新型コロナウイルスによる経済・景気状況の悪化に対応するために、緊急対応策が発表されました。
1月下旬には、中小企業関連団体・支援機関・政府系金融機関等1,050拠点に「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」が設置され、経営相談や資金繰り相談に対応するとともに、3月10日には緊急対応策(第2弾)が公表され、資金繰り支援を中心に支援策が拡充されています。
目次
日本政策金融公庫の新型コロナウイルス感染症特別貸付
新型コロナ倒産対策の融資制度は基本的に0.9%の金利優遇がメインになります。
そこから、一定の条件を満たせば実質無利子になったり、売上の減少がなくても借りることができるというものへ派生します。
まずは、日本政策金融公庫の新型コロナ対策資金の基本の融資制度である「新型コロナウィルス感染症特別貸付」の商品概要について解説します。
適用条件 | コロナ感染症の影響で売上が前年または前々年同よりも5%以上減少 業歴が1年未満の場合には、直近3ヶ月間平均売上高よりも5%以上売上が減少していた場合 |
融資限度額 | 国民生活事業:別枠で最大6,000万円 中小企業事業:別枠で最大3億円 |
返済期間 | 設備資金:20 年以内<据置期間5年以内> 運転資金:15 年以内<据置期間5年以内> |
適用金利 | 1.36%~1.55%の基準金利から0.9%優遇 |
参考・引用:日本政策金融公庫のホームページ(新型コロナウイルス感染症特別貸付)
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/covid_19_m.html
0.9%の金融優遇があるので、0.46%から0.65%という低金利で資金を借りることができます。
運転資金も15年までという非常に長い借入期間が設定されているので、借入後の返済についても会社の経営を圧迫することなく長期間で少しずつ支払っていくことが可能になっています。
また、設備資金も借りることができるので、設備投資を検討している会社にとっては低金利で借りることができる今は、設備投資の大きなチャンスということができます。
ただし、0.9%の金利優遇が行われるのは、当初3年間だけで、4年目以降は基準金利である1.36%~1.55%が適用されるという点に注意しましょう。
適用条件
金利0.9%の引き下げを受けるために必要な条件は「売上高▲5%以上減少」というものだけです。
コロナ感染症の影響で売上が前年または前々年同月よりも5%以上減少していれば0.9%の金利優遇を受けることができます。
業歴が1年未満の場合には、直近3ヶ月間平均売上高よりも5%以上売上が減少していた場合には本制度の対象となります。
業歴が3ヶ月未満の会社はこの制度の適用対象にはなりません。
実質無利子制度について
中小事業者に対して実質無利子にするという融資制度は以下の条件を満たした事業主や企業だけが利用することができます。
小規模事業者 | 中小企業者 | |
個人 | 要件なし | 売上高▲20%以上 |
法人 | 売上高▲15%以上 | 売上高▲20%以上 |
個人事業主は、条件なしで無利子の融資を受けることができます。
「運転資金を調達したい」と考えていた個人事業主にとってはむしろ利息負担0円で借りることができるのでチャンスと言えばチャンスかもしれません。
法人が無利子で融資を受けるためには15%もしくは20%以上の売上の減少が条件になります。
ただし、実質無利子制度は最初から無利息で借りることができるわけではありません。
上記「新型コロナウィルス感染症特別貸付」を借りており、その後利子補給を受けるという以下のような流れになります。
- 0.9%優遇金利でお金を借りる
- 利息付きで日本政策金融公庫へ返済する
- 後から利息分が還付される
利息は後から利子補給という形で還付されるので結果的には無利息ですが、一度利息は日本政策金融公庫へ支払わなければならないという点に注意するようにしてください。
また、中小企業事業では3億円までの融資枠がありますが、利子補給が受けられるのは1億円以下の部分だけです。
融資限度額の別枠の意味
融資限度額は、
国民生活事業:別枠で最大6,000万円
中小企業事業:別枠で最大3億円
となりますが【別枠で】となっています。
これは、日本生活金融公庫で一事業主・一企業が借りることができる限度額があるのですが、その限度額と別で借りることができるということです。
今まで日本生活金融公庫で限度額まで借りてしまっている場合でも、新型コロナウィルス感染症特別貸付は別途借りることができる訳です。
国民生活事業と中小企業事業とは
日本生活金融公庫の貸付制度には国民生活事業と中小企業事業に分かれています。
日本政策金融公庫では中小企業事業を利用できる対象を以下のように決めています。
業種 | 規模 |
製造業、建設業、運輸業など | 資本金3億円以下 または 従業員300人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下 または 従業員100人以下 |
小売業 | 資本金5千万円以下 または 従業員50人以下 |
サービス業 | 資本金5千万円以下 または 従業員100人以下 |
中小企業事業は上記の規模の条件を満たすことが求められていますが、法人でも個人事業主でも借りることができる定義となっています。
