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金融機関にとって未体験ゾーンへ突入した「コロナ禍」の融資
新型コロナウイルス感染症は日本国内において2020年2月に発生した客船ダイヤモンドプリンセス号の集団感染により、一気に緊急度合いが高まりました。その後新規感染者数は増加し、同年4月7日に新型インフルエンザ等措置法に基づき緊急事態宣言が発令されるなど、状況は深刻を極めます。
緊急事態宣言は5月25日に解除とはなりましたが、その後1ヶ月ほどで新規感染者が再度増加に転じるなど予断を許さない状況が続いています(2020年8月現在)。
感染を防止するには「3密」を避けるべしとの国家レベルでの方針から、宴会、長距離移動、イベントが軒並み自粛となり、それに関わる事業者の売り上げは文字通り「消滅」してしまいました。
影響を強く受けたのは「生活娯楽関連サービス」「運輸業・郵便業」「卸売業」(第3次産業活動指数(2020年6月分)経済産業省大臣官房調査統計グループ経済解析室より)であり、馴染み深い業種に言い換えると「飲食・宿泊(旅行も)」「電車・バス」「食料品卸売」となるでしょうか。感覚として大きなダメージを受けたと思われる業種と一致します。
緊急事態宣言が大規模自粛を招いたことから、とにかく人が集まることが禁忌である風潮が列島を覆い、春の歓送迎会、卒業旅行、ゴールデンウイークの行楽など、多額の消費が期待できる機会が文字通り消滅してしまいました。当然、事業主は資金繰りに頭を悩ませることになります。
金融機関へは融資相談が殺到しました。同時に政府からもセーフティーネット4号認定の拡大や危機関連保証等による保証対応の強化が行われることとなり、各金融機関は対応に追われます。
とはいえ、これまでもリーマンショックや東日本大震災などで緊急的な融資対応はしてきていますので、本来であれば金融機関がそれほど青ざめる事態ではないはずです。
しかし、今回の危機は「世界経済が比喩でなく止まる」現象が起きており、また「いつ正常化するかわからない」という極めて深刻な特徴があります。
それゆえ、金融機関の現場で起こっていたのは「返済のあてがない相手への多額の融資実行」であり、本来であればありえないはずの融資が乱発されているのです。
銀行や信用金庫など民間金融機関のコロナ関連融資対応の実情
コロナ融資は、ほぼ、新型コロナウイルス感染症の影響により失った売上補填を目的としています。実務に際して私から見た特徴は以下のものとなります。
返済原資が示すことができない
通常、融資を行う際は何をもって返済するのかを明確にします。返済原資が不明瞭な融資は本来行うことはできません。
コロナ対応資金は、コロナにより失った、又はこれから失う予定である売上分を融資することになりますが、申込時点でコロナ終息が全く見えてこない以上、返済原資を示すことなど基本的に誰もできない訳です。
「返せるかどうかわからないけど、借りないと倒産するから貸してくれ」と言われて融資する金融機関は本来は絶対にありませんが、そのあり得ない対応がこのコロナ禍では頻発しています。
もちろん各信用保証協会の付保(保証付き)があるのも大きいですが、保全のみでは本来融資は行いません。
借入する業種に偏りはないが、緊急度に大きな差がある
前述のコロナにより大きく影響を受ける業種については、売掛回収サイト(決済期限)が短いことも災いし即融資相談となりましたが、その他の業種についてもどこまで影響が波及するかわからないことから、幅広い業種で予防的に借入を行っています。
国や市による利子補給や保証料負担があるのも大きなポイントで、利子補給期間内であれば実質ゼロ負担で資金調達できますから「借りねば損」という風潮も生まれており、またコンサルタントや会計事務所も積極的に借入を勧めているようです。
飲食業や宿泊業では借りた資金を実際に使っていますが、建築・建設業は影響があまりないためそのままプールしている先も見られます。つまりは、業種によっては資金使途がほぼない融資を金融機関は行っているということです。
本来融資できない財務状況の先にも融資している
もしコロナ禍がなかった場合、この企業へは融資しないという先であっても融資をしている現状があります。
通常、赤字補填資金はかなり旗色の悪い資金ニーズとなるので、債務者区分が要注意先であったり破綻懸念先である場合、融資対応は極めて困難となるのが普通です。
しかし現在のコロナ禍を原因とした場合、かなりハードルを下げて対応しています。当然に信用保証協会の付保を前提とはしますが、通常であれば貸さない先へも融資をするというのは近年まれに見る流れといって良いでしょう。
大胆に言い切ってしまえば、審査機能を一時的に麻痺させているといえます。
以上3点がコロナ融資を金融機関サイドからみた特徴となりますが、いかに異常かつ歪な融資を行ってるかご理解いただけると思います。
同じ金融機関の方からは反論もあろうかと思いますが、ぶっちゃけ「保証が付けば貸す」状態です。
それは本来の融資審査作業を行なっている余裕がないのも大きな理由だと思いますが、融資は融資ですので、雑な対応をしたツケは必ず金融機関に降りかかってきます。
金融機関はそのツケと今後戦うこととなりますが、最前線に立つのは金融機関だけではなく、債務者である企業もです。
