建設業は工事の規模が大きくなればなるほど、工事にかかる人件費、重機のリース料、材料費なども大きくなるものです。その上、建設業の売上が入金になるのは工事完了後というのがほとんどです。
つまり、建設業者は工事を行う前には、工事に必要な資金を手元に持っていなければ工事をすることができません。
このような時には、工事引当融資という方法で銀行からお金を借りることができます。
工事引当融資は借りたお金をしっかりと管理することができれば、建設業にとっては非常に有用な融資です。
そのため、建設業の経営者は工事引当融資の審査や、工事引当融資の概要などについて理解を深めておくことが重要です。

目次
工事引当資金融資とは?基礎知識
そもそも工事引当資金融資とはどのような融資なのでしょうか?
一言で言えば、工事を担保にお金を借りることを示します。
「工事を担保」と言ってもイメージしにくい人が多いでしょう。以下で詳しく説明していきます。
請負工事を担保に工事に必要な資金の融資を受けること
工事引当金融資とは、受注した工事に必要な諸経費分を融資借入し、返済は工事の売上から行うという融資です。
このため融資契約の際には、工事を確かに受注したという証拠である『請負工事契約書』などの書類が必要になります。
工事引当融資の大きな特徴は以下の4つです。
①工事が発生した時にしか借りることができない
②借りたお金は工事に必要な経費の支払いにしか使えない
③融資は手形貸付で行われ、期日一括で返済する ※手形貸付とは?
④融資金の返済期日は工事代金の支払い期日とほぼ同日で工事の売上から返済する
このように、特定の工事代金の売上を返済原資として、工事に必要な融資を行うのが工事引当融資です。
会社と事業に対して行う融資
工事引当金融資は、業況がある程度よく、融資金を工事代金以外に使用する心配のない業者にしか融資ができません。
したがって、融資を受ける企業の収支状況や財務内容はもちろん重要になります。
しかし、それと同じように、工事の内容も重要になります。
確実に工事代金の支払いができるような企業からの工事の受注であれば融資を受けやすくなりますし、反対に工事代金の支払能力のない企業からの受注であれば工事代金の融資は難しくなります。
このように、会社の信用能力に対して融資を行うことと同時に、当該工事の事業の内容に対しても融資を実行するという側面も持つのが工事引当金融資の特徴です。
銀行は工事引当融資をどう見るか?
銀行が工事引当金融資を審査する際にはどのような目線で審査をするのでしょうか?
特徴としては、融資する会社の審査を行うことと同時に、工事の内容についても審査を行うことにあります。
昔は請負工事契約書1つで簡単に融資に応じてくれたが
バブル崩壊以前は、銀行に工事の請書を持っていき「引当で融資をしてくれ」と頼むと銀行は数日のうちにすぐに融資を行うような実態がありました。
景気が良い時にはどの業者も金払いが良いため、工事代金が支払えないということはほとんど無く、銀行は工事代金を担保にかなり簡単に融資を行っていました。
しかし、バブル崩壊によって多くの建設業者が倒産となってからは状況が変わりました。
先食いはないか
工事引当金融資とは、工事代金に必要な諸経費の支払いのためだけに借りたお金を使用できる融資です。
しかし、会社が資金的に余裕がない場合には、この融資金を工事代金の支払いに使用せず、他の経費の支払いに流用してしまうことがあります。
これを資金繰りの先食い(後述)と言いますが、銀行としては、資金繰りの先食いが行われてしまうと工事の経費が支払えない可能性があり、融資金の返済が危ぶまれることになります。
このようなことがないように、工事引当金融資の際には、当該企業の資金繰りについてもしっかりと審査を行います。
発注元の業況はどうか
工事の発注元がどのような業況かも当然ながら審査を行います。
発注元の業者が工事の途中で倒産してしまったら、工事代金の入金が履行されないため融資先企業が連鎖倒産になってしまう可能性があり、返済が見込めないためです。
このため当然ながら発注元業者の業況も重要になり、信用能力が高い大企業や、公共事業の方が審査では有利になります。
工事価格は適正か
公共工事の場合には工事価格が適正かどうかも重要になります。

その際、銀行は20億円以上の損失を被りました。
この会社は随分前から苦しい経営状態にあり、まさに先食いのためだけに公共事業を格安で落札し工事引当金融資を受け、無理に会社を回していただけだったということが倒産後に発覚しました。
工事引当金融資は、工事の契約書さえあれば融資を受けられる可能性が高くなっており、上記の会社のように資金繰りの先食いを行おうと思えば、継続的に工事を受注さえしていればよいことになります。
あまりにも安い工事はこのような先食いの可能性もあるため、銀行は工事の落札価格が適正化どうかも審査をしています。
資金繰りの先食いとは?
