企業が銀行から事業性の融資を受けると、銀行はその企業に対して、融資がある間はずっと企業の財務内相な業況について審査を行います。
企業が貸倒引当金を積むための債務者区分を審査するのが自己査定、一方、企業が当該企業に対する融資方針などを決定するのが企業審査で、企業審査によって格付けが決定します。
当たり前ですが、格付けが高い方が融資は出やすくなります。ですので、自社の格付けがどの程度かを気にする社長さんも少なくありません。
目次
格付けの決定プロセス
企業の格付けはどのように決まるのでしょうか?
最初に決算書の分析を行います。決算書は一般的にコンピューターによって自動的に定量評価が行われます。※少し後で定量評価とは?定性評価とは?と説明がありますので、意味がわからなくても読み進めてみてください。
定量評価後に、定性評価を銀行員が行い、銀行員の目で決算書の実態を明らかにする実態分析を行います。
ここでは、減価償却が適正になされているか、資産計上されている不良資産はないか、などと言った粉飾を銀行員の目で直接判定し、おかしな部分があればここで修正します。
では、定量評価、定性評価、実態評価とはどのような評価方法なのでしょうか?
定量評価とは?
銀行に決算書を提出すると、銀行は決算書の数値を自行のコンピューターに反映させます。
コンピューターには格付けソフトというものが導入されており、格付けソフトは入力された決算数値をもとに、自動で銀行の企業格付けを行います。
格付けソフトは財務スコアリングモデルという評価基準によって決算内容を評価します。
財務スコアリングモデルの細かい計算方法は、公表されていませんが、一般的には①安全性、②収益性、③成長性、④債務返済能力の4つの視点から評価を行います。
それぞれの視点から評価を行う指標は以下のようになっています。
①安全性
流動比率、自己資本比率、ギアリング比率
②収益性
売上高経常利益率、総資本経常利益率、当期利益率
③成長性
経常利益増加率、売上高
④債務返済能力
債務償還年数、キャッシュフロー額、I.C.R
企業の格付けを決定するための最も大きなウェイトを占めるのが、この定量評価です。
その後、定性評価や実態把握でいかに良い評価を得ようとも、格付けが大きく上昇することはそれほどありません。
企業の格付けは消費者金融カードローンのコンピューターによるスコアリング審査とそれほどプロセスは変わらないというのが実際のところです。
定性評価とは?
定性評価とは、決算書の数字だけではわからない人間の目で見た項目についての評価を行う指標です。
具体的には、①経営者の資質、②市場の将来性、③従業員の管理態勢、④技術力や同業他社とのアドバンテージ、⑤銀行への協力姿勢(決算書等の資料の提出に協力的かなど)の評価を行います。ここは、当該企業の担当者が実際に経営者との普段からのコミュニケーションなどから評価を行います。
このため、経営者は自社の融資のために銀行員との普段からのコミュニケーションが重要になるのです。
ただし、定性評価は定量評価と比べて格付けへの影響力が小さいです。いくら定性評価を上げても格付けは1つくらいしか上昇しません。
実態評価とは
実態評価とは、銀行員の目で決算書を分析し、定量評価の際に格付けシステムに反映されている数値を引き直すという作業です。
減価償却が適正に行われているかのチェックを行ったり、資産に回収不能な売掛金や、貸付金などに回収不能と判断される分があれば資産から控除して損失として計上します。
また、土地や不動産を評価して、資産に計上されている価格に加減します。経営者に資産があれば、プラスに評価されることもあります。
要するに、決算書の数字をより実態に近く正確な形で引き直すという作業です。
不良資産を大幅に損失計上すれば格付けが下落することもあります。一方、いかに良い情報をプラスにしたとしても、格付けは1つくらいしか上昇しません。
やはり、企業の格付けに大きな影響を及ぼすのは定量評価なのです。
では、定量評価を構成する項目はそれぞれどのようなものなのでしょうか?
