コロナウイルスの影響により、日経平均株価は一時16,000円台まで値下がりするなど、年初では誰も予想しない事態となっている昨今の状況。世界的にも、アクセル全開の金融政策で、なんとか株価含めて景気を刺激している状態です。
日本では、日銀がCPの買入増加や、国債の買入額の上限を撤廃する等、市場の資金が停滞しないよう様々な制度を導入しています。
そのなかでも、日本政策金融公庫(以下、公庫)を中心に、民間金融機関も含めて、幅広い制度融資枠を設けることで、コロナウイルス対策関連の融資が行われています。
多くの企業が、手元資金の確保するために融資の申込をしているでしょう。その融資に対して、現役の銀行員が金融機関の目線で解説していきます。
目次
金融機関が金利0%でも営業するメリット
そもそも今回の制度融資では、「無利息・無担保」という条件が前面に出てていて、金融機関にとってはハイリスク・ノーリターンの構造に見えます。
無利息=金融機関の利益なし
無担保=貸し倒れに対するリスクヘッジなし
ということでもありますから。
それにも関わらず、付き合いのある金融機関の方から積極的に支援の提案が来ることに、疑問を感じている経営者の方もいるのではないでしょうか。
実は、今回のコロナ関連融資は、金融機関にとって企業を支援するという「大義」の他に、大きなメリットもあるため積極的に営業をしているのが実態です。
貸倒リスクがない
今回の融資は、信用保証協会付融資の仕組みで成り立ちます。
つまり、仮に本件融資金がデフォルト(貸倒)した場合であっても、金融機関は貸倒融資金の全額が保証協会に保証されているため、リスクが全くないことになります。
利子補給による高収益貸金
今回の制度融資で「無利息」と記載されていますが、この無利息には2種類の無利息があります。
「契約書上の金利0%」と「実質無利息」です。
契約書上の金利0%は、言葉の通り、金利を企業に一切請求しません。
実質無利息とは、1.3%(セーフティネット保証4号・危機関連保証)もしくは1.4%(セーフティネット保証5号)の金利を企業から受け取ります。
企業は、金融機関宛に支払った利息を、各市町村に請求することで支払った利息分が戻ってくる為、実質0%の融資となる仕組みです(一部の市町村では取扱いしていないケースがあります)。
2種類の無利息融資どちらに対しても、金融機関は、企業に利息を請求しない(減額している)分、各都道府県から1.97%(セーフティネット保証5号は2.07%)の利子補給を得ています。
つまり、保証協会に優良保証された2%近い貸金を実質的に融資していることになります。
長引く超低金利時代に突入し、過去と違い、ちょっとした優良先であればプロパーで金利1%未満の融資が恒常的となるここ数年の状況下、実質金利2%の優良保証資産が積上げられるのは金融機関にとって非常に大きな財産となるでしょう。
また、なかなか融資の切り口が見つからなかったキャッシュリッチ企業に対しても、融資の検討をしてもらえるだけでなく、企業との関係性を深められるチャンスとなるため、積極的に声掛けを実施しています。
制度融資額の上限が設定されているため、民間金融機関は他の競合金融機関に融資枠を利用されないよう、とにかく融資の提案を早期に促し、申込を受付するのに躍起になっているのが実態です。
コロナウイルス対策関連融資の承認率と審査落ち理由
結論から言うと、今回のコロナウイルス対策関連融資はかなり審査が甘いです。ここ数年と比べると承認率は「限りなく100%に近い」と言っても良いくらいです。
政府からのプレッシャーがあるのかもしれませんが、保証協会の審査ハードルは非常に下がっています。「ばらまき」と言っても過言ではないでしょう。
金融機関が正常先と分類している企業に関しては、売上が昨対比かなり減収していても、何も問題なく保証の承認が下ります(売上規模に明らかに見合っていない融資金額の申込に対しては、減額承認になることもあります)。
要注意と管理している企業に対しても、簡単な資料や業績に関するレポートを作成する程度で、保証承認されることが大半です。
業績が悪く、毎月元金の返済を猶予しているリスケ先に対しても、新規の融資が出ている状況です。
リスケ中にコロナ融資を申し込んで謝絶となった方の実際の話↓
https://www.youtube.com/watch?v=JEU4RUeKKDg&feature=youtu.be
申込内容に対して、せいぜい元金返済の当初据置期間の短縮や、融資金額の減額条件が付く程度で、「0回答」というのは極めて稀なケースだと考えられます。
今回のコロナウイルス関連融資は、リスケ先などの、通常時であれば絶対に新規の融資が出せなかった先に対しても、何らかのニューマネーの保証が出ている状況で、政府の本気具合を強く感じます。
考えられる非承認 審査落ち理由
SNSや一部のニュースサイトでは、新規の融資が得られなかった企業が、政府に対して不満を漏らしている例が紹介されています。
先述の通り、今回の制度融資の承認率は限りなく100%だと感じているため、このような記事の信憑性は定かではありませんが、考えられる否認理由を挙げていきます。
反社会的勢力等
そもそも金融機関が支援出来ない方々です。どの業界でも反社会的勢力との取引はNGですが、特に金融機関は反社会的勢力との関係を徹底的に排除しています。
