金融とITの融合を総称するフィンテック。その幅広いカバー領域の中で、新たな融資形態として活用されるようになってきたのが「トランザクションレンディング」です。
海外でスタートしたトランザクションレンディングですが、現在では大手ECプラットフォームである日本のAmazon、楽天、Yahooジャパンなども参入しています。
とはいえ、日本では「融資=銀行」という伝統が根強く残っているため、トランザクションレンディングについての認知度はまだまだ高くありません。
目次
トランザクションレンディングとは?
トランザクション レンディングという言葉を理解するためには、
「トランザクション」と「レンディング」を分けて考える必要があります。
レンディングは直訳すると「融資」
レンディングとは英語の「lend=貸す」という意味の現在分詞である「lending」という意味です。
つまり、融資という意味になります。
直訳の上では銀行融資もレンディングに含まれることになりますが、フィンテックの世界においては銀行融資はレンディングに含まれません。
それでは、トランザクションレンディングとはどのような融資なのでしょうか?
トランザクションの意味は「取引」
トランザクションの意味は「取引」です。
簡単にいえば、銀行のように決算書をもとにした審査を行うのではなく、取引をもとに審査を行う融資がトランザクションレンディングです。
それでは具体的に取引とはどのような意味合いなのでしょうか?
取引データを元に審査を行う
トランザクションレンディングにおける取引とは、ECサイトにおける売上のデータ、決済サービスにおける決済のデータなどです。
これらの取引データをもとに審査を行うのがトランザクションレンディングです。
楽天スーパービジネスローンエクスプレスであれば楽天市場内の売上をもとにショップに対して融資を行います。
AmazonレンディングもAmazonマーケットプレイスに出店している店舗の売上データをもとに審査を行い、Amazonマーケットプレイス内のショップに対して融資を行います。
また、GMOイプシロントランザクションレンディングは、ネットショップの決済サービスであるGMOイプシロンがもつ決済データを元に審査を行い、会員に対して融資を行うのです。
このように、審査材料は融資申し込みの前に持っている状態で、そのデータをもとにAIが審査を行うというのが、トランザクションレンディングの特徴です。
書類による審査は行わない
トランザクションレンディングの審査材料はすでにプラットフォーム側や決済サービス側が持っている状態です。
このため、書類の提出がほとんど必要ないというのがトランザクションレンディングの特徴の1つです。
トランザクションレンディングと銀行融資の違い
トランザクションレンディングは銀行融資と金利以外で以下の5つの点で異なります。
取引データか決算書か
先ほど述べたように、トランザクションレンディングはECサイトの売上データや決済情報をもとに、どれくらい売上があるか、どれくらい伸びているか、顧客の評価はどうかという審査を行います。
一方、銀行が審査の拠り所とするのは決算書です。
決算書は過去の実績、一方、取引データは過去から今日までのリアルタイムの実績です。
銀行では、過去に大きな赤字を出し債務超過となっている企業には融資を行わないことも珍しくありませんが、トランザクションレンディングでは債務超過か否かということは分かりません。
そのため、銀行から融資を受けることができない事業者でもトランザクションレンディングであればお金を借りることができる可能性があるのです。
AIと人間の違い
トランザクションレンディングはAIが審査を行います。
一方、銀行融資で審査を行うのは人間です。
銀行の事業資金審査では、いかに保証協会や上司が納得できる稟議書や資金繰り表を作ることができるかということでも審査結果が左右されます。
しかし、トランザクションレンディングではAIが独自の審査基準とリスク判定によって審査を行うため、銀行のように担当者の手腕ややる気によって審査結果が左右されるということがなく、平等な審査を受けることができるというメリットがあります。
書類の用意の手間の違い
銀行の事業資金審査では決算書の他、資金繰表や試算表、売上と仕入れの実績を示すため納品書や発注書や通帳の写しなど様々な書類を用意する必要があります。
これらの書類が全て審査に必要になるためです。
しかし、トランザクションレンディングの審査に必要な取引情報はすでに審査側が持っているため、書類の提出は本人確認書類や商業登記簿謄本くらいのもので、トランザクションレンディングでは書類を用意する手間がほとんどかからないというメリットがあります。
契約書記入の手間の違い
ほとんどのトランザクションレンディングではWEB上で契約が成立します。(オンライン融資)
銀行融資のように契約書に記入を行い、実印を押印し、印鑑証明書を用意するというような手間はほとんどかかりません。
融資速度の違い
トランザクションレンディングでは、審査の時間もかからず(後述)、書類の用意も非常に少なく、契約書の記入もほとんど必要ないため、融資までの時間が圧倒的に少ないという点が大きなメリットです。
銀行の事業資金融資ではいくら早くても1週間程度の時間が申し込みから融資までにはかかり、平均的には2~3週間程度の時間を見る必要があります。
これでは急ぎの資金繰りには間に合いませんが、トランザクションレンディングであれば最短で即日融資に対応している場合があるため、急ぎの資金繰りにはメリットがあります。
