現金商売以外は、売上の都度入金があるわけではありませんし、仕入れの都度支払いがあるわけでもありません。
日本の商慣習においては取引が先、決済は後というのが一般的ですので、売上や仕入れがあってから現金の入出金が起こるまでには時間的なギャップが生まれてしまいます。
この入出金の時間的なギャップを「資金ギャップ」と呼びますが、会社経営においてはこの資金ギャップの意味を理解していなければ、いくら売上があっても倒産になってしまうこともあります。
営業推進だけに目を取られて資金繰りを考えていない会社は銀行からの借入から離れられなくなってしまいます。売上拡大と同じくらいに資金繰りは非常に重要です。
目次
支払サイトとは?
資金ギャップを生む原因のひとつが支払いサイトでもあります。
仕入れを行なってから現金を払うまでの期間
支払いサイトとは、仕入れを行なってから現金を払うまでの期間のことです。
企業活動において商品を仕入れる際には、すぐに現金では支払わないことが一般的です。
仕入れというものは1つの取引先との間に1ヶ間で何度も発生するものですので、仕入元企業としても仕入れの都度現金を受け取り領収書を発行することは手間になりますし、仕入先企業としても振込の手間と手数料が膨大になってしまうため、通常は1ヶ月分の請求を後日行ない、それを受けてまとめて支払いを行なうのが多くの企業間取引です。
このため、商品を仕入れたときには以下のように仕分けを行なっておきます。
借方 | 貸方 |
仕入れ(費用)10,000円 | 買掛金(負債)10,000円 |
仕入れという費用を買掛金という負債を背負うことによって支払ったという会計処理を行い、後日、この買掛金をまとめて支払うという形になります。
買掛金を支払った時の仕分けは以下のようになります。
借方 | 貸方 |
買掛金(負債の減少)10,000円 | 現金(資産の減少)10,000円 |
現金という資産を使用して買掛金という負債を減少させたという会計処理を行います。
支払いサイトとはまさにこの「買掛金が発生してから、現金で減少させるまでの期間」を示します。
仕入れ代金の支払いが月末締め翌月末払いであれば支払いサイトは1ヶ月、月末締め翌々月末払いであれば支払いサイトは2ヶ月ということになるのです。
支払いサイトが長い方が資金繰りは楽になる
買掛金を支払うまでは、いくら商品の仕入れを行なっても手元の現金は減少しません。
そのため、支払いサイトが長い方が手元の資金の早期流出を抑えることができ、会社の資金繰りは楽になることになります。
買掛金の支払いまでには時間的な余裕があるため、その間に売上金の入金が見込めるためです。
支払いサイトは入金サイトより一般的に短い
しかし、一般的には、支払いサイトは売掛金の入金までの時間である入金サイト(後述)よりも短くなっています。
なぜなら、先に商品を仕入れて、仕入れた商品を販売するという順番であるのが商売ですので、受注生産でもない限りは売上よりも先に仕入れが発生するためです。
このため、仕入れるための資金を手元に持っていないと、売上が入ってもくるまでに商品の仕入れも経費の支払いも行うことができずに、事業が成り立たないということになってしまうのです。
支払サイト計算方法 計算式
前述したように、支払いサイトが長ければ買掛金の決済までに時間的な余裕ができるため、資金繰りは楽になります。
そのため、自社の支払いサイトがどのくらいなのか、長いのか短いのかを知ることはとても重要です。
次に支払いサイトの計算方法について説明していきます。
仕入れ債務回転期間
仕入れ債務回転期間とは買掛金や受取手形などの仕入債務を支払うまでどのくらいの期間がかかるのかということを示す指標です。
つまり支払いサイトはどのくらいかを示す指標が「仕入れ債務回転期間(または買入債務回転期間)」になります。
仕入債務回転日数と仕入債務回転月数
仕入債務回転期間は仕入債務を何日で決済しているのかを示す仕入債務回転日数と、何ヶ月で決済しているのかを示す仕入債務回転月数で算出することができます。
単位が日数と月数で異なるだけで、中身は同じです。
計算方法は以下の通りです。
仕入債務回転日数=(買掛金+支払手形)÷(仕入高÷365日)
仕入債務の残高を1日当たりの仕入高で除して、仕入債務の残高は何日分の仕入れなのかということを計算します。
仕入債務回転月数=(買掛金+支払手形)÷(仕入高÷12ヶ月)