金融機関には、警察のデータベースと連動し、反社会的勢力に該当しないか検索するシステムがあるため、融資申込みの際、申込人が反社会的勢力に該当した場合は、当然に融資を断ります。
たとえ貸倒リスクが無かったとしても、金融機関という社会的責任を果たすことを、優先するのです(当り前ですが)。
すでに業績が著しく悪かった先
今回の制度融資は、リスケ先に対しても何らかの新規融資が出ている例が多くある為、融資否認のケースは非常に少ないことが予想されます。
しかしながら、もともと破産寸前で、コロナウイルス関係なく近い将来破産する可能性が高かった企業に対しては、否認をしていることが考えられます。
赤字が恒常化しており、コロナウイルスが結果的に「とどめを刺した」という形で資金繰り破綻寸前の企業が、融資否認されたということは、充分に考えられるでしょう。保証協会としても、どうしても業績から支援できない企業というのが、あったかもしれません。
各市町村の認定否認
今回の保証制度を利用するにあたって、保証協会の与信判断以外に、各市町村の認定も必要になります。売上の減収割合によって、利用する保証制度が変わってきますが、少なくとも前期比▲5%以上の減収が条件となってきます。
業種によっては、将来的な減収は確実なものの、実績として減収していない企業も多くあると思います。
このような企業は、将来の売上の予測資料を提出して、各市町村の認定を取得しますが、あまりに減収の算出根拠が雑な場合や、資料の信憑性が欠けている場合は、市町村の認定が取得出来ない可能性があります。
市町村の認定が取得できるように、申込金融機関と提出方法や資料について相談してください。
審査スピード 融資回答スピード
融資の承認率もさることながら、融資の回答スピードについても企業が気になるところでしょう。
企業によっては、申請した融資を当月の資金繰りに想定している企業も多くあると思います。民間の金融機関と公庫によって回答速度状況が異なることが予想される為、各社の状況について解説します。
民間金融機関
私のエリアの4月の保証協会宛の新規融資申込件数は、昨年の4月に比べて約20倍の件数がありました。各信用保証協会も、担当者を増員して審査対応をしていますが、なかなか捌ききれないというのが実態でしょう。
回答速度については、4月初旬の申込に関しては、問題なければ1週間程度でしたが、4月の中旬以降の申込は、早くても2週間程度の期間を要します。
審査ハードルを大きく引き下げて、回答スピードを優先した運営をしていますが、4月中旬の申込案件のなかには、まだ担当者すらついていない案件もあるというのが実状になります。
また、企業によっては、プロパー融資が恒常的になっていたため、長期間、保証協会付融資を利用していなかった企業もあるでしょう(特に、財務・業績優良企業)。
そういった企業は、保証協会のなかの企業概要や決算書の登録から始まる為、たとえ業績が良かったとしても、システム登録の期間分、通常の企業より回答速度が遅くなることもあります。
5月に差し掛かりますが、現状から推察するに、早くても2週間、場合によっては1ヶ月以上審査に時間を要することを覚悟すべきかと考えます。
特に、業績に懸念がある先に関しては、保証協会内での稟議を通すために、一程度の時間が更に掛かるでしょう。各金融機関から照会があった際は、速やかな回答や、資料提出することを推奨します。
日本政策金融公庫
公庫は、民間金融機関の比べ物にならない程、案件が立て込んでいるでしょう。
保証制度の種類が多い為、制度毎に申請書類の作成や、融資稟議の検討をしなくてはいけません。制度の適用要件の確認だけで、多くの時間が掛かることでしょう。
また、同じエリアの民間金融機関の店舗数に対して、公庫の店舗数は圧倒的に少ない状況となっています。さらに、民間金融機関であれば、保証協会に与信判断を依頼し、協会が不明な点は民間金融機関が企業にヒアリングし、説明書を作成するなど、各作業を保証協会と金融機関で分担できますが、公庫の場合はどちらも公庫内で独自に調査しなくてはいけません。
そういった実情を勘案すると、民間金融機関以上に、審査に時間を要していることが伺えます。
審査スピードと資金調達量のどちらも優先する企業は、民間金融機関でセーフティネット保証もしくは危機関連保証の融資を申込み、並行して公庫独自の制度を申込することによって、資金調達間口を広げていきましょう。
まとめ
政府は、倒産件数を減らすために、かなりの努力をしていることを強く感じます。
しかしながら、多くの企業に資金供給しているのは事実ですが、一方でコロナウイルスだけが資金繰り悪化の原因ではない企業にも、多くの融資をしていることでしょう。もしかしたら、企業を延命させているだけの可能性もあります。
足元では、政府の予算により、保証制度を利用して金融機関が企業を支援できていますが、今後プロパー融資で支援しなくてはいけない状況となった際、一転して審査ハードルが上がるのは間違いないでしょう。
零細企業や個人事業主は日本政策公庫に駆け込んでいる人も多いかと思いますが、通帳を持っている地元の地銀や信用金庫に一度話を聞きに行ってみるのも手かもしれませんね。
僕は公庫のコロナ融資には通って入金待ちなのですが、それとは別で、事業融資の取引はないものの個人通帳は持っている地銀と信金に話を聞きに行ってみるつもりです。少額ですが3年ほど毎月欠かさず預金してきたので、門前払いはされないんじゃないかと淡い期待を抱いています。