プロパー融資とは、信用保証協会の保証をつけずに100%銀行が責任を負って融資を行うことです。
バブル崩壊前は事業資金の融資といえば当たり前のようにプロパー融資でした。
しかし、バブル崩壊によってプロパー融資が不良債権化し、銀行が倒産するということが相次いだことから、銀行はリスクの高いプロパー融資を扱わなくなりました。
そのため、銀行からプロパーで融資を受けるということは今は非常にハードルが高くなっており、「プロパーで融資を受けることができる」ということは企業の信頼を示す1つのベンチマークにすらなっています。
プロパー融資を受けることは簡単ではありませんが、銀行にとって「プロパー融資でも大丈夫」と判断できる企業であれば審査に通過することもできます。
では、銀行から「大丈夫」と判断されるためにはどのようなことが必要なのでしょうか?
目次
プロパー融資のメリットとデメリット
審査が厳しいプロパー融資ですので、借りることができればプロパー融資にはメリットの方が多いと思われる方が多いようです。
しかし、プロパー融資はメリットばかりではなく、場合によっては保証協会付きの融資の方がメリットがあることもあります。
まずは、プロパー融資のメリットとデメリットをしっかりと理解しましょう。
メリット①保証料がかからない
プロパー融資は信用保証協会の保証をつけない融資ですので、保証料がかからないというメリットがあります。
保証料は審査や制度によって異なりますが、1000万円を5年で借りた場合には50万円以上必要になることもあります。
金利とは別にこの費用が必要になるため、プロパー融資では保証料が発生しないという点はメリットです。
メリット②企業にとっては信頼になる
冒頭述べたように、審査が厳しいプロパー融資を借りることができたということは、銀行から「この企業は信頼できる」というお墨付きを得たことになります。
銀行と長い付き合いのある会社の社長に信用保証協会の保証付融資を提案すると「ウチは昔からプロパーで借りてきた。銀行にとってウチは信頼できないということか」と怒られてしまうこともあるほどです。
企業は自社の評価を客観的に知ることはできません。
プロパー融資を借りることができたということは、自社は他社よりも優良企業だと認識してもよいかもしれません。
銀行からプロパー融資の提案があったら、自社の成長や信頼を認識してもよいでしょう。
メリット③継続的な銀行からの経営支援を期待できる
銀行にとって、プロパー融資の返済が焦げ付いた場合には、そのお金が返済されないだけでなく、不良債権化し、貸倒引当金の費用計上も大きなものになってしまいます。
このため、プロパー融資を貸し出している企業に対して銀行は、保証協会付の融資をしている企業よりも企業の管理を厳格に行います。具体的には、最低月1回以上は企業へ担当者や課長や支店長が訪問します。
継続的な訪問によって、銀行は企業の状態をよく理解してくれているため、資金繰りの相談や、投資の計画など柔軟に速やかに対処してくれることが多くなります。
また、銀行は地域経済の情報にも精通しているため、経済情報などを得やすくなるというメリットもあります。
デメリット①審査が厳しい
プロパー融資は100%の責任を銀行が負う融資です。
銀行にとってもよほど信頼ができ、返済に問題がないという大きな信頼を寄せる企業に対してしか融資をすることはできないため、自ずと審査が厳しくなります。
審査については次の段落で詳しく解説していきます。
デメリット②時間がかかる
プロパー融資は、ほとんどの銀行で本部(審査部)の決済が必要になります。
このため、申し込みから融資を受けることができるまで、ある程度の時間が必要になります。
通常、支店の担当者が稟議をあげるプロセスは以下のようになります。
①稟議作成
②支店内での稟議の回覧(課長→支店長)
③本部での稟議(支店長→審査部担当者)
まず、稟議作成の段階で数日の時間が必要になります。
担当者は「返済に問題がない」「プロパー融資を実行する理由」などを合理的に資料をつけて説明しなければならないためです。
また、②③のプロセスを1回でクリアできることはほとんどありません。必ず「ここを直せ」とか「このような条件をつけろ」などという修正があり、稟議は差し戻しになります。
また、稟議をあげる前には上司や本部と「このような案件があるけど稟議を上げていいか」という相談をするのが普通です。
このような経緯があるため、プロパー融資は融資を受けるまでに早くても審査期間が2週間程度はかかってしまうと考えておきましょう。
デメリット③不動産担保が必要になることがある
信用保証協会保証付融資は保証協会の保証によって100%の保全を図ることができ、銀行はもしもの時の回収不能の懸念がありません。
しかし、プロパー融資においてはどこも保証してくれないため、銀行は保全を得るために不動産などの担保の提供を要求してくることがあります。
昔は優良な連帯保証人を立てれば融資を受けることもできましたが、いまは第3者保証は行わないため、不動産を担保として保全を図ることが一般的です。
不動産担保があれば融資を受けることができるとか、不動産担保がなければプロパー融資を必ず受けることができないわけではありませんが、不動産担保があったほうがより銀行は安心ですので、不動産担保がある方が審査に通りやすくなります。
不動産担保の設定には登記費用も必要ですし、そもそも不動産を担保に取られるということ自体、気分のよいものではありません。
信用保証協会の保証付融資では、不動産担保を要求されることはほとんどないため、この点でデメリットと言えます。
プロパー融資のポイント①『格付け』
プロパー融資は融資案件に対して実行するというよりも、企業に対して融資を行うというイメージです。
「この使い道だからプロパーで融資をする」ということではなく、「この企業ならプロパー融資を実行する」という考え方になります。
この際に、「プロパー融資を実行してもよい企業かどうか」を判断する際に最も重要になるのが『格付け』です。
格付けはどのようなタイミングで決定し、何を基準として決定しているのでしょうか?