定量評価を決定する11の要素
先ほど述べたように、定量評価には安全性、収益性、成長性、債務返済能力の視点から評価を行いますが、それぞれの視点を構成する指標は以下の11の要素です。
・流動比率
・自己資本比率
・ギアリング比率
・売上高経常利益率
・総資本経常利益率
・売上高当期利益率
・経常利益増加率
・売上高増加率
・債務償還年数
・キャッシュフロー額
・I.C.R(インスタントカバレッジレシオ)
上記の用語の意味は→銀行融資の格付けに重要な定量評価を決定する11の要素(用語解説)
これらの定量評価を上昇させるには?
企業格付けを決定するための大きなウェイトを占める定量評価ですが、翌期から格付けを向上させたいという人はどのような決算書を翌期に目指せばよいのでしょうか?
流動比率
流動比率を上昇させるには、会社の流動資産を増やすか、流動負債を減少させるかのどちらかの方法が考えられます。会社の業績が翌期からアップすれば自ずと流動資産は増加していきます。
人為的に流動比率を向上させたいという人は短期借入金などの流動負債を長期借入金に借り換えるなどして流動負債を減少させるという方法もあります。ただし、借金が借金に変わっただけですので、それがどこまで格付け上昇に役に立つかは未知数でもあります。
自己資本比率
自己資本比率を高めるには、分子である自己資本を増資や増益によって上昇させるのが王道です。
人為的に自己資本比率を高くするためには分母の総資産を小さくするという方法があります。
会社の不要な資産を売却すれば、資産の額面金額と売却価格が異なる場合には、費用か収益に計上されますのでその分の資産は小さくなります。
また、固定資産を売却すれば固定資産が流動資産に変わりますので、流動比率やキャッシュフローの改善にも役立ちます。
今は、無駄な資産を売却してできる限りコンパクトな経営を行うオフバランス化が求められていますので、時代のニーズにあった方法であるともいえます。
ギアリング比率
ギアリング比率と高めるには他人資本を減少させるか、自己資本を増加させるかのどちらかの方法です。こちらも利益をだせれば自己資本が拡充されるため、自然と良化します。
また、新たな借入を行わずに1年間返済を続けていけば他人資本は減少します。
そのほか、会社の余剰資産で借入金の繰上返済を行うなどという方法もありますが、これを行ってしまうと、流動比率とキャッシュフローにマイナス影響が生じてしまいます。
売上高経常利益率
売上高経常利益率を上昇させるには、利益を害さず売上金を減少させるか、経常利益を増加させるかの方法があります。
利益率の低い仕事から利益率の高い仕事の量を増やす、無駄な経費を削減して経常利益を増加させる、不要な固定資産を売却して減価償却費を圧縮するなどの方法が考えられます。
総資本経常利益率
総資本経常利益率を向上させるには、分子である経常利益を増加させるか、分母である総資本を減少させるかの方法で総資本経常利益率は改善します。
経常利益を上昇させられない場合には、不要な資産を売却して利益を害することなく総資本金額を小さくするオフバランス化を行う方法が数値上昇のための最も簡単な方法です。
売上高当期利益率
売上高当期利益率は、当期利益を上昇させる方法が考えられます。
人為的に指標を向上させるためには当期利益を上昇させるのが最も簡単な方法と言えるかもしれません。会社の不要な資産を売却して簿価よりも高い利益を出せばよいのです。
資産の売却などから得た利益は特別利益と言います。特別利益と経常利益を足したものが当期純利益になりますので、経常利益が増加していなくても、資産の売却などで特別利益を経常すれば当期利益を上昇させることができます。
ただし、一点注意しなければならないのは、固定資産を売却して損失が出る場合には、特別損失が経常され、当期利益はむしろ棄損されることになりますので、売却して利益が出るか損失が出るかを売却前に確認して下さい。
経常利益増加率
経常利益増加率を増加させる方法は、先ほど述べた方法で経常利益を増加させるしか方法があります。