トランザクションレンディングの審査
トランザクションレンディングの審査の特徴のひとつに、審査時間が銀行と比較して圧倒的に早いということが挙げられます。
その理由は、すでに審査材料が揃っているため、もしくは申込前から審査が終わっているためです。
トランザクションデータから審査を行う
ネットショップの売上データや決済データから審査を行うのがトランザクションレンディングです。
売上が大きければ多くの金額の融資を受けることができますし、売上が伸びていれば成長性があると判断できます。
また、口コミの評判が高ければ、潜在的に成長性が高いとも判断できます。
このように、決算書ではなく、トランザクションデータからその事業者の返済能力や成長性を判断するのが、トランザクションレンディングの審査です。
また、多くのトランザクションレンディングの返済は当該ECサイトや決済代金の売上金から源泉徴収される仕組みとなっています。
例えば、楽天やAmazonのレンディングの返済は楽天やAmazonの売上代金の入金から源泉徴収されます。
このため、毎月の売上から控除しきれないような返済になるような無理な巨額の融資は行わないという点も特徴です。
データの情報源は様々
トランザクションレンディングでは審査材料となるデータの情報源は様々です。
先ほど紹介したAmazonや楽天やGMOは当該ECサイトの売上データや決済サービスの決済データですが、リクルートのレンディングはリクルートが運営する旅館ホテル予約サービスであるじゃらんの売上データをもとにしています。
このように、各社のトランザクションレンディングによって、どのデータをもとに審査材料とするのかは様々です。
AIが瞬時に行う
トランザクションレンディングの審査を行うのはAIです。
このため、審査に時間がかからず、審査材料とするトランザクションデータから瞬時に審査を行います。
場合によっては申込前から審査は終わっている
トランザクションレンディングの中には、申込前から審査が終了しているものもあります。
楽天のトランザクションレンディングでは、楽天市場の管理画面上に融資可能額が最初から表示され、あとは申し込むだけとなっています。
申し込む前であろうとなかろうと、すでに当該事業者の審査材料は揃っているため、顧客ごとに「この企業は○○万円まで融資可能、金利は○%」という審査結果が出ており、顧客が申し込んだらすぐに融資が実行できるのです。
申込後に審査材料を集めて審査を行う銀行融資とは審査のプロセスが根本的に異なるという特徴があります。
バランスシートレンディングとの違い
トランザクションレンディングと同義として扱われることが多い融資としてバランスシートレンディングという融資があります。
審査手法、契約等はトランザクションレンディングと同じ
同じようなレンディングという融資ですので、バランスシートレンディングもトランザクションレンディングも審査材料をデータから自動的に集め、AIが自動的に審査を行うという方法は同じです。
何をもとに審査をするのかの違い
バランスシートレンディングは、事業者が利用する銀行やクラウド会計などのオンラインサービスのデータを取得して当該事業者のバランスシート(資産)状況を瞬時に把握することです。
また、これらのデータから返済に必要な資金があるかどうかを判定して与信を行います。
一方トランザクションレンディングは与信の情報が取引データのみです。
返済可能か否かの判断はバランスシートではなく取引状況や決済状況から返済が可能かどうかで、バランスシートを想定し資産状況をあてにして融資を行うわけではありません。
あくまでもトランザクションデータの売上金の入金から返済ができるかどうかです。
このように、バランスシートレンディングではバランスシートから返済可能かどうかをAIが判断することに対して、トランザクションレンディングではトランザクションデータから返済可能かどうかをAIが判断するという違いがあります。
トランザクションレンディングでは取引データだけが審査材料となるのに対して、バランスシートレンディングでは、トランザクションデータやクラウド会計、ネットバンキングなども審査材料となるため、より総合的な審査を受けることができると言えます。
日本においてバランスシートレンディングを行っている融資としてはLENDYなどがこれに当たります。
まとめ
トランザクションレンディングのまとめです。
①トランザクションレンディングはECサイトの取引データ、決済情報、口コミなどで審査を行い
②審査材料はすでに債権者が持っているため決算書などの提出が不要
③AIが自動で審査を行う
④審査にかかる時間が圧倒的に短く、銀行よりも迅速に融資を受けることができる
⑤取引データだけをあてにするトランザクションレンディングは銀行口座やクラウド会計なども審査材料とするバランスシートレンディングとは審査の角度が異なる
トランザクションレンディングは金利が高いですが、融資するのは短期の運転資金のみです。
つまり、利息的な負担は銀行から低金利で長期運転資金を借りることと金額的にそれほど大きな違いはありません。
緊急な資金繰りのための1つの手段としてトランザクションレンディングという選択肢を頭に入れておいて損はないでしょう。
形 | 事業主向け(企業から自営業まで) | 個人の私的利用向け |
直 | トランザクションレンディング バランスシートレンディング |
スコアレンディング |
場 | ソーシャルレンディング | P2Pレンディング ソーシャルレンディング |