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融資借入とビジネス&景気動向ニュース

金融庁行政方針から読み解く2018年度以降の銀行経営と融資はどう変わるのか?

2017年11月、金融庁は、金融庁が今後の金融行政においてなにを目指すのかということを明確化した、金融行政方針を公表しました。

金融庁の方針によって、銀行経営はこれまでも大きく左右されてきましたが、新しい金融行政方針によって、今後の銀行の経営はどのように変わっていくのでしょうか?

平成29年度金融行政方針の概要とともに、今後の銀行経営の方向性を考察してみたいと思います。

目次

金融行政方針とは

金融行政方針とは、そもそもどのようものなのでしょうか?

金融庁が目指す方針を公表するもの

金融行政方針とは、一言で言えば、金融庁の運営方針を示したものになります。

金融庁がどのような運営をしていくのかだけでなく、国全体の金融のあり方、銀行、証券、保険などの金融市場のあり方に加えて、最近ではITや仮想通貨市場へのあり方なども示されています。

それでは、平成29年度の金融行政方針の概要について説明していきます。

平成29年度金融庁行政方針

平成29年度の金融庁行政方針のポイントは主に以下の5点です。

金融当局の改革

まずは、金融当局の改革について言及されています。
改革の大枠として以下の2点が挙げられています。
① 金融庁の改革
② 検査・監督のあり方の見直し

① 金融庁の改革では、「組織文化の改革」「カバナンスの改革」「組織の見直し」の3点が具体的に挙げられています。

組織文化では、人事評価を見直し、国益のためにチェレンジでい、行動しているかなどを評価基準にすると明記され、年功序列ではなく能力主義による任用をかかげています。

また、外部専門人材を登用することもかかげています。どちらかと言えば、閉鎖的で年功序列の官僚組織の中にあって、この改革は画期的であると言えるでしょう。

また、ガバナンスの改革においては、外部からの意見や批判等が的確に反映される開かれたガバナンス体制と明記されています。

具体的には、外部の有識者会議の積極的に活用し、金融行政に対する外部評価を実施、外部の意見や批判が入る仕組みの整備、透明性向上をかかげています。こちらも、外部からの批判が入る余地が少なく閉鎖的な官僚組織への大きな改革であると言えます。

組織の見直しでは、金融行政が直面する課題に的確に対応すると明記しています。

具体的には、金融行政の戦略立案機能、総合調整機能の強化、企画能力とフィンテック対応の強化、検査と監督の一体化をかかげています。

どちらかと言えば、銀行などの金融市場に対して、規制をかけてきた側である金融庁ですが、今後は変化する金融市場にたいして、金融界がどう対処するのかをアグレッシブに戦略を立案する機能を担うようになるという現れと言えます。

② 検査・監督のありかたの見直し
検査監督のあり方の見直しでは、「形式から実質へ」「過去から未来へ」「部分から全体へ」という3点が挙げられています。

今までの金融庁検査は最低基準が守られているかどうかが主な基準でした。

そのため、銀行は、金融庁が求める資料をただ用意し、金融庁も形式が具備されているかどうかをチェックするという検査でしたが、今後は実施的に良質な金融サービスが顧客に提供できているかという目線でチェックを行います。

「形式さえ整っていれば金融庁検査はパスできる」と今までの銀行は考えていましたが、今後は本当に顧客のためになる業務を行なっているのかどうかをより重点的にチェックされることとなります。

また、これまでの金融庁検査は過去の一時点の銀行の健全性に焦点を当てて検査を行なっていましたが、今後は、将来に渡って健全性の確保ができているのかということに焦点が当たるようになります。

そのため、将来性のないカードローンが主な収益源になるというような、場当たり的な銀行経営は評価されなくなるのです。

さらに、これまでの検査は、リスク商品、不良債権などというように、その時々の特定の個別問題にたいして検査を集中させていましたが、今後はその銀行にとって真に重要な部分はどこにあるのかをまず特定し、対応するという方針へ変わります。