格付けは企業審査で決定する
銀行から融資を受けようとする際、または銀行からお金を借りていると、銀行へ決算書を提出しなければなりません。
銀行は決算書の提出を受けると、その企業を審査します。この審査を企業審査といい、企業審査で銀行はその企業の格付けを決定します。
筆者が勤務していた銀行では企業の評価は上から順に以下のように決定していました。
A(超優良先)
B(優良先)
C1(やや優良な正常先)
C2(正常先)
C3(やや要注意の正常先)
E1(正常化の見込める要注意先)
E2(要注意先)
E3(破綻の懸念のある要注意先)
格付けとは、個人ローンにおける信用情報のようなもので、会社の信用力を銀行が判断したもののようなものです。
このうち、プロパー融資を行うのはAとB、場合によってはC1まではプロパー融資に対応できることもあります。
では、この格付けはどのように決定するのでしょうか?
定量評価と定性評価
企業審査においては定量評価と定性評価という2つの評価基準があります。
定量評価とは、決算書の内容を審査システムに入力し、審査システムが自動的にその企業の分析を行うスコアリングと呼ばれる審査です。
定性評価とは、銀行担当者の目で見た企業や経営者の評価です。
具体的には「当該企業の業界内での優位性」「経営者の資質」「従業員の熟練度」などといった数字には現れない部分の評価です。
定量評価60〜70%、定性評価30〜40%程度のウェイトで格付けが決定します。
しかし、2015年に長官が森氏になって以降、金融庁は評価基準の変更の方針を打ち出しました。
これにより定性評価を重視するようにという方針があるため、今後は定性評価のウェイトが高くなるかもしれません。
定量評価の4つのポイント
定量評価は以下の4つの視点で審査をしています。
①安全性
②収益性
③成長性
④返済能力
①安全性は以下のような経営分析によって判定しています。
自己資本比率
ギアリング比率(資金調達のうち借入金の割合)
流動比率(流動負債のうち、流動資産がどの程度あるか)
②収益性は以下のような経営分析によって判定しています。
売上高経常利益率
収益フロー(収益が何期連続で出ているか)
③成長性を判定するためには以下のような指標があります。
売上高
自己資本
利益増加率(前期と比較して利益が何%増加しているか)
④返済能力は判定する指標は以下のようなものです。
キャッシュフロー(現金がどれだけプラスになったか)
インタレスト・カバレッジ・レシオ(利息の支払いにいくらまでなら耐えられるか)
債務償還年数(会社の借入金を何年で返済できるか)
このような指標の分析を銀行ではコンピューターによって自動判定しています。
なお、これらの項目の配点は銀行によって異なりますし、銀行の中でもトップシークレットの情報ですので、詳細までは知ることはできません。
定量評価を改善するために
格付けを決定するために大きな影響を及ぼすのが定量評価です。
定量評価を改善すれば格付けが上昇し、プロパー融資を受けやすくなると言えます。
では、定量評価を良くするためにはどのようなことに取り組むべきでしょうか?