売上高増加率
売上高増加率は売上を前年に比べて増加させれば指標は向上します。利益率の悪い仕事でもとにかく受けて売上を上昇させれば売上高は増加しますが、その場合には各種利益率が減少してしまいます。
企業審査においては、収益性のほうが審査の際には重要項目ですので、利益率無視の売上アップはおすすめできません。
債務償還年数
債務償還年数を減少させるには、有利子負債の減少、正常運転資金の増加、キャッシュフローの増加のいずれかの方法が考えられます。
この中で、固定資産を売却して運転資金を増加させるという方法が最も手っ取り早い方法です。
また、新たな借入を行わずに有利子負債を減少させるということも重要です。
キャッシュフロー額
人為的にキャッシュフローを増加させるためには売掛金や受取手形ではなく、売上時に現金での取引を増やす、仕入れ時に現金払いではなく買掛金や支払手形などの買入債務での仕入れを増やすなどの方法があります。
投資キャッシュフローを増加させるためには固定資産の売却、財務キャッシュフローを増加させるためには借入金を増加させるという方法があります。
財務キャッシュフローを無理やり増やすと、借入金が増えますので、そのかわりに各種指標は悪化します。
インスタントカバレッジレシオ
インスタントカバレッジレシオを上昇させるには、営業利益を増やすか、支払利息を減少させる方法があります。
営業利益を増やすためには、経費の圧縮を行う方法が最も有効です。経費の圧縮を人為的に行うためには、固定資産を売却し減価償却費を圧縮、役員報酬を役員貸付金へ切り替え人件費を圧縮するなどの方法があります。
ただし、役員貸付金は実態評価の際に経費へ引き直されてしまうこともありますし、銀行の印象はよくありませんのでおすすめできません。
支払利息を圧縮するためには、余剰資産から借入金の繰上返済を行うという方法が基本ですが、これを行うとキャッシュフローが減少します。
他の指標に悪影響を与えずに支払利息を減少させるには、金利の低い借入金へ借り換えるという方法があります。
定量評価向上のまとめ
ここまで長々と述べてきましたが、各種指標を向上させるために共通しているのは、不要な固定資産を売却して現金化することです。
固定資産を売却すれば減価償却費も圧縮され、収益にも貢献しますし、固定資産から流動資産に切り替わるため、流動比率も向上します。
不要な資産を売却してバランスシートのオフバランス化を図ることがトレンドとなっていますが、その理由はここまで述べてきた各種指標を向上させることができるためです。
定性評価を上昇させるコツ
先ほど述べたように、定性評価は①経営者の資質②市場の将来性③従業員の管理態勢④技術力や同業他社とのアドバンテージ⑤銀行への協力姿勢を銀行員自身の判断で評価を行うことです。
このため、銀行員との普段のヒアリングや面談やコミュニケーションは非常に重要です。銀行員も人間ですので、人間的に好きな人、お世話になっている人のことを悪くは評価できないものです。また、そもそもコミュニケーションがない人間のことは評価しようがないためです。
筆者も普段から仲良くさせてもらっている社長さんのことを悪く評価することはできないというのが実際の経験でした。
定性評価を向上させれば格付けを1つか2つ向上させることができます。普段から銀行員とのコミュニケーションを密にし、できる限り良好な人間関係を築くようにしましょう。
また、銀行員の中には会社への訪問時にはトイレがきれいになっているかどうかなどもチェックし定性評価の材料とすえる人や、銀行員が従業員との話の中で経営者の経営方針がどの程度従業員に伝わっているかなどもチェックしている人もいます。
経営者自身の資質はもちろんのこと、従業員の管理や会社の美化や整理整頓も重要ですので普段から従業員への教育や突然の訪問時にも気持ちよく対応して美化に心がけることも重要です。
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