工事引当金融資を受けた企業は、資金繰りの先食いを行わないように注意しなければなりません。
先食いをしていることが銀行にバレてしまうと融資金の一括返済を迫られる可能性もありますし、そもそも資金繰りの先食いは企業の経営状態としても不良な状態と言えます。
必要経費以外のことに使用してしまう
資金繰りの先食いになって行くのは下記の流れです。
①工事引当融資を受ける
②融資金を工事に必要な諸経費以外の使途に使ってしまう
③工事に必要な諸経費が払えなくなる
④再び銀行からお金を借りて工事に必要な諸経費を支払う
⑤次の工事引当融資で、再び先食いを行なってしまう
再び資金が必要になる、簡単に言えば自転車操業状態
資金繰りの先食いを行うと、必ず上記の事例の⑤で再び資金が足りなくなり、また先食いを行なうことになります。
こうなってしまうと、工事を受注し工事引当融資を受け続けていかないとどこかで必ず資金ショートを起こし倒産してしまいます。
先に事例で出した「低い落札率で公共工事の受注を繰り返していた会社」はまさに、上記の①〜⑤のサイクルを継続するためだけに格安で公共工事を落札していたことがわかります。
資金繰りの先食いを行うと、工事引当金融資の自転車操業状態に陥ってしまうのです。
銀行融資が止まってしまうと事業継続ができない状態
このため、どこかで工事を落札できなかったり、工事引当金融資で借りたお金だけでも資金繰りの先食いがしきれない場合には、事業継続ができずに倒産してしまうことになります。
企業経営の中では、経常運転資金が足りない場面は珍しいことではありません。
そのような場合には長期資金で融資を受けるべきであって、工事引当金融資によって資金繰りの先食いを行うことは絶対にやめましょう。

工事引当融資で借りた資金を目的外流用してしまった場合
先ほど述べたように、資金繰りの先食いによって工事引当融資を目的外に流用してしまった場合にはどのような処置が行われるのでしょうか?
原則は期限の利益喪失
工事引当金融資というのは工事代金を担保にして工事にかかる諸経費支払いのための融資を行うものですので、原則的には先食いは契約違反となり「期限の利益喪失」事由に該当します。
期限の利益喪失とは「融資金を一括で返済してください」ということで、期限の利益を喪失した場合にはすぐに一括で融資金の残金を返済しなければなりません。
ここで返済できない場合には、連帯保証人の個人資産からでも返済しなければなりませんし、最悪の場合、資産の差し押さえを行う強制執行から倒産や連帯保証人の自己破産に至ることもあります。
ただし、これは原則論で、しっかりと銀行に話をすればこのような事態にならないこともあります。
どうしても困ったら銀行に相談
先食いをしなければならないほど、資金繰りに困ってしまったらまずは銀行へ相談しましょう。何も言わずに工事引当で融資を受けたお金を使用してしまうことは銀行を騙すことになります。
このため先食いをするほど資金繰りに困ったら、とにかくまずは銀行へ相談を行うことが重要です。
銀行も、資金繰りの先食いをされてしまったら、工事を完遂することができない可能性もあり、工事引当にて実行した融資金の返済ができなくなってしまったら困ります。
何らかの対処は行ってくれるはずですので、とにかく先食いの前に銀行へ相談を行いましょう。
長期資金の融資に応じてくれることも
資金繰りの先食いを行なわなければならないということは、経常的な運転資金が枯渇しているということです。
このような際には、長期資金の融資が必要になります。
銀行に資金繰りが厳しくなり先食い状態になってしまうという相談をすれば、経常運転資金を長期で融資してくれることもあります。
工事に必要な諸経費は工事引当融資にて融資を受け、経常運転資金の不足分は長期資金で毎月少しずつ返済するというように対処してくれることもあります。
最悪の場合には強制執行も
銀行に何も言わずに先食いが発覚した場合や、長期資金によって融資を行っても再建が不可能であると銀行から判断された場合には、期限の利益を喪失して、最悪の場合には強制執行となってしまう可能性もあります。
このような事態にならないように、銀行も工事引当金融資の前に資金繰りをしっかりと審査をしていますが、それでも場合によっては最悪のケースも考えられますので、くれぐれも資金繰りの先食いは行わないようにしましょう。
また、無理に工事を受注して先食いを繰り返しても会社の傷・ひいては経営者のあなたの傷を広げるだけになります。
銀行に相談しても事業継続の見込みが立たない場合には、早めに会社を潰してしまうことも1つの方法かもしれません。
工事が遅れて延長になっている場合(工事代金が期日に入金されない等)
先ほど述べたように、工事引当金融資の返済期日は工事代金の入金予定日と同日になっていることが一般的です。
しかし、もしも工事が遅れた場合や、発注先の都合によって入金が予定日より遅れてしまった時には、返済ができないことになってしまいます。
このような際にはどのような対処になるのでしょうか?