次項から、コロナ融資と今後の対応について解説していきます。
コロナ融資は爆発が約束された時限爆弾
コロナ融資を借入れた最大の動機は「赤字補填資金」のはずです。自粛ムードが高まった4月頃から7月に至るまでの約3カ月間は、特に飲食・宿泊業において売上がほぼゼロの状態であったと思われます。
売上がなければ売上原価は最小限に抑えられますが、販売管理費等はそうはいきません。いわゆる固定費が企業を苦しめました。
行政からの各種給付金があったものの、規模の大きな企業にとっては焼け石に水であり、急場凌ぎともなりません。資金繰りを支えたのは、やはり融資でした。
コロナ融資の最大の特徴として、元金返済据置期間が設定されていたことが挙げられます。制度にもよりますが最大で5年間の据置期間となっており、通常では考えられないほど長期間となっています。
ですが、実務上では圧倒的に多い据置期間は1年であり、5年という案件は見た記憶がありません。
これは運転資金で借りた場合の返済期間の最長が7年〜10年であることが影響しています。
5年据え置いた後、わずか2年〜5年で返済するのは現実的ではないからであり、その点について事業者と金融機関の意見が一致したからでしょう。
当然ですが、借りたものは返さなければなりません。元金据置期間中は利払いのみであり、借り入れた資金から支払うことも十分可能ですが、元金の返済が始まる時は必ずきます。
ほとんどの事業者は来春の3月〜6月にその時が来るはずです。
借りた資金に手をつけずそのまま返済する事業者もあるかと思われますが稀でしょう。
もしコロナ禍の影響が、元金返済時期になっても未だ色濃く残っていた場合、ほとんどの事業者が自動的に開始される元金返済の金額に戦慄すると思います。
何しろ現在確認できている試算表等ではおよそ返済できないキャッシュフローであるのがほとんどなのです。当面凌げるだけの運転資金の借入金額に対する返済は、決して軽いものではないのです。
返済据え置き期間がくる前に事業者がやっておくべきこととは?
近い将来に必ずやってくるコロナ融資の返済。そのまま約定返済ができる状況ならば問題ありませんが、おそらくそれは困難でしょう。
何しろ借入をしたのは赤字補填資金であり、設備投資と違いなんら新たなキャッシュフローを生む借入ではないからです。
約定返済がスタートする前に何をしておくべきか。全く返済できない状況であるならば、再度の元金据置を金融機関に依頼するの一択です。それしかありませんので、早めに金融機関に申し出てください。
そうでない方は、以下のアクションを行うべきでしょう。
①現状での固定費を数字で把握し、削減の可能性を探る
コロナの影響は徐々に低下していくとしても、以前の状態に戻るまでには時間がかかります。来年になれば全てが元どおりになると考えるのは危険です。
戻らないことを前提とし、今いちど固定費をしっかりと数字で把握し、削減の可能性を探るべきです。
そしてボトムの固定費を算出し、現状の売上水準でどれだけのキャッシュフローとなるかをしっかりと認識しておきましょう。そうすれば自然にどれだけ約定返済ができるかわかるはずです。
②短期の事業計画書を作成する
コロナの影響下では先を見通すことは極めて困難ですが、いつまでも立ち止まっているわけにはいきません。
見通しは困難であっても以前よりは見えてきたものもあるはずですので、3年間の事業計画書を作成すべきです。
事業を縮小するのかあえて拡大するのか、前述の固定費の見通しなど、不確定でも構いませんので事業計画書を作成し今後のアクションの基盤とすべきです。
また、金融機関に対し再度の返済据置を希望する場合は事業計画書の作成が必須になります。何の見込みもないままでは金融機関も据置延長を受け入れるわけにはいかないからです。
③新たな資金調達の見込みを立てる
約定返済が迫っているのに新たな借入のアクションは違和感があるでしょうが、資金ショート=倒産ですので資金調達の見込みがあるかないかは常に把握しておくべきです。
コロナ第二波では収まらず、なおかつ死亡率が上がっていった場合、大規模なロックアウトも考えられます。最悪の事態に備えて借入の可否を確認するに越したことはありません。そして借りれるようでしたら借りてしまった方が良いです。
金融機関は
・今の売上で固定費等は賄えるのか(①)
・今後安定して約定返済が可能なのか(②)
・いざという時どこかで資金調達できるのか(③)
を確認した上で、必要であれば条件変更等を行いますし、約定返済がそのままスタートしたとしてもあらためて確認をしてくる可能性は十分にあります。
来年春頃に、①〜③をしっかりと対応している企業に対して、金融機関は高い評価をつけると考えます。コロナ禍は動かしがたい事実ですが、傍観せずに自社を分析しロードマップを示す姿勢に金融機関は強い事業意欲を感じ、積極支援すべき対象と見るはずです。
最悪なのはコロナ禍を融資でしのいだだけで危機感なく具体的アクションを何も起こしていない企業です。自助努力を何もせずただ立ちすくむ者を信頼する金融機関はありません。
自社と市場を直視し、覚悟と意欲を持って事業に真摯に臨む企業はいつの時代も金融機関から支援を取り付けることができます。このコロナ禍は金融機関にとって企業を選別するフィルターとなる可能性が大いにあります。
先手を打って行われる具体的なアクションは、金融機関に対し千金の価値があると覚えておいてください。