銀行が取り扱う貸付・融資の方式には様々な方法があります。代表的なものとしては手形貸付、証書貸付、手形割引、当座貸越となります。
目次
手形貸付とは? 分かりやすく詳しく解説
1年以内に返済期限が到来する短期貸付金
手形貸付とは返済期限が1年以内に到来する短い期間だけ融資を行う貸付方法です。
金額と期日が記載された手形によって貸付を行うことから手形貸付と言います。
一般的には銀行は手形貸付のことを短期貸付金と呼びます。
利息は前払い
手形貸付の利息の支払いは前払いです。
100万円を1年間手形貸付にて金利2%で借りた場合には利息の2万円を差し引いた98万円が口座へ振込まれ、返済時には手形の額面金額である100万円を返済するという方法で利息を支払います。
なお、期日前に返済を行った場合には、払いすぎている利息が戻ってきます。例えば上記の手形を期日の1ヶ月前に返済してしまった場合には1ヶ月分の利息を払いすぎていることになります。
この場合は、100万円×2%÷365日×30日=1,644円が戻し利息として銀行から戻ってきます。
そのため、期日前に返済しても損をするというようなことはありません。
返済は原則として期日一括
手形貸付の返済は原則的に期日に一括で返済を行います。後述しますが、証書貸付のように毎月何日にいくら返済するというような取り決めは手形貸付にはありません。
期日に全額を一括で返済するのが原則です。
ただし、期日前であれば手形の内入れという方法で分割にて返済することも可能です。
この際にも、返済した部分に関しては利息を最初に払いすぎていることになりますので、未経過分の利息が銀行から戻し利息として戻ってくることになります。
短期で資金が必要な事例に限られる
手形貸付は短期貸付金です。手形貸付の返済は一括返済ですので、手形貸付が適用されるのは短期間だけ資金が必要な場合に限られます。
具体的には手形割引と同様に資金ギャップを埋めるためです。
建設業などでは、最初に工事にかかる経費が発生し、工事完了後に売上金が大きく入金になります。この際、手元にお金がなければ工事を行うことができずに仕事が取れないことになります。
工事の受注から工事完成後の売上金の入金までが3ヵ月だとすると、この3ヶ月間の資金ギャップを埋めるために期限3ヶ月の手形貸付を行います。
このように特定の工事の運転資金を借りることを工事引当資金などという言い方をします。
工事引当資金とその融資について詳しく知りたい方は↓
工事引当資金融資とは?銀行評価と工事延長や目的外流用の場合の銀行の対応
工事引当資金のように短期間でドバっと売上が入金がある場合は短期貸付金である手形貸付向きなのですが、一時的な売上の減少によって会社の運転が厳しいような場合には手形貸付は向いていません。
そういった運転資金の融資は、景気動向や経営努力によって売上が徐々に回復するまでの当座をしのぐための融資になるからです。
このため、手形貸付は短期間だけお金が必要であるという場合のみ利用される融資方式です。
手形貸付の審査
手形貸付の審査は、返済が可能かどうかです。特に数ヵ月という短期間で本当に返済が可能であるかどうかを審査されます。
引当工事があるのであれば当該工事の契約書の提出が必要になりますし、財務状態が健全かなどもしっかりと審査されます。
ただ、工事の引当代金として手形貸付を、工事を受注するたびに繰り返し銀行から融資を受けているような企業もあり、そのような企業の場合には工事の契約書だけで、比較的短期間で融資を受けることができるようです。
手形貸付のメリット
手形貸付のメリットは、事業に本当に必要な部分しかお金を借りないという点にあります。
短期間での融資ですので、経費として発生するお金が具体的にいくらで、その経費からいくらの利益を見込んでいるから返済には問題ないと判断されるからこそ融資を受けることができるのです。
そのため、基本的には個別のプロジェクト(工事等)に必要もないお金を借りることはできません。
会社の健全性の判断材料として、短期借入金である手形貸付を繰り返し利用しており、長期借入金がない会社は財務状態が健全であると言われています。
また、短期間での借入であるため利息の負担が少なくて済むという点もメリットです。
手形貸付のデメリット
手形貸付のデメリットはやはり一括返済であるという点です。
もしも、工事の発注先が期日通りに売上を入金してくれなかった場合には手形は期日までに返済できないことになります。
突発的な事情の際に都合をつけなければならない金額が大きすぎるという点が手形貸付のデメリットです。