これらの検査の見直しを確実に履行するため金融庁は新たに「金融検査・監督の考え方と進め方」を新たに策定ます。

具体的には以下の点が含まれています。

  • チェックリストによる機械的確認から、金融行政の目標に遡り重要な問題を議論する
  • 金融機関が顧客にとってすくれたサービスの提供を競い合い、ベスト・プラクティスを追求するように促す
  • 金融機関の取り組みの見える化を進める(顧客がよりよい金融機関を主体的に選択できるようにするため)
  • 将来においても金融機関の健全性が保たれるように「動的な監督」を行う
  • 外部からの批判・提言が反映される仕組みを金融庁内部に整備する

今までの金融機関はやっていることはどこの金融機関でも同じという面が多くありましたが、今後は金融機関同士がよりよい顧客へのサービスの提供という点で競い合い、その成果を顧客に公表し、顧客も自分に最もあった金融機関を選択することができるようにし、金融庁も検査ではなく、銀行がよりよい顧客へのサービスを提供できるように、地域や経済情勢に合わせて動的な監督を行いましょう。
というような内容になっています。

金融上の課題の包括的検討

国全体として、最適な資金フローが実現しているか、どうすればよりよい均衡が実現するのかといった観点から、課題の分析と政策手段の提示をおこなっていくとしています。

今までの国全体のフローは以下の預金者→銀行→企業という形でお金が流れていました。要するに銀行にマネーが集中していた状況で、銀行は金余りに苦しんでいます。

しかし、今までの銀行を通すお金の流れに加えて以下の流れを構築します。
預金者(投資者)→資本市場→企業
預金者が持っている預金を投資に回し、資本市場が企業へ出資するという流れです。

この流れを構築するために、金融庁が有識者会議や外部の意見を取り入れるというものです。

金融・資本市場の整備

金融資本市場の整備においては、「家計の安定的な資産形成の推進の顧客本位の業務運営」「ガバナンス改革のさらなる推進と機関投資家の役割」と「市場監視機能の強化」という項目が設けられています。

顧客本位の業務運営のために、金融機関間で比較可能なKPIを公表し、顧客からも銀行の業務内容と比較して見えるような取り組みを促進するとされています。

また、家計の資産を投資市場へ流すために投資教育の推進を行うとともに、金融庁内部においても職場つみたてNISAを導入するとしています。

退職世代の資産運用に対する金融サービスのありかたを検討するということも明記されています。

企業の内部留保が増加している現状を鑑みて、機関投資家と企業の対話を促進するために、対話の際のガイダンスを策定するともされています。

また、市場監視機能を強化するために、ITを活用した新しい市場監視システムの導入も検討するとしています。

金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの確保

後述しますが、金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの確保においては、地域金融機関とメガバンクに分かれて方針が記載されています。

地域金融機関においては、厳しい経営環境に置かれている中で、主に持続可能なビジネスモデルが焦点となっています。

また、メガバンクにおいては、世界経済、市場環境変化への対応が焦点となっています。

IT技術の進展等への対応

「金融システムを取り巻く環境の変化」「フィンテックによる経済、金融の発展」「サイバーセキュリティ」から「仮想通貨」への対応まで多岐にわたっています。

金融業界の環境が大きく変化するなかで、法整備、セキュリティ対策などが明記された内容となっています。(後述)

 

今後の地方銀行が取るべき方針

金融行政方針のなかでは、厳しい経営環境に置かれる地域金融機関が持続可能できるようなビジネスモデルを構築するという点に焦点が当てられています。

地域金融機関の持続可能性

金融行政指針の中では、金融機関の置かれた厳しい経営環境の中で、持続可能なビジネスモデルを構築するとしています。

今までの、銀行経営は、顧客に提供する価値は低金利のみという状況で、金融機関は金利競争にさらされていました。

低金利競争によって地方銀行は収益力が悪化し、2017年度3月期決算は、過半数の銀行で、顧客向けサービス業務で、当期利益がマイナスとなっているとしています。

実際、私が勤務していた銀行でも、本業での儲けを示す、コア業務純益は毎年前年度比でマイナスとなっています。

このような現状を鑑み、「地域企業の価値向上」や「企業間の適切な競争環境の構築」などによって、地域金融機関が付加価値の高い金融サービスを提供することで、持続可能なビジネスモデルを構築するとしています。

