中小企業がお金を借りる際には、日本では、会社の代表者が保証人となることが一般的です。これを個人保証などと呼ぶことがあります。
保証人となることを拒否することはできないのでしょうか?
目次
中小企業経営者になぜ個人保証(連帯保証)が銀行から要求されるのか?
会社での借入に関して、代表者が保証人となることはどのような意味で行われるのでしょうか?
中小企業の経営は経営者の意思と同一であるという実態を反映するため
連帯保証人とは、債務者と全く同じ返済義務を負う保証人のことです。
お金を貸している側は、債務者に請求しても保証人から先に請求しても、返済できやすいところから先に請求する権利を持っています。つまり、債務者と全く同じ責任が伴います。
中小企業の多くは経営者の個人商店となっている場合がほとんどです。会社の意思決定はすべて経営者が握り、経営者の方針次第で会社経営は右にも左にも動きます。
会社の意思=経営者の意思であれば、会社に貸しても経営者に貸してもそのお金の使い道は同一であることになります。
また、中小企業の経営者は個人資産を会社のつぎ込んでいる場合が少なくなく、会社と経営者のお財布は一心同体であるという実態もあります。
このため、会社への融資は経営者個人の融資と同義であるともいえることから、中小企業向けの融資には経営者の個人保証がつきものというのが日本の企業融資の慣例となっています。
会社名義の借入金は経営者の自由にできる
中小企業において経営者は会社のお金を自由に使えるという権利を持っています。使い道が会社の維持発展のためであればそれで特に問題はありません。
また、経営者の中には個人資産を会社へつぎ込んでいる人も少なくありません。
つまり個人資産と会社の資産がごちゃごちゃになっているケースが多いわけで、会社のお財布に余裕がある時には「会社に自分の資産を貸しているんだから、会社のお金を個人の用途でつかっても問題ないだろう」という意識が働いてしまいがちです。
会社の利益の中から個人向けに使うのであればまだしも、会社名義での借入金を個人向けの用途へ流用してしまう可能性もあります。
銀行は会社の運転と将来性のために融資を行ったのに、その借入金を代表者個人の目的で使用してしまったら元も子もありませんし、返済に対して懸念が生じてしまいます。
また、ひどい経営者になると、会社名義での借入金を代表者個人が持ち逃げしてしまうという場合もあります。
このようなことを防ぐために、代表者個人を保証人としておくのです。
代表者個人を保証人とすることで、代表者は会社名義で借りた融資金は自分の借金と同一であるという意識になりますし、持ち逃げしたとしても返済義務は自分にありますので、返済の責任から免れることはできません。
会社名義の借入金に対して代表者個人が責任を持つためにも、個人保証は行われると言われています。
返済が滞った際の担保的意味合いも
中小企業に貸した融資の返済が滞った場合、保証人がいなければ会社にお金がない限りは、返済が行われないこともあります。しかし、経営者を保証人としておくことで、銀行は経営者にも請求を行うことができます。
経営者には役員報酬をしっかりと払っているのに、会社に残るお金がないというような場合、経営者には報酬を払っておきながら返済が滞るという状況になる可能性もあります。
経営者の個人保証を得ることによって、銀行は経営者に返済の請求を行うことができます。
また、会社の内容がよくなくても経営者の個人資産があるような場合には担保的な意味合いで経営者を位置づけることもできます。
いずれにせよ、より確実に返済を履行させるために経営者の個人保証は行われると言われています。
融資金の個人保証に対する銀行側の考え
銀行側は経営者の個人保証についてどのような考えをもっているのでしょうか?