少しずつの返済である長期借入金であれば突発的な事象があっても返済分程度のお金を用意することができる可能性は手形貸付よりも高くなります。
長期借入金は証書貸付による融資が採用されることが多いです。
証書貸付とは? 分かりやすく詳しく解説
1年超の長期借入金
証書貸付とは要するに契約書による貸付方法です。(金銭消費貸借契約書)
手形貸付が金額と期日しか返済に関する記載がないのに対して、証書貸付は毎月の返済期日、金利、毎月返済額、ボーナス返済額、初回返済日、最終返済日などと言った返済に関する様々な細かい取り決めを契約時に行い、返済は契約書に記載した内容を基に行います。
返済に関する細かい契約を行うことができるため、借入期間が1年を超え分割返済の長期借入金として利用される貸付方式です。
住宅ローンやカーローンなど我々個人が普段なじんでいる借入金はほとんど長期借入金です。
利息は毎月の返済時に分割で返済
証書貸付の利息の支払い方法は毎月の返済日に行います。
契約書によって取り決めた金利を、契約書によって取り決めた返済方式から計算される金額を元金の返済と一緒に銀行へ支払います。
元金均等と元利均等
証書貸付の返済方法は元金均等と元利均等という返済方法があります。
元金均等とは借りた元金を毎月均等に支払い、利息は別に払っていくという方法です。元金が減っていくのに合わせて利息も減るわけですから毎月の返済総額は月によって異なります。
元利均等とは元金と利息の合計が毎月同額になるように返済を行っていく方法です。
具体的に1,200万円を金利2%で期間10年で借りた時の返済金額の違いを計算してみましょう。
元金均等
返済元金=1,200万円÷10年÷12か月=10万円
単純に借りたお金を通算借入期間で按分した金額を毎月返済していくことになります。
しかし利息の支払い額は別になります。
第1回目支払い利息=1,200万円×2%÷365日×30日=19,726円
つまり元金均等の場合、返済元金10万円+1ヶ月分の利息19,726円=119,726円の返済を第1回目に行います。
利息は元金が変われば毎月異なりなす。
2回目の支払い利息=(1,200万円-10万円)×2%÷365日×30日=19,561円
1回目で元金を10万円返済した分だけ利息が発生しないため、返済回数を重ねるたびに利息の支払い額が低くなっていくことが特徴です。
元利均等
上記の事例で元利均等にすると毎月支払額は110,416円となります。
元利均等は毎月元金への支払いへ充てる分と利息の支払い額を微妙に調整して、総額で同じ返済額を実現しています。
複雑な計算式ですので、ネット上などからローン電卓ソフトを探して計算してみてください。
同じ返済期間の場合には元金均等の方が、最初の返済額は多くなりますが、トータルの利息負担は少なくなります。
また、会社の経理においては今月元金をいくら返済して利息の支払いはいくらか明確に区別して帳簿をつけなければなりません。
このような時には元金の返済額が毎月一定である元金均等の方が分かりやすいため、会社への事業性融資の際には元金均等が利用されることが多くなっています。
反対に、毎月決まった収入の中から返済額が一定である方が家計のやりくりがしやすいため、個人ローンでは元利均等が一般的になっています。なお、希望すれば元金均等を選択することも可能です。
金利はケースバイケース
個人向けローンではカードローン以外のあらゆるローンが証書貸付です。
住宅ローンであれば金利は低いですが、使い道自由なフリーローンなどでは金利は高くなっています。
事業資金においても金利を決めるのはどの商品を選択するのかと、会社の決算内容ですので、金利はケースバイケースであると言えるでしょう。
証書貸付の審査
証書貸付の審査は、毎月返済していけるかどうかです。
長期間融資を行うため、事業性融資であればその資金を融資したことによって会社の将来像はどうなるのか、事業計画なども審査の対象となります。
個人向けであれば、今は返済していけるとしても完済時まで今と同じ状態を続けることができるのかどうかも重要な審査の材料となります。
勤務先や勤続年数を審査の際に見ている理由は今後も同じ勤務先に勤務して今以上の年収を稼いで行けるかどうかを審査しています。
証書貸付のメリット
証書貸付のメリットは何と言っても分割で返済していけるという点です(上で記載した手形貸付との大きな違い)。
一括では返済できない資金もある程度時間をかけることで返済を行うことができます。
事業資金では数億円にのぼることも珍しくない設備資金として利用されるケースが多くなります。