仕入債務の残高を1ヶ月当たりの仕入高で除して、仕入債務の残高は何ヶ月分の仕入れなのかということを計算します。
仕入債務回転期間の目安と具体例
例えば仕入高8,000万円、買掛金1,000万円、支払手形500万円の会社の買入債務回転期間は以下のようになります。
仕入債務回転日数=(買掛金1,000万円+支払手形500万円)÷(仕入高8,000万円÷365日)=68.4日
仕入債務回転月数=(買掛金1,000万円+支払手形500万円)÷(仕入高8,000万円÷12ヶ月)=2.3ヶ月
業種ごとの仕入債務回転期間
自社の支払いサイトが長いのか短いのかを知ることは、取引先に支払いサイトを長くしてくれと交渉する上でとても重要です。
主な業界の仕入債務回転日数の平均は以下のようになっています。
建設業 | 機械製造業 | 卸売業 | 小売業 | サービス業 |
83.5日 | 58.1日 | 56.4日 | 29.7日 | 22.2日 |
参考:http://industry.ediunet.jp/choice/536/
自社の支払いサイトが長いのか短いのかを業界平均と比較して、短いようであれば長くすることはできないかどうか、取引先と交渉することも資金繰りを楽にする1つの方法と言えます。
資金ギャップが出る業種・業態に対して銀行側は融資をどう考えるか?
上記のように業界全体として支払いサイトが長い業種もありますし、そのような業種は資金繰りに時間差(資金ギャップ)が出るのは仕方がありません。
仕入債務の支払いから売上債権の入金までの時間的なギャップを埋めるための経常運転資金を融資するのは銀行の基本的な努めです。このような資金で、順調に利益が出ている企業であれば銀行は問題なく融資を行います。
しかし、設備資金やプロパー融資を受ける際などは、資金繰りのよい企業の方が銀行の評価が高くなります。
つまり資金繰りを少しでも改善しておく方が銀行融資を受けやすいわけです。
入金サイトとは?
入金サイトとは売上が発生してから、売掛金が入金になるまでの時間です。
月末締めの翌月末払いであれば入金サイトは1ヶ月です。
月末締めの翌々月末払いであれば入金サイトは2ヶ月になります。
売上債権回転期間の計算方法
売上債権回転期間とは、売掛金や受取手形が現金化するまでの期間を図る指標です。
売上債務回転期間は日数と月数で求めることができ、以下の計算式で算出します。
売上債権回転日数=(売掛金+受取手形)÷(売上高÷365日)
売上債権の残高を1日当たりの売上高で除して、売上債権の残高は何日分の売上なのかということを計算します。
売上債権回転月数=(売掛金+受取手形)÷(売上高÷12ヶ月)
入金サイトを短く 支払いサイトを長くすることで資金繰りは改善する
入金サイトを短くすれば、早く手元に売上金が入金になることになります。また、先ほど述べたように、支払いサイトを長くすれば支払いまでの時間的な余裕ができるため、長い間手元に現金が残ることになります。
資金繰りを改善するためには、販売先に対して「入金サイトを短くできないか」という交渉を行ない、仕入先に対して「支払いサイトを長くできないか」という交渉を行なうことで、資金繰りを改善させることができます。
このような経営努力を行うことで、資金繰り表はプラスに転じ、銀行からの評価は上昇します。
銀行から「この会社は資金繰りのよい会社だ」とか「前期と比較して資金繰りが改善した」という判断がなされると、会社の格付けが上昇することがあります。
格付けが上昇すると以下のメリットがあります。
①設備資金やプロパー融資を受けやすくなる
②私募債の引き受けに応じてくれることがある
③低い金利でお金を借りることができやすくなる
※ 会社の企業格付けを上げて銀行融資を獲得する方法!を銀行員が明かす
※ 少人数私募債
資金ギャップを埋めるための運転資金は融資を受けやすい
本来、会社の運転資金融資というのはこの資金ギャップを埋めるための資金です。
赤字を埋めるためではなく、資金ギャップを埋めるための運転資金融資は銀行の本来の役割であるため、融資を受けやすい資金の1つです。
利益が出ているにも関わらず資金繰りがうまくいっていない場合には、資金ギャップを埋めるための相談を銀行にしてみましょう。
資金ギャップが生じやすい業種
資金ギャップが生じやすい業種としては建設業や製造業などがあります。特に建設業は工期が長ければ長いほど売上金の入金が遅くなりますので、最も資金ギャップが生じやすい業種です。