基本的には保証人がないと融資は行わない
ここまで述べてきたように、経営者の個人保証を行う理由は、返済を確実に履行させるためです。そのため、銀行は中小企業向けの融資について個人保証を得ることは当たりまえであると考えています。
そうでないと、リスクが高すぎるためです。
また、多くの経営者は、個人保証で借りている借金の返済に懸念がある場合には、経営者個人名義の資産をできる限り少なくして、配偶者や子供名義へと資産を移し、いざ会社が倒産しても個人資産が銀行に取られてしまうことが無いように対策を打ってあります。
そのようなことは銀行も承知していますが、それでも個人保証は融資金の保全という意味合いで行うのが当然と考えています。
そのため、個人保証がない融資という特例が認められない限りは、原則的に当たり前に経営者の個人保証が必要になります。
代表者の個人資産を評価して融資の可否を判断する場合もある
債権の保全という意味合いで個人保証が行われますが、全く逆の観点で、個人資産があるから会社へ融資を行うというケースもあります。
つまり、会社の業況は心配だが、代表者個人が資産をもっているからこれくらいの金額の融資は大丈夫だろうということです。
このような観点から融資が行われた場合には、資産のある経営者の個人保証がなければ銀行は全く信用がない企業に融資を行うことと同じになってしまいます。
会社の信用力を側面から強化するために経営者の個人保証を行うというパターンも存在します。
個人保証の問題点
日本では当たり前に経営者の個人保証が行われてきましたが、個人保証には様々な問題点があるのは事実です。
経営者保証の問題点は以下のものが挙げられています。
連帯保証人という抵抗感
個人保証ということは会社の借入に対して経営者が会社と同等の責任を負うということです。
このため、簡単にお金を借りることができない、保証人となって失敗したら怖いという心理が当然ながら働きます。
それはそれで大切なことではありますが、この心理的な負担が、積極的な投資を行う方向で動きたい企業にとって活動の妨げになっていることも事実です。
事業継承の大きな支障に
今の融資制度では経営者が変わったら、会社名義の借入金の保証人も新しい経営者に変更する手続きを行うことが一般的です。
これは会社名義の借入金の返済を担保するという意味合いで銀行から見たら当然です。
しかし、新代表者からしてみると、自分が判断して作った借金でもないのに、自分個人に返済義務が生じてしまうということになります。
現在、後継者が見つからずに廃業に追い込まれてしまう中小企業が増大しています。その理由の1つがこの個人保証も継承しなければならないという点にあると言われています。
会社を継承するのはやぶさかではないけど、先代の作った借金を個人保証して返済義務まで負うのは嫌だという人が多くいます。
再挑戦が困難に
会社が倒産すると、倒産した会社の個人保証を行っていた経営者は倒産後に返済の義務を負うことになります。そのため、一度会社を潰してやり直すということが非常に難しくなってしまいます。
個人保証した借金の返済に追われて意欲ある起業家が再挑戦するチャンスを潰してしまうという問題点もあります。
有限責任と無限責任
日本においては約90%の企業経営者が会社名義の借入金の個人保証を行っていると言われています。
しかし、これは欧米では決して当たり前ではありません。
株式会社は有限責任です。
つまり、会社が倒産しても経営者が負うのは会社に対して出資した株式が紙くずになるまでしか責任を問われないということです。
無限責任の会社とは何かと言えば、会社が倒産した場合に無限責任会社の社員は会社の債務を個人資産を費やしてでも弁済する義務を負う会社です。
株式会社の代表者が会社名義の借入金に対して個人保証を行うということは、有限責任であるはずの株式会社が実質的には無限責任となっているということでもあります。
欧米では「有限責任のはずなのに、なぜ経営者個人が無限責任を負わなければならないの?」という考えが浸透しているため、個人保証が当然ではありません。
拒否はできないの?
銀行目線で見れば当たり前のように行ってきた経営者の個人保証ですが、この個人保証を銀行との話し合いの中で拒否することはできないのでしょうか?
銀行が保証人を条件とした場合には拒否はできない
銀行との融資の相談の結果、銀行が融資の条件として、個人保証を要求してきた場合には、基本的に拒否することはできません。
よほど財務的に見て返済に問題がないと考えられる場合以外は、銀行も個人保証を行わないと返済に対するリスクが高すぎるためです。
とは言え、事業継承の問題などで、どうしても個人保証を外してほしい場合には、まずは相談してみましょう。
後述しますが、信用保証協会や日本政策金融公庫には個人保証なしの保証制度や融資制度も広がってきているため、その制度に該当できる可能性もゼロではないためです。
個人保証なしの融資制度も少しずつ広がっている
平成25年、経営者の個人保証から生じる上記の問題点を鑑みて、中小企業庁が経営者保証に関するガイドラインというものを出しました。
経営者保証に関するガイドラインによると
1 主債務者が中小企業であること。
2 保証人が個人であり、主債務者である中小企業の経営者等であること。
3 主債務者である中小企業と保証人であるその経営者等が、弁済に誠実で、債権者の請求に応じて負債の状況を含む財産状況等を適切に開示していること。
4 主債務者と保証人が反社会勢力でなく、そのおそれもないこと。
以上に該当している中小企業は経営者保証なしの融資を受けることができ、既存借入金の経営者保証を外すことができる可能性があるというものです。
このガイドラインに基づいて、少しずつですが、経営者保証なしの融資制度も広がってきており、信用保証協会、日本政策金融公庫などでは経営者保証なしの融資制度や保証制度の取り扱いが始まりました。
信用保証協会の経営者保証ガイドライン対応保証制度の概要は以下の通りです。
以下の(1)から(4)までのすべての要件を満たす中小企業者(法人)
(1)法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていること
(2)法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えないこと
(3)法人から適時適切に財務情報等が提供されており、本制度による保証付き融資を実行後も提供すること
(4)法人のみの資産・収益力で借入返済が可能であると判断し得るものとして、次の「無担保無保証人要件」又は「有担保無保証人要件」のいずれかに該当すること[無担保無保証人要件]
以下の①を充足し、かつ②又は③のいずれか1項目を充足すること
①自己資本比率が20パーセント以上であること
②使用総資本事業利益率が10パーセント以上であること
③インタレスト・カバレッジ・レーシオが2.0倍以上であること[有担保無保証人要件]
以下の①及び②をともに充足すること
① 上記の無担保無保証人要件①から③までのいずれか1項目以上を充足すること
② 法人及び経営者本人等の所有する不動産担保等にて保全の充足が図られていること
使用総資本事業利益率とは事業利益(営業収益と受取利息や受取配当金などの金融収益)を総資本で除したもので、会社全体の収益力をしまします。
また、インタレスト・カバレッジ・レーシオとは事業利益を支払利息で除したもので、どの程度余裕をもって支払利息を営業活動から賄っているかの指標です。
つまり、自己資本が充実しており、収益力があり、返済能力にも余裕があり、経営者個人と会社の会計が分離している会社であれば個人保証なしても融資を受けることができるという制度です。
なかなかハードルが高いとは言えますが、個人保証なしの融資が広がってきていることも確かですので、個人保証なしの融資を受けたい場合には、まずは銀行へ相談してみましょう。
保証人の基礎知識 保証人と連帯保証人の違い 根保証とは?