設備資金は1年間だけではなく、設備が稼働する間当該設備から生み出される利益から長い時間をかけて返済を行うことができます。
個人で言えばなんといっても住宅ローンに代表されるような、少ない収入の中から大きな買い物ができるという点が特徴です。
証書貸付のデメリット
証書貸付のデメリットとしては期間が長期化することによって利息支払額が大きくなってしまうという点です。また、運転資金を長期資金で借りてしまうと、必要外の借金を背負ってしまう可能性があります。
短期資金の場合にはある特定の事業に関する経費しか借りない場合がほとんどです。
しかし、長期資金は将来の経常的な運転資金の不足分を借りるものですので、必要資金の計算が曖昧です。
このため必要外の借金を背負ってしまうこともあるでしょうし、予定よりも早く資金が枯渇してしまうというリスクがあります。また、当初計画した通りに売上が上がらなかった場合には、毎月の返済分だけ資金繰りがさらに悪化してしまうというリスクにもさらされます。
いずれにせよ、必要資金の計算と会社の将来の予測はあくまでも不確定ですので、不確定な分だけ様々なリスクがあると言えるでしょう。
手形割引とは? 分かりやすく詳しく解説
まず先に、混乱しやすい「手形貸付」と「手形割引」を明確に区別しておきましょう。
手形貸付は冒頭で詳しく説明しましたが、端的にまとめると、
金銭消費貸借契約証書の代りに約束手形 (借主を振出人・銀行を受取人とする) を振出し、手形金額に相当する金額の貸付融資を受けること=手形貸付
取引先から振り出された受取手形を期日前に銀行や信金などの金融機関に持ち込み、利息分(買い手の手数料)を引いた手形金額をすぐに受け取ること=手形割引
です。
受取手形を期日前に現金に変える
商品やサービスの代金の支払いを受ける際には現金で受け取る場合もありますが、商売・ビジネスの世界では料金の支払いは後払いという場合がほとんどです。
この後払いについて「〇月〇日までにいくら払います」という手形を発行すると、手形を受け取った会社はその手形を期日になったら銀行へ取り立てを出せば、現金に変えることが出来ます。
「払います」と約束しただけの売掛金よりも手形を受け取った方が代金決算に信用力が増します。
この、取引先から受け取った手形のことを受取手形と呼びます。
受取手形は支払期日までは現金化されません。
そのため手形が現金化されるまでの期間中、手形を受け取った側の手元に現金が足りない場合、運転資金が枯渇して会社が回らないことになります。
このような場合、手元にある受取手形を担保のような形で銀行に差し出し、手形の金額分を(利息は差し引いて)銀行から受け取ることが出来ます。これを手形割引と言います。
手形割引を行えば手形が資金化されるまでの資金ギャップを埋めることができ、手元に現金がない会社でも運転資金に困らないことになります。
利息が発生
銀行もタダで手形の割引を行ってくれるわけではありません。お金を貸すわけですから、当然利息が発生します。
利息は手形の割引時に徴収され、手形の額面金額から利息を差し引いた額が入金されます。
例)期日が3ヵ月後の手形500万円を金利3%で銀行で割り引きした。
利息=500万円×3%×(3ヵ月÷12か月)=37,500円
入金額=500万円-37,500円=4,962,500円
このように、事前に期日までの日数分の利息を差し引いた金額が入金となります。
返済は手形の取り立てによって行われる
割引手形の返済は、借主は特に行う必要はありません。
銀行が担保として取っている手形の期日が到来すると、手形振出先の銀行へ取り立てを行います。
すると、手形の金額が銀行へ入金となりますので、返済はそれで終了です。
返済は手形の振出先が行うというようなイメージを持っておけばよいでしょう。
手形割引の審査
手形割引の審査は、当該企業の財務状況などから判断して総合的に審査を行います。
自社の財務内容に基づいて、本来であれば手形の割引など行う必要もないような財務的に健全な企業ほど金利は低くなります。
超健全企業の手形割引の金利は1%を切る金利が適用される場合もありますし、5%程度の金利が適用される企業もあります。また、手形の割引において返済されるかどうかは、手形振出先の企業の業況にも左右されます。
手形振出先の企業も審査対象となり、あまりにも財務的に信用ができない会社の手形は割引に応じないこともあります。
手形割引の仕分け
手形を割り引くと以下のように仕分けを行います。ここでは最も簡単な直説法という仕分けの方法をご紹介します。
受取手形100万円を割引料500円を支払って銀行で割り引いた場合
