法人が銀行から融資を受ける際に金利がどのように決まるのか気になる経営者の方も多いのではないでしょうか?
法人融資の際の金利は「初めから決まっているもの」と「格付けで決まるもの」があります。
一般的に、「格付けが高くないと低金利で融資を受けることは難しい」と考えている経営者は多いようです。
確かに、格付けが高い方が法人融資は低金利になることは間違いありません。
しかし、低い格付けでも低金利で融資を受けることができる場合もあります。
法人融資の金利の決まり方、格付けの決まり方について解説していきたいと思います。
目次
法人融資の2つの金利の決まり方
冒頭述べたように、法人融資では、あらかじめ金利が決まっているものと、格付けによって金利が決定する場合の2種類の金利の決まり方があります。
まず、融資による金利の決まり方の違いについて解説していきます。
制度融資は最初から決まっている
制度融資とは、銀行・信用保証協会・地方自治体の3社が商品内容を決定し、信用保証協会が保証を行い、銀行が融資をして、地方自治体が保証料や利息などの補給を行うという融資制度です。
制度融資は、金利や融資限度額があらかじめ決められているため、「どのような法人でも同じ制度であれば、同じ基準で融資を受けることができる」という特徴があります。
例えば、東京都には売上が減少した企業に対する融資である「セーフティネット貸付」という融資制度があります。
この融資制度では、どのような法人・個人事業主であっても融資条件に該当すれば以下の条件で融資を受けることができます。
融資限度額 | 2億8,000万円 |
融資期間 | 10年以内 |
金利 | 3年以内:1.7%以内
3年超5年以内:1.8%以内 5年超7年以内:2.0%以内 7年超:2.2%以内 (責任共有制度対象外は+0.2%) |
制度資金においては、法人の業績ではなく、制度の中身によって金利が決定します。
プロパーと一般保証は格付けで決まる
一方、保証をつけないプロパー融資と、制度資金ではなく通常の融資に信用保証協会の保証をつける一般保証の法人融資は格付けによって金利が決まっています。
どのような格付けにどの金利を適用するのかは銀行によって決まりますが、格付けが高ければ高いほど、適用される金利は低くなります。
格付けは企業審査で決まる
プロパーと一般保証の法人融資の金利は格付けで決定するとご説明しました。
では、金利を決定する格付けとはどのように決定するのでしょうか?
格付けは企業審査と呼ばれる審査で決定することになります。
ここからは、企業審査と格付けについて詳しく解説していきたいと思います。
企業審査とは
銀行は法人融資を行う(行っている)企業に対して、決算後に企業審査と呼ばれる審査を行います。
企業審査は、融資案件の審査のように「お金を貸すかどうか」の審査ではありません。
企業審査は、企業の決算書などから「その企業の業況はどうか」ということを審査するのです。
企業審査を行い、企業の業況を判断し、その判断に基づいて企業をランク付けするのが企業審査なのです。
企業審査は大きく分けて「定量評価」と「定性評価」に分かれることになります。
定量評価
定量評価とは、カードローンで言えばスコアリング審査のようなものです。
決算が終わり、銀行が法人融資先から決算書を預かると、銀行は決算書の内容をシステムへ打ち込みます。
システムに打ち込むと、決算書をシステムが自動的に分析するスコアリング審査のような審査を行います。
企業審査の詳細に関しては銀行によって異なり、その内容は銀行員も知らされていないほどのトップシークレットですが、おおよそスコアリングでは以下の4点をチェックしています。
①安全性
②返済能力
③収益性
④成長性・将来性
これらの4つの視点について詳しく解説していきます。
①安全性
安全性は、自己資本率、ギアリング比率、流動比率などから求められることが多くなります。
自己資本比率は資本金÷総資産
で求めることができ、一般的に自己資本比率が40%以上の企業は倒産しないと言われており、高ければ高い方が安全性の評価は高くなります。
ギアリング比率は他人資本÷自己資本で求めることができます。
返済の必要がある他人資本が、どの程度自己資本でカバーされているのかを示す指標です。
100%を切っていれば他人資本以上の自己資本があるということですので安全性が高くなります。
ギアリング比率は低ければ低いほど安全性の評価は高くなります。
流動比率=流動資産÷流動負債で求める流動比率は、1年以内に返済の義務がある流動負債はすぐに現金化可能な流動資産の何割かを示す指標です。
100%を超えていれば、1年以内に返済の必要がある流動負債を手元の資産で返済可能ということですので安全性は高いと言えます。
②返済能力
債務償還年数などで評価されます。
債務償還年数=(有利子負債-(売上債権+棚卸資産-買入債務)-現預金等)÷(経常利益+減価償却費-税金等)で求めることができます。
要するに企業の債務が何年で返済できるのかということを求める指標で、10年以内に収まっているのがよいとされています。
債務償還年数が10年以内であれば企業審査において返済能力があると評価されるでしょう。
③収益性
その企業がどの程度儲かっているのかも評価の対象です。
収益性は、売上高経常利益率、総資本利益率で判断されるようです。
売上高経常利益率は経常利益÷売上で求めることができ、売上のうち経常利益は何%かを求めて収益性を測っています。
また、純利益÷総資本で総資本利益率を求め、資本をそのくらい効率的に利益に結びつけているのかということを評価しています。
④成長性・将来性
当該企業がどの程度成長しているのか、今後は成長しそうかということも、利益の増加率などによって判断します。