そもそも保証人とはどのような制度なのでしょうか?
保証人と連帯保証人の違い
混同されていることが多いようですが、保証人と連帯保証人とは全く意味合いが違います。共通しているのは、主債務者(お金を借りた人)の借入金の返済義務を負うという点だけです。
連帯保証人には「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」がありません。
①催告の抗弁権がないとは
催告の抗弁権がないということは、銀行などの債権者は主債務者でも連帯保証人でも好きな方に請求を行うことができるということです。
連帯保証人は「主債務者は会社なのだから会社へ先に請求してくれ」という権利がないということです。
社会通念上、先に債務者に請求するのが当然となっていますが、法的にはどちらに請求してもよい権利を債権者が持っているということです。
②検索の抗弁権がないとは
検索の抗弁権がないということは、例え債権者に財産があったとしても、連帯保証人は「債務者はこれだけ資産があるから債務者に請求してくれ」という権利がないという状態です。
銀行などの債権者は要するに簡単に取りやすい方から取ることができるということです。
③分別の利益がないとは
連帯保証人が複数いた場合でも、連帯保証人1人1人が債務の全額の弁済義務を負うということです。
例えば1,000万円の債務に対して保証人が4人いた場合には、「平等に250万円ずつ請求してくれ」と銀行に言う権利を持たないということです。
銀行は連帯保証人の1人に1,000万円全額を請求してもよいですし、保証人のうち2人に500万円ずつ請求することもできます。要するにこちらも取れるところから取ることができるということです。
保証人には、催告の抗弁権も、検索の抗弁権も、分別の利益をあります。
このため、あくまでも主債務者の補完的な役割に過ぎませんが、連帯保証人は債務者と完全に同等の義務を負います。
銀行が要求する保証人は連帯保証人
中小企業向けの融資でも、個人のローンでも銀行が要求する保証人は連帯保証人です。
とは言え、社会通念上、銀行は主たる債務者に先に請求を行いますし、保証人が複数いる場合に債務が不履行となった場合には銀行と保証人全員で話し合いの場を設けることが一般的です。
しかし、悪徳業者のノンバンクなどからお金を借りて連帯保証人となってしまうと、連帯保証人に対する債権者としての権利をフル活用して返済を迫られてしまいます。
ノンバンクの連帯保証人となることには極力注意してください。
根保証とは
根保証とは、銀行と保証する債務者の借入れに関して「いつまで」という期間を定め、「いくらまで」という極度額の範囲内でずっと保証を行うという保証制度です。
根保証の対義語が個別保証ですが、個別保証は1つの借入れに関してだけ個別に保証を行うというものであるため、当該借入が返済されれば保証人としての義務は終了します。
ところが根保証の場合には、保証期間内に借入があったものは自動的に保証人となります。
銀行と債務者にとっては都度保証契約を結ぶ手間が省けますが、保証人にとってはリスクの高い保証制度です。
特に、債権者、債務者、金額、期間などの記述しかない手形借入では、その都度保証契約を結ぶのが煩雑であるため、代表者が根保証契約を結んでいる場合があります。
代表者が会社の借入れに関して根保証契約を結ぶのはまだよいのですが、問題なのは第三者の借金に対して根保証契約を結ぶとうことです。
1本目を完済しても根保証の期間内であれば次の借入れに関しても自動的に保証を行うことになりますし、中には根保証契約と個別保証契約を混同して、1つ目の借入れが終わったから保証人としての義務も終わりと思っていたところ、実はまだ他の借入れがあったというケースも少なくないようです。
このようなケースはトラブルとなりがちであるため、銀行は債務者と直接関係のない第三者の根保証を取るということは実務上行わない場合がほとんどです。
しかし、悪徳業者はこの制度を悪用して、保証人の個人資産を狙うというケースも存在するようですので、根保証か個別保証かをしっかりと確認して保証人となるようにしましょう。
とにかく事業の収益を固めておいて、個人の資産に影響が出ないよう頑張ります。