借方 | 貸方 |
現金(999,500円) 支払利息割引料(500円) |
受取手形(100万円) |
受取手形という資産の勘定科目を支払利息割引料という費用を差し引いた額を現金として受け取ったという仕分けになります。
手形が不渡りとなった場合
手形割引最大のリスクは銀行が期日到来時に手形を取り立てに出した際に、手形が決済できない場合です。手形が期日になっても決済できないことを不渡りと言います。
手形が不渡りとなった場合には自社が手形の額面金額を銀行に返済しなければなりません。←※ここが手形買取との違い。
当座貸越とは? 分かりやすく詳しく解説
限度額を作成するもの
当座貸越は他の借入れと同様に審査を行いますが、他の借入れと最も異なる点として、今すぐにお金が必要かどうかの観点では審査を行わないという点にあります。
当座貸越は「いくらまでは借りることができるという枠」を作成します。
枠の作成後は審査なしで枠の範囲内でお金を借りることが出来ます。
本来であれば、お金を借りる際にはその都度審査を受けなければなりません。
しかし、企業活動の中で本当に急にお金が必要になった時には1週間や2週間の審査を待つ時間の猶予すらない場合もあります。
急にお金が必要になった時の保険的な意味合いとして、当座貸越枠を作成しておくという企業も少なくありません。
約定返済型当座貸越と一般当座貸越
当座貸越には約定型当座貸越と一般当座貸越というものがあります。原則として、当座貸越は期日になった際に一括返済を行い、毎月利息だけ支払っていくものです。
約定返済型当座貸越という契約方法では、毎月利息+αの元金になるように決まった額を返済していきます。我々個人が借りることができるカードローンがイメージしやすいでしょう。
一般当座貸越とは、普通預金や当座預金を一定の範囲内までマイナスになってもよいという契約です。手形や小切手の取り立てがあった時に、口座に残高がなくても限度額の範囲内までマイナスにすることが可能です。
約定型とは違い、利息の支払いは後払い、元金の返済を自分で任意で行います。個人でも作成することが出来ますが、定期預金などを担保として、定期預金の金額の9割程度までしか借りることができない総合口座貸越一般的です。
当座貸越枠にローンカードを付与したものがカードローン
当座貸越とは枠の範囲内で審査を受けることなく自由に借入ができる方法です。ただし、借りる都度窓口に行くのであれば、銀行の営業時間外に資金が必要になった時に対応できないことになります。
そこで、当座貸越枠からATMでお金を借りることができるようにカードを発行することがあります。これをカードローンと言います。
カードローンというと個人向けのカードローンを連想しますが、多くの銀行で事業性のカードローンも取り扱いがあります。
当座貸越の審査
個人向けカードローンの審査は個人信用情報をメインとして、個人向けのローンの中では最も審査が甘い部類に属するローンです。
しかし、これが法人や個人事業主向けの事業性となると話は全く逆になります。
ここまで説明してきたように、事業性の融資の観点は「その資金がその会社にとって本当に必要かどうか」というものです。
当座貸越の場合、一度枠を作成してしまえば、その後はその資金が何に使われるかは把握できません。もしかしたら代表者個人のギャンブル資金などに使われるかもしれません。
このため、当座貸越の審査はある程度財務内容がしっかりしていて、利益も出しており、資金繰りにも問題ない会社でないと審査通過は難しくなります。
貸したお金が何に使われようともこの会社は返済に問題がないと判断できないと、なかなか審査通過は難しいと言われています。
とは言え、個人向けカードローンと同じような10%を超える超高金利商品も取り扱いがあります。
そのようなあからさまに収益を重視した当座貸越では審査通過はそれほど難しくないようです。
当座貸越のメリット
当座貸越のメリットはなんといっても急な入用に対応できるという点にあります。
また、保険的な意味合いで作成しておき、お金を借りる機会がなかったとしたら利息は一切発生しないという点もメリットです。
当座貸越のデメリット
当座貸越のデメリットは自由に引き出せる分、安易に借金をしてしまう可能性が高くなるという点です。
また、その使い道自由な商品性から、銀行にとっては他の商品よりもリスクが高い貸付であるともいえるため、金利は高めに設定されています。
よほど財務状態が健全な会社でない限りは他の借入れよりも金利は高くなります。利息負担が多くなってしまうという点もデメリットな訳です。