このため、建設業の資金ギャップを埋めるために工事引当融資という、建設業のためだけの融資制度があるほどです。
工事にかかる費用は膨大ですので、資金ギャップは融資によって受けるしか方法がないのが一般的ですので、工事にかかる資金ギャップの穴埋めの相談は工事の契約書などを持参して銀行に相談に行けば、経常的な資金繰りがうまくいっている会社であれば融資を受けることができる可能性は高いと言えるでしょう。
詳細は→ 工事引当資金融資とは?銀行評価と工事延長や目的外流用の場合の銀行の対応
資金ギャップが生じにくい業種
資金ギャップが生じにくい業種として挙げられるのは、飲食業などのサービス業と小売業です。
飲食業はクレジットカード決済でない限りは売上即現金ですし、小売業も一般顧客に販売する場合には、売上が即現金になります。
これらの業種は資金ギャップが生じない業種ですので、運転資金が必要な場合は以下の2点だけです。
①営業赤字になっており、売上が経費の支払いに満たない
②規模拡大によって増加運転資金が必要になる
後々返済金が経営を圧迫するだけですので、①のケースで運転資金を借りることはおすすめできません。
初めて銀行と取引をする事業者は、たとえ資金ギャップが生じないサービス業などでも運転資金を借りることができてしまいますが、いくら銀行が融資を進めてきても運転資金融資は必要がない限りは断った方が良いでしょう。
銀行融資以外で資金ギャップを埋める方法
銀行融資以外で資金ギャップを埋めるためには、以下の方法などがあります。
手形割引
手形割引とは手元に持っている受取手形を担保に融資を受ける方法です。
手形の回収までの期間を回収サイトと呼びますが、回収サイトが数ヶ月先の受取手形であっても手形割引を使用すれば即現金化することができますので、資金ギャップを埋めることができます。
また、取引先は期日通り手形の決済を行なえば良いため、取引先に「サイトを短くしてほしい」と交渉することも不要です。
親会社などのように力関係が自社の方が弱い場合には、有効な方法です。
詳細へ→ 手形割引とは? 分かりやすく詳しく解説(銀行貸付の4種類比較も)
ABL 債権担保融資
ABLとは流動資産担保融資のことです。
売掛金などの売上債権や棚卸資産などの流動資産を担保にして、その価格の50%程度の融資を受けることができます。
詳細へ→
ファクタリング
ファクタリングとは融資ではなく、売上債権をファクタリング会社に売却する方法です。欧米では融資よりもファクタリングの方が一般的です。
ファクタリングは債権の価格の5%〜40%ほどの手数料が発生しますが、2社間ファクタリングであれば、取引先にはファクタリングを行なったということを隠したままにしておけるというメリットもあります。
また、業者の中には即日で現金化に応じてくれる会社もあるため、急ぎの資金繰りには最適です。
これら3つの方法に共通する特徴は、返済するのは自社ではなく売掛先企業や手形の振出人という点です。
このため、自社の経営状態がたとえ悪くても、取引先の信用が審査に影響するため、取引先の信用によって自社の資金繰りを改善させることができる可能性があるという点が大きなメリットです。
詳細へ→ ファクタリングとは?売掛金買取の仕組みと2社間3社間の契約の違いを比較
まとめ
支払いサイトとは、仕入れを行なってから買掛金を決済するまでの時間です。
入金サイトとは、売上が発生してから売掛金が決済されるまでの時間です。
このため、支払いサイトを長くして、入金サイトを短くすれば、普段手元残っている現金が多くなるため会社の資金繰りは改善します。まずは販売先や仕入れ先の中でサイトの交渉ができる取引先がないか検討しましょう。
また、このような努力による資金繰りの改善は銀行評価を高めるポイントの1つとなります。
その後の銀行取引を有利に進めていく上でも重要です。
どうしても資金繰りで困ったらまずは銀行へ相談しましょう。
資金ギャップを埋めるための運転資金融資は、銀行が最も融資をしやすい種類の事業資金融資です。
また、手形割引、ABL、ファクタリングなどでも資金繰りは改善します。
どのような方法によって資金繰りを改善すべきか、自社の取引状況や資産状況から最もよい方法を検討してみてはいかがでしょうか?
資金繰りが間に合わない 資金ショートしそう