収益性の改善
単純に会社の利益を大きくすれば評価は上昇します。
収益を大きくする方法として
①売上単価の引き上げ
②在庫ロスの削減
③役員報酬の見直し
④不要な広告費の削減
などです。
収益性を増加させるためには、単純に売上を拡大すればよいのですが、一朝一夕できるものではありませんし、それができないからどの会社も苦労しているのです。
そのため、努力して収益性を向上させることができる見込みのある項目が上記のようなものになります。
売上の増加は販売単価の引き上げが最も手っ取り早い方法です。
単価の引上げ交渉ができる取引先がないかなどを検討しましょう。
また、在庫のロスを削減できる部分がないかどの見当も重要です。
従業員の人件費を簡単に削ることはできません。
そのため、役員報酬が適正かどうかの見直しを行いましょう。
財務体質の改善
財務体質の改善を図るために考えられる方法としては以下のようなことが挙げられます。
①売掛金や受取手形などの売上債権の回収サイトを短くできる取引先がないかどうか検討する
②短期借入金を長期借入金へ変更できないか検討する
③銀行からの借入金を役員借入金で借り換えができないか
などといったことです。
このような努力をしても、努力の成果が現れるのは、決算書が出来上がった後になります。
したがって、すぐに定量評価を向上させてプロパー融資を受けやすくするということはできません。
プロパー融資のポイント②『銀行との信頼関係』
格付けと同じくらいにプロパー融資を受けるために重要なことは、実は銀行との信頼関係です。
銀行員との人間関係で「この会社からのプロパー融資の依頼を断ることはできない」と銀行に思わせることがかなり重要です。
「この会社が大丈夫」と判断するのは数字だけでなく、最後は人間が判断します。
このため、銀行との人間的な信頼関係が築けている会社ほどプロパー融資を受けやすく、逆に取引年数が浅い会社が銀行に「プロパーで融資をしてくれ」と依頼してもなかなか融資には応じてもらえないでしょう。
銀行との信頼関係を構築することはすぐにはできません。
基本的には以下のポイントに注意して、何年もかけて銀行と取引をしていく必要があります。
必要書類の提出は迅速に協力する
融資の際や、企業審査の際には銀行から様々な書類の提出を求められることがあります。
決算書や試算表は当然として、売上や仕入れの実績、取引先からの発注書など様々な書類の提出を求められます。
銀行員に勤務していたときには、私も「こんなに多くの書類の提出は面倒なろうな」と思うほどでした。
このような時には、嫌な顔をせず、求めに応じてあげることで心象が良くなりますよ。
銀行員もそのような企業には顔を出しやすいため、信頼関係構築のきっかけになりますし、定性評価においても「経営者は決算書等の書類の提出には協力的か」という項目がありますので、格付けにも直結します。
銀行の依頼には積極的に協力する
銀行は取引先企業の社長に経営セミナーへの出席などを依頼してくることがあります。
このような依頼にはできる限り協力してあげましょう。
また、銀行員は事業融資以外にも預金や積立のノルマなどを負っています。
このようなノルマに対してもできる限り協力してあげましょう。
銀行がリスクを負うプロパー融資ですので、このようなことに協力し、悪く言えば銀行に恩を売っておくことで銀行もプロパー融資の依頼を断りにくくなります。
企業と銀行は持ちつ持たれつの関係であることが理想です。
定期的に銀行へ顔を出す
それほど大きな用がなくても定期的に銀行へ顔を出し、担当者や課長や支店長と話をするようにしましょう。
これは自分が銀行から「信頼できる人間」と思ってもらうために重要なポイントです。
プロパー融資は人間関係がとても重要ですので、よく知らない経営者にお金を貸すと不安なものですが、よく知っている人には安心してお金を貸しやすくなるのです。
複数の銀行と浮気しない
メインバンクというのは、取引先企業の資金繰りに対してある程度の責任を負っています。
昔は「メインバンクの意地」という言葉でプロパー融資に応じていました。
そのため、基本的には複数の銀行と付き合うのではなく、メインバンクを1行決めて、その銀行としか取引をしないほうがプロパー融資を受けやすくなります。
プロパー融資の審査の際には、「メインバンクとして〇〇年付き合っている」という文言が稟議でかなり効果的です。
銀行はメインバンクの責任としてリスクを負って融資をしなければならないという社会的な責任を負っているため、メインバンク1行だけと付き合ったほうが銀行もプロパー融資を行わざるを得ない側面があるのです。
複数の銀行と取引をしている企業に対しては、銀行も責任が曖昧になるため「他行から借りればよい」というスタンスになってしまうことがあります。
まとめ
プロパー融資は審査が厳しく、銀行にとってよほど信用のある企業に対してしか融資を行いません。
プロパー融資を借りることができるようになるためには、会社の収益性や安全性を高めることはもちろんですが、銀行と長い時間をかけて信頼関係を構築していくことも重要です。
すぐにプロパーでお金を借りることができる特効薬はありません。
しかし、金融庁の方針変更によって、銀行がどの程度プロパー融資によって企業の支援に取り組んでいるかが銀行の評価の1つとなっています。
今後はプロパー融資が増えていくかもしれません。