一方、国民生活事業の方は融資対象は特に定められていません。
日本政策金融公庫は国民生活事業を「小規模企業向けの小口資金や新規開業資金、教育ローンなど」と定義しているだけです。
上記をふまえると、事業規模の小さな個人事業主でも中小企業事業を利用できますし、中小企業でも国民生活事業を利用することは論理的には可能です。
しかし、国民生活事業と中小企業事業は融資制度の中身に以下のような違いがあります。
- 中小企業事業の方は借入可能額が大きい(平均融資額は9,000万円程度と言われている)
- 国民生活事業は原則無担保、中小企業事業は原則担保が必要
つまり、企業が必要な資金の規模や、担保提供の有無によって、国民生活事業と中小企業事業は分けられるということです。
「お金を借りたい」と日本政策金融公庫に相談した時に、必要金額(融資可能な金額)が大きく担保も提供できるのであれば中小企業事業での貸付となりますし、金額が1,000万円以下程度の小規模なもので担保提供も難しいのであれば国民生活事業での貸付となります。
「自社はどっちに該当するのか」ではなく、「相談した結果として日本政策金融公庫が国民生活事業と中小企業事業のどちらで対応するのかを決定する」と考えた方が分かりやすいでしょう。
日本政策金融公庫のセーフティネット貸付の貸付条件緩和
新型コロナウィルス感染症特別貸付とは別に、日本政策金融公庫はセーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)という融資制度も用意しています。
セーフティネット貸付は今回のコロナショック以前からある制度で、経営環境の変化(売上減少も含む)に対応するための融資という位置づけです。
今回の新型コロナウィルス感染症対策の一環として、このセーフティネット貸付の貸付条件が緩和されました。
コロナウィルスによる売上の減少がなくても、「今後売上の減少が起こる可能性がある」という条件を満たしていれば、借りることができ、実質どんな企業でも利用することができます。
新型コロナウィルス感染症特別貸付とは別枠で借りることができる制度ですので、新型コロナウィルス感染症特別貸付の枠を使い切ってしまった場合にも利用することができます。
主な概要は以下の通りです。
適用条件 | 今後の売上の減少が見込まれる事業者 (従来の売上5%減少の条件を緩和) |
融資限度額 | 国民生活事業:4,800万円 中小企業事業:7億2千万円 |
返済期間 | 設備資金:15 年以内<据置期間3年以内> 運転資金:8 年以内<据置期間3年以内> |
適用金利 | 1.91%(国民生活事業) 1.11%(中小企業事業) |
参考・引用:日本政策金融公庫のホームページ(経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付))
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/07_keieisien_m.html
緊急融資制度は借りやすい
今回登場した緊急融資制度は中小企業にとっては非常に借りやすいと言えます。
むしろ、もともと銀行の借入を延滞しているような企業でない限り、営業できている企業であればほとんどの企業で借入をすることができるのではないでしょうか?
リーマンショックの緊急融資ではほとんどの企業が借りることができたことを考えれば今回も同じように審査に通過できるものと考えられます。
売上条件を満たすこと
緊急融資制度は非常に借りやすいものと考えられます。
税金で保証枠や融資枠が設けられているので、日本政策金融公庫や信用保証協会におっても、融資(保証)したお金がデフォルトしたとしても大きなリスクはありません。
そのため、売上減少の条件を満たすことができれば多くの企業がお金を借りることができるでしょう。
また、売上の減少の原因が新型コロナウィルスの影響でない場合でも、売上さえ減少していれば本制度を利用することができます。
リーマンショックの経験から⇛ほとんどの企業が借入のチャンスがある
緊急融資制度ができる前は、融資を断るのを何度か見たことがありましたが、緊急融資制度ができてからは希望する企業にはほとんど貸付を行うことができたという状況でした。
実際に多くの企業に融資を行い、リーマンショック時の倒産を防いでいます。
今回も同じく希望すれば多くの場合で融資を受けることができるでしょう。
しかし、以下の企業は審査に通過することが難しいと考えられます。
- コロナウィルス蔓延前から実質的に倒産していた会社
- 日本政策金融公庫に対して返済を怠っている会社
- 信用保証協会に代位弁済を受けている会社
これらに該当しなければ、かなりの確率で融資を受けることができるものと考えられます。
このような時には、緊急融資制度であるにも関わらず銀行は行員に対してノルマを与えている可能性があります。
実際に筆者の知り合いの飲食店では、コロナ対策資金登場以降、毎日のように銀行が「金を借りてくれ」とやってくるとの話を聞きました。
銀行が融資獲得のために激しく営業を行いますが、無計画に借りてしまうと長期的には資金繰りが苦しくなってしまいます。本当に資金が必要かどうかをよく検討した方がよいでしょう。
一方、以前から設備投資を検討していた会社にとっては、有利な条件で借りることができる今がチャンスかもしれません。
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