利益が毎年安定的に増加している企業は、今後も安定的に成長していくと判断できますし、赤字と黒字を繰り返している企業は、成長性が怪しいなどと判断されることがあります。
銀行によって、これらの詳細な評価基準は異なるものの、概ねこのような基準で定量評価は行われています。
定性評価
定量評価が終わると、銀行員による定性評価という審査が行われます。
定性評価では「同業他社の中で優位性があるか」「経営者は業界知識や会計知識を有しているか」などといった銀行員が会社と経営者などを見た目の評価を行います。
さらに、決算書に粉飾がないかどうかについ銀行員が決算書をチェックし、おかしな部分があれば修正を加え、実態に近い決算書にします。
例えば、何期も連続で同じ取引先に同じ金額の売掛金が計上されているような場合には不良債権ですので損失処理を行ったり、役員借入金が何期も計上されている場合には実質的には資本金ですので、資本金に振り替えたりします。
このように定量評価と定性評価を行うことで、格付けは決定します。
格付けの種類
格付けの種類は以下のようになっています。
格付けの細かい区分は銀行によって異なりますが、筆者の勤務していた銀行は概ね以下のようになっていました。
なお、債務者区分は正常先や要注意先でも、格付けとはさらにこの債務者区分を細かく区分けしたものになります。
債務者区分 | 格付け | 状態 |
正常先 | A | 財務状態が非常に優れている優良先 |
正常先 | B1 | 財務状態が優れ良好 |
正常先 | B2 | 財務状態は良好 |
正常先 | C1 | 財務状態は良好で、環境の変化によってはリスクあり |
正常先 | C2 | 財務状態は平均的 |
正常先 | C3 | 事業環境の変化によってはリスクが大きい |
要注意先 | E1 | 財務状況に問題あり |
要注意先 | E2 | 財務状況に大きな問題あり |
要注意先 | E3 | 財務状況に大きな問題があり注意が必要 |
要管理先 | E4など | 財務状況に大きな問題があり破綻の可能性もある |
破綻懸念先 | Xなど | 財務状況が危機的で破綻の可能性が大きい |
実質破綻先 | Yなど | 破綻の危機にある |
破綻先 | Zなど | 実質的に破綻している |
格付C以上でないと融資は難しい
基本的には格付けC以上はないと、融資を受けることは難しいと考えた方がよいでしょう。
プロパー融資はまず要注意先以下は不可能です。
信用保証協会が「yes」と言った場合のみ要注意先以下の法人融資は実行されると考えておきましょう。
中小企業の金利相場
中小企業が銀行から法人融資を受ける場合の金利は、制度か格付けによって決定しますが、金利相場はどの程度なのでしょうか?
また、格付けが低い法人が、できる限り低金利で融資を受けようとした場合には、どの方法で借りるべきなのでしょうか?
格付けによる金利相場
格付けが1つ上がるごとに0.125%金利が下がっていくなどと言われていますがこれも1つの目安にすぎず、必ずしもこの通りに金利が下がっていくとは限りません。
基準となるのがC2だとすれば、C2の金利は2%半ば程度ではないでしょうか?(銀行によって異なる)
要注意先になると適用金利は4%程度と、法人融資としては高金利が適用されることが一般的です。
ただし、格付けが上になればなるほど銀行へ金利交渉ができ、格付けが低い場合には銀行はプロパー融資を行わないので、格付けがどの程度だから金利がどの程度の金利が適用されると考えることにそれほど意味はありません。
格付けC3以下は制度資金の方が金利は低い
覚えておきたいのは、格付けがC3、つまり中の下くらいになると銀行に適用される金利は高くなるということです。
C3以下は3%以上の金利が適用されることが一般的です。
また、信用保証協会の保証をつけた場合、金利の他にも保証料も必要になります。
このため、格付けが低い場合には制度資金を借りた方が金利はほぼ確実に低くなります。
格付けB以上になると低い金利のプロパーローンも
反対に、格付けが高い場合には、低い金利のプロパーローンを借りることが可能になります。
銀行によりますが、1%を切るような金利が適用されることもあります。
通常、B1以上の企業は運転資金の融資は必要としない企業です。
設備投資の案件でもない限りは基本的に融資を必要としていないため、銀行は「金利を下げるので借りてください」と頭を下げる立場です。
筆者が銀行員時代は、格付けB1以上の企業に、0%台の当座貸越枠や手形割引枠を作成しておき、月末になると枠を使ってもらうために頭を下げにいき、月末の融資量のノルマを確保し、月初になると返済するというあまり意味のないことをノルマ達成のためによく行っていました。
いずれにせよ、格付けが高くなるほど低金利が適用され、銀行へ金利交渉ができるので、1%を切るような超低金利で運転資金を調達することが可能になります。
法人融資の金利と相場 まとめ
法人融資の金利は制度資金であれば制度によってあらかじめ決まっています。
制度資金以外のプロパー融資は一般保証の融資は格付けによって決定し、格付けは企業審査によって決定します。
簡単に言えば、収益を出し、自己資金が豊富な企業であれば格付けは高くなります。
格付けの低い企業にとっては格付けによって金利が決まる融資を受けるよりも、制度資金でお金を借りた方が金利は低くなりますし、銀行もプロパー融資などは格付けの低い企業には行いたくありません。
銀行から、制度資金よりも低い金利で「お金を借りてください」と言われるようになれば、自社は優良企業だと認められたようなものです。
収益力を高め、自己資本を充実させ、ぜひ高い格付けを目指してください。