銀行が認めれば期日延長になる
基本的には銀行が認めれば期日入金となる日まで返済期日が延長されるという処置が取られます。
銀行としても数日延長すれば回収が見込めるものを問答無用に延長は行わない、という対応とはなりません。しかし、なぜ入金が遅れるのかという理由が非常に重要になります。
なぜ入金が遅れるのか
入金が遅れる理由が「やむを得ない」と判断できるものなのか、そうではないのかによって銀行の対処は異なります。
やむを得ない事情であれば通常は期日を延長することは比較的簡単に行うことができます。
では、銀行が「やむを得ない」と判断する事情とはどのような事情なのでしょうか?
工期の延長であれば問題ない
天候の影響などによって工期が延びてしまうことはよくあることです。また、その理由であればやむを得ない事情であるということができます。
このような、不可抗力によるやむを得ない事情で入金が遅れる場合には、期日の延長に応じてもらえることがほとんどです。
しかし、返済期日を延長することにも銀行内で稟議が必要になり、申し出から承認されるまでには1週間程度の時間が必要になります。
やむを得ない事情によって期日に遅れるときには、早めに銀行へ申し出ましょう。
発注先の資金繰りの悪化なら銀行が回収に走ることも
工事代金の入金の遅れの原因が発注元の業況悪化によるものであれば非常に問題です。
工事代金そのものが入金にならない可能性が高くなってしまうため、銀行は発注元の業者が倒産になる前に、融資金の貸し剥がしを行う可能性があります。
このような場合に実際に銀行がどのような処置を行うかは、ケースバイケースですし、自社の財務状況などにもよりますが、必ずしも救済されるわけではないということだけは頭に入れておきましょう。
銀行が救済してくれるケースとしては、長期資金へ借り換えを行い、毎月少しずつ分割で返済していくという方法も考えられます。
紐付き融資とは?
工事引当金融資を実行する際には、紐付き融資という方法で融資を行うことがあります。
紐付き融資とはどのような融資なのでしょうか?
融資に条件をつけること
紐付き融資は、簡単にいえば融資の内容に対して条件をつけることです。融資金の資金使途や返済に対して条件をつけるのです。
『融資金は工事にかかる諸経費支払いにしか使用しないこと』などということが条件がつくことがよくあり、この場合には、融資実行後に「確かに工事代金に使った」という証明にために領収書などを銀行へ提出する必要があることもあります。
工事代金の入金分から返済という条件がつくことが一般的
工事引当融資で最もよくある紐付き条件が返済条件です。銀行は返済条件に紐つけを行うことで保全を図ることができるのです。
具体的には以下のような条件をつけることによって保全を図っています。
1、融資対象の工事を請負工事契約書で明確に確認する
2、工事代金の回収時期と融資期日を同日に設定する
3、工事代金の入金口座を融資実行する銀行の口座に指定し、融資の返済原資を確保する
工事代金の入金口座を融資を実行した銀行の口座に指定することで、銀行は入金を管理できますので、担保や有力な保証人がいなくても保全を図ることができるのです。
まとめ
工事引当融資のまとめです。
①工事引当融資は工事の売上を担保として融資を受ける
②工事引当融資で借りたお金は工事にかかる必要経費の支払いにしか使用できない
③工事引当融資の返済は工事代金の入金とともに行う
④工事引当融資が借りたお金の資金繰りの先食いは厳禁
⑤先食いになりそうな場合はまず銀行へ相談
⑥やむを得ない理由があれば期日の延長にも応じてくれる
⑦自社の資金繰りのほかにも工事発注元も審査される
⑧入金が確実な公共工事の方が融資を受けやすい
工事に必要な運転資金は金額的に膨大です。
このため、工事を行う際には、工事引当金融資を活用することができますし、自社の資金繰りと発注元がしっかりしていれば融資を受けることはそれほど難しくはありません。
しかし、経常経費の支払いができていない状態で工事引当融資を受けても資金繰りの先食いのリスクが高くなってしまいます。
経常経費の不足分は長期資金によってまかない、資金繰りの先食いだけは絶対に行わないように徹底してください。