのです。
③取扱商品・サービス
この欄には取扱う商品やサービスの他にセールスポイントを記入するようになっています。
この欄で求められることは個性です。
他社では扱っていない商品やサービスが提供できるなどの情報があるのが理想的です。
同じような商品であってもセールスポイントで自分にしかできない付加価値があるなどのアピールを行いましょう。
④取引先
販売先、仕入先を記入する欄になります。
この欄が未定の場合には事業計画の具体策が何もない状態となってしまいます。
とは言え、創業前の段階では販売先まではそれほど固まっていないかと思います。
少なくとも仕入れ先くらいはしっかりと目途をつけて記入しましょう。
⑤従業員
役員、正社員、パートアルバイトの人数を記入する欄になります。
ここでは業態に見合った従業員の予定者を記入すればよいのですが、ここから発生するであろう賃金もしっかりと経営計画の考慮に入れておきましょう。⑧の事業の見通し欄で人件費と雇用予定の人員数の整合性が取れないというようなことがないようにしましょう。
⑥お借入れの状況
現在個人で借りている借入金を正直に記入しましょう。
政策金融公庫が知りたいのは、創業しても借金の返済と生活が成り立つかどうかです。
嘘を書いてもそれほど意味はありませんのでありのままを記述するようにしましょう。
⑦必要な資金と調達方法
運転資金でいくら必要なのか、設備資金でいくら必要なのかを詳細に記入しましょう。
これは借入によって必要になる資金ではなく、すべての資金です。
できるだけ詳細に記入したほうが、信用度は上がります。
また、この必要資金のうちいくらを自己資金で、いくらを親族などからの借入で賄い、借入のよって賄う資金はいくらなのかを正直に詳細に記入しましょう。
できるだけ詳細な方が、経営者として評価されますし、信用度も向上します。
⑧事業の見通し
創業直後、軌道に乗ったあとの見通しの売上、経費、利益を記入する欄になります。
あくまで計画ですので、見通すのは難しいかもしれませんが、創業段階で自分がどのくらいの売上を見込み、その売上に対する経費はどの程度必要になるのかをできる限り根拠を明確にして記入しましょう。
軌道に乗ったあとの見通しも同様に根拠をできる限り詳細に明示して記入を行いましょう。
限度額とサービサー問題。創業時には心強いが銀行や信金を先にトライしたい。