そもそも商工中金とはどのような金融機関なのでしょうか?
目次
商工中金とは?
成り立ち
商工中金とは、正式名称は株式会社商工組合中央金庫と呼びます。
政府と中小企業団体が共同出資するという形での国内唯一の政府系金融機関です。
1936年に政府と中小企業団体が出資する協同組織金融機関として設立されましたが、2008年に株式会社化されています。
業務内容として、中小企業の貸付、債務保証等を主な目的としています。
しかし、政府系金融機関の中で唯一預金の受け入れ、債券の発行、国際為替、手形を通じた短期金融などの幅広い総合金融サービスを行っている金融機関でもあります。
株式会社化された2008年以降も株式を保有できるのは政府と中小企業団体に限られる特殊会社として、実質的には公的な金融機関であるという位置づけは変わりません。
商工中金の存在意義
政府が関与する中小企業向けの金融機関として、中小企業資金繰りの円滑化を行うことが存在意義とされています。
1936年の設立当初は民間銀行から融資を受けることが難しい、中小企業の資金繰りの円滑化という大いなる存在意義がありましたが、戦後の民間金融の拡大によって、必ずしも政府系金融機関から融資を受けなくても中小企業の資金繰りは円滑化していることに伴い、徐々にその存在意義を失いつつあるといわれています。
商工中金は政府による利子補給や貸し倒れ時の保証がありますが、このような制度は民間金融機関が利用する信用保証協会制度でも代用可能でもあり、ますます存在意義は薄れているとも言われています。
商工中金は政府お抱えの金融機関ですので、民間金融機関が融資しないような財務内容が悪化した企業でも甘い審査によって融資ができるということも言われています。
これが商工中金のメリットであるともいえますが、市場原理でいえば淘汰される企業にまで税投入で融資ができてしまい、そこには政治家や役人の関与もあるなどと言われています。
存在意義は中小企業から見れば「お金を借りやすい」、政治家から役人から見れば「お抱えの企業にお金を出させやすい」などということが指摘されており、本当はだれのための存在意義なのかわからないなどとも揶揄されています。
ちなみに現在政府が保有する商工中金の株式総額は1,400億円以上です。
商工中金の民営化案
小さな政府、民間にできることは民間にをスローガンに掲げた、小泉純一郎内閣が進める構造改革の一環として、商工中金は段階的に完全民営化することが決定されました。
その結果、2008年に商工中金は、政府と中小企業団体だけが株式を保有することができる特殊会社として、株式会社へと移行されました。
おおむね5年後から7年後を目途に、徐々に政府出資の縮小を行い、最終的には完全民営化し、民営化後は会社法に基づく一般の株式会社となって、移行期間中のための「株式会社商工組合中央金庫法」は廃止される予定とされました。
つまり、2013年から2015年までには完全民営化する予定で、2008年に商工中金は株式会社となったのです。
しかし、2008年にリーマンショックに端を発した世界的な金融危機を受け、商工中金への政府関与を重視する声が高まります。
ここで、当初遅くとも2015年までに完全民営化の予定を2012年から5年~7年かけて完全民営化を行うことに先延ばしとなります。
つまり、リーマンショックによって、完全民営化の時期が2017年~2019年の間にずれ込む予定となりました。
さらに、2011年5月に当年発生した東日本大震災を原因とした金融不安を受けて完全民営化の時期を2015年の5年後~7年後(つまり2020年~2022年)と再度延長しました。
さらに、2015年には「商工中金・信用保険法案」が制定されます。
ここで、政府保有の株式について「当分の間、危機対応業務の的確な実施のために必要な株式を保有することを規定する」と明記されました。
つまり、具体的な完全民営化の時期は実施的には削除されてしまったことになります。
理由としては、官僚の天下り先として存在してきた、商工中金を政府系金融機関のままにおいておきたいという役人の思惑が働いているといわれています。
実際に、過去の商工中金の役員は経産省事務方トップが務めてきましたし、現在の社長も元経済産業省次官となっています。
商工中金は民業圧迫か
以前から、政府系金融機関である商工中金は民業圧迫であるとの声が上がっています。
実際のところどのようになっているのでしょう。
国の関与がある分、民間銀行から見るとアンフェア
商工中金は同じ政府系金融機関である日本政策金融公庫が融資業務のみを行っているのに対して、預金業務他、様々な業務を行っている金融機関です。
そのため過去1度も赤字を出したことがない経営面だけで見れば優良金融機関であるといえます。
ただし、それは一方では経営において政府からの金銭面の関与があったためであるともいえます。
商工中金の融資のスキームは国が出資を行い、税金から利子補給を行い、民間銀行と比較して低利で融資を行うことができます。
民間銀行からしてみれば、自分たちがリスクを判断し、自前で稼いだお金から経費を払っているにも関わらず、税投入によって低金利で融資を行われたら、民業圧迫であるとの声が上がって当然といえば当然です。
預金業務においても同様で、筆者が銀行員時代には、民間銀行では出せないような金利で、定期預金を集めていたという記憶が印象的です。あの時は「商工中金に預けるから」と言ってずいぶん預金を下ろされたものです。
民間銀行にも金が余っている
この記事を書いている2017年現在はアベノミクスから始まった大規模な金融緩和の時代です。
そのため、民間銀行には融資をしたくてもできないほどのお金が余っています。
そもそもアベノミクス以前からマネタリーベースと言われる、市中に出回っているお金である流通現金の3倍のものお金を銀行はもっていたとも言われています。
つまり、アベノミクスによってさらに金余りになり、そのような状況下で日銀のマイナス金利ですので、銀行は融資を伸ばさなければだぶついたお金から発生するコストを賄うことができない状態になっています。
民間銀行がそのような状態ですので、政府系金融機関が政府のバックを背景に銀行が融資を行うことができないような経営状態の企業まで、税金によって低利で融資を行っているのですから、民業圧迫という声は当然といえば当然といえるかもしれません。
仮に商工中金が融資した企業が倒産した場合には、政府出資の商工中金は間接的にせよ直接的にせよ、国が保証を行うことになります。
確かにアンフェアな状態です。
民営化されないための存在意義
このような民業圧迫という声や、官僚の天下り先などの批判をかわすためには、商工中金は存在意義を示さなければなりません。
民間銀行では融資できないような企業にまでしっかりと融資を行い、中小企業の資金繰りに資する金融機関としての存在意義をアピールする。そのための融資がまさに危機対応融資です。
政府系金融機関であるからこそできる危機対応融資を積極的に行っていると世間に示すことで、完全民営化を避け、政府系金融機関だからこその存在意義をアピールしてきたということです。
先の見通しを知りたい方へ→ 商工中金は今後どのようになっていくのか?
ところが2017年に、その危機対応融資を使った商工中金の不正融資問題が明るみに出ました。
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危機対応融資とは?商工中金の不正融資問題と中小企業の融資借入