つまり、顧客にたいして、低金利ではなく、真に顧客が必要とする金融サービスを提供することで、地域金融機関の持続可能なビジネスモデルを構築するということです。

実際に、私のが銀行員時代には、金融機関はどこも信用保証協会の保証付の制度資金によって融資していたため、「どこから借りても同じ」という状況でした。

金利ではなく、経営支援等の本来の地域金融機関の役目を遂行することによって、地域金融機関の持続を図るとともに、地域経済の発展にもつながるように、方針転換をうながしているのです。

企業が利益を出し、地域が発展し、発展する地域の中で金融機関も発展するという好循環を金融庁は目指していると言えます。

具体的には、地域企業の真の経営課題を的確に把握し、その解決に資する方策の策定と実行に必要なアドバイスや金融的な支援、必要な経営人材の育成・確保の支援を実施することとしています。

金融機関の取り組みの見える化

金融機関が企業の価値向上等の金融仲介を客観的に「見える化」できる共通の指標群(KPI)を策定し、このKPIを活用し、地域金融機関と金融庁が対話を行うとしています。

また、KPIや企業アンケートの調査結果を活用して、地域金融機関の本業支援や事業性評価についての取り組みを金融庁が評価し、優秀な取り組みをしている金融機関を表彰・公表するとしています。

今まで横ならびで競争環境にさらされていなかった地方銀行にとっては、これはかなりのインパクトであると思います。金融機関にとって金融庁の評価は絶対であるためです。

金融機関は金融庁から評価を受けることができない、カードローンや投資信託の販売業務によって短期的な収益をあげることよりも、本業支援、事業性評価というような、真の企業価値向上へ本腰を入れることになるでしょう。

ただし、地域金融機関は収益力が弱いためカードローンや投資信託販売手数料が大きな収益源である点も事実です。

地域金融機関は今後、収益を上げることと、金融庁の評価を受けることのバランスをとるための難しい経営が迫られ、競争力のない金融機関や努力をしない金融機関は淘汰されていくことになるのではないでしょうか?

市場環境の変化への対応

本業で利益をあげることができない金融機関の多くが、有価証券運用収益への依存を高めていることから、リスクが増大しているとしています。

このような金融機関については、経営トップが主体的に運用体制をリスクを考慮して強化し、含み損を意識したモニタリングとコントロールを行うこととしています。

要するに、有価証券運用はリスクが大きいため、経営トップが中心となり、管理体制を強化しなさいということです。

また、不動産投資向け融資が拡大していることを鑑み、将来的な賃貸の需要の見込み、家賃の低下などのリスクを顧客に十分説明できているかどうかについても金融庁が喚起していくとしています。

ガバナンスの変化

持続可能なビジネスモデル構築のために、地域経済や競争環境など正確に把握した上で、適切な経営戦略を策定し、現場に浸透させるガバナンスが重要であるとしています。

実際のところ、経営現場は希望的観測による経営(不動産価格は下落しないなど)をおこなっていたり、今のビジネスモデルの持続可能性に大きな懸念があるにもかかわらず(カードローン依存の経営など)必要な経営改革を行っていない地域金融機関があります。

このため、社外取締役や株主などの外部からのステークホルダーによるガバナンスが発揮されているか調査し、金融機関と対話を行うとしています。

地域金融機関の中には、経営者のワンマンな経営となっているケースが多分にあります。ボトムアップではなく、完全なトップダウンな企業風土であるためです。

このような閉鎖的な経営環境から脱却し、外部からの意見を取り入れるようなガバナンス体制を構築するよう、金融庁は求めているのです。

下の人間は上に意見をいうことが全くできず、正しかろうがなんだろうが上のいうことは絶対という超閉鎖的な金融機関の経営実態をよくわかっているというのが銀行勤務経験者の筆者の感想です。

 

今後のメガバンクの方針

金融行政方針はメガバンクについても方針を策定しています。

世界経済・市場環境の変化への対応

メガバンクは海外業務が拡大していることから、信用コストや外貨調達コストリスクの管理の高度化を目指すとしています。

ガバナンスの構築

メガバンクは持株会社として銀行、証券、信託業務を行なっていることから、利益相反の管理や優越的地位の濫用の管理を徹底し、より顧客本位の業務運営の整備体制の整備を行うとしています。

例えば、融資先に対してグループの証券会社から証券を買うように迫るなどのことがないよう、管理をより徹底するということです。

また、組織体制や人材やシステムを見直し、IT技術の進歩やイノベーションの進展見据えた、対応を行うとしています。

昨今、メガバンクが相次いて人員削減、店舗のIT化による人員の配置転換などを行なっているのはこの指針も影響しているでしょう。
2017年公表 3大メガバンクの従業員削減 店舗閉鎖 リストラとフィンテックの流れ

また、グローバルな情報収集、分析能力の強化や組織確保と人材確保を行うとしています。

地方銀行にたいしては、継続可能なビジネスモデルの構築を求めていることに対して、メガバンクにたいしては、業務の国際化に対するリスク管理の徹底と体制構築を促し、IT化やイノベーションの促進に対応できるよう換気していると言えるでしょう。

メガバンクは国際的な業務拡大に、地域金融機関は業務の維持に必要な方策が盛り込まれた内容となっています。

 

IT技術への対応

金融行政指針にはIT技術への対応についても言及されています。

フィンテックによるイノベーション

金融行政方針には、フィンテックの活用促進によって、利用者の利便性向上や企業の成長力強化を図ることを明記しています。

例えば、手形、小切手の電子化や、税・公金収納の効率化、企業の財務・決済プロセスのシームレスなIT処理を通じて、利用者の利便性工場の実現を目指すとしています。

また、このような技術を活用して新たな融資サービスや本業支援につなげ、質の高い金融サービスの提供を目指すとしています。

すでにSBIは米リップルとの業務提携を行い、外国送金サービスの高速化、手数料の低減を図っており、こうした動きは2018年からさらに加速していくと思われます。

フィンテックによる国際ネットワークの確率

先程のリップルは国際送金サービスや決済方法の国際標準化を視野に入れています。

このような国際標準化の動きに向けて、最先端の海外の人材や当局との連携強化に向けて、フィンテック、フィンテックサミットの開催、ブロックチェーン技術に関する国際的共同研究の推進、海外当局との協力枠組みの拡大等の取り組みを行うとしています。

サイバーセキュリティの確保

金融庁が2015年7月に公表した「金融分野におけるサイバーセキュリティ強化に向けた取り組み方針」に沿った取り組みを推進するとしています。

また、中小金融機関がサイバーセキュリティの強化に遅れている現状に鑑み、以下の取り組みを行なっていくともしています。

① 中小金融機関を中心にサイバーセキュリティの実態把握を実施する
② 2017年10月に実施した、中小金融機関に参加を拡充して行った「サイバーセキュリティ演習」について、演習結果をフィードバックし、対応能力の向上を促進

特にサイバーセキュリティ対策が遅れている中小金融機関について、実態把握を行うとともに、能力向上を促進すると金融庁は述べているのです。

 

まとめ

2017年金融行政方針に示されたものは、従来の本業支援、企業価値向上に向けた地域金融機関の取り組みをKPIや表彰制度などによってより一層促進を図るとともに、今まで競争環境になかった金融機関を単純な預金規模や収益というレベルではなく、「どれだけ地域企業の役に立ち、地域企業の価値向上に貢献しているか」という視点から競争に晒すという方針が示されています。

金融庁から評価され、その結果が公表されるということは、金融機関にとって大きなプレッシャーです。

今後は、収益と金融庁の方針の間で、地域金融機関は厳しい経営を迫られるでしょう。

このような競争に生き残れない金融機関は合併や統合によって淘汰されていくことになるでしょう。

地域金融機関には地域経済と地域企業の企業価値向上というミッションを課す一方、メガバンクについてはより国際競争力をつけるように促しています。

また、ITの推進によって、より顧客の利便性向上や銀行の収益力強化も促しています。

今まで、金融機関は横並びで収益と安全性ばかり追求して業務を行う、金融機関のための経営をおこなってきたというのが実態でした。

しかし、今後は、地域の企業の経済環境と時代の変化を見据え、真に地域経済と利用者のためになる金融機関しか生き残れない時代が来るでしょう。

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急ぎの資金繰りでノンバンクから借入した事業者を信用金庫や銀行はどう見る?
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