信金の取引先としては、信用格付とか債務者区分がどのように行われていて、それが融資にどう関係しているのか、気になる人が多いと思います。
目次
信金の融資審査について
融資審査の基本的な流れ
まずは信金において、融資審査がどのような流れで行われているかについて整理します。その時々の状況にはよりますが、だいたい以下のような流れで融資審査を行います。
①希望者からの条件聞き取り、情報の取得
まずは借入希望者から、融資のニーズや希望条件、資金使途などについて聞き取りします。
その内容に応じて、決算書、資金繰り表、その他の必要な情報について、借入希望者から提供を受けます。
②取得した決算情報をシステム入力(スコアリング)
取得した決算書等を、信用金庫内の情報システムに入力し、情報システムによる情報の整理と財務内容の判定を行います(スコアリング)。
このときに信用格付が行われることが多いです。
③内部での協議、方向性決定
聞き取りした内容と、情報システムの判定結果・信用格付や、後述する債務者区分などにより、今回の案件の収益性・返済可能性などを検討した上で、その対応方針を信用金庫内で協議、決定します。
④稟議書作成、決裁
信用金庫内での協議結果に基づいて、希望者に対して具体的な条件を提示します。
希望者側の納得が得られれば、正式な申込書類をもらい、信用金庫内での社内手続きとして、稟議書(貸出をするための決裁文書)を作成し、貸出権限者に承認を得ます。
この権限者は、支店長となる場合と本部審査担当となる場合があり、本部審査担当の決裁においても、金額や状況に応じて決裁権限が異なります。
一定の条件以上の案件の場合は、理事会等による決議が必要となる場合があります。
⑤融資実行
正式な稟議決裁がおりたら、契約関係書類を締結し、実際にお金が口座に入金になります。
融資審査 自己査定 債務者区分 企業格付の関係性
「債務者区分」とは、その金融機関で借入している企業・人全てに付与されている区分で、貸し倒れが発生する危険度別に6段階に区分することを金融庁から求められています。
この債務者区分によって、金融機関の決算の際に、貸倒引当金(債権が貸し倒れになった場合に備えた先行的な損失計上)の計算方法・計上額が大きく異なるため、金融機関の経営にとって、債務者区分はとても重要な基準と位置付けられています。
そのため、債務者区分は審査結果そのものにも、大きな影響を与えることとなります。なぜなら、債務者区分によっては、貸出をすることで金融機関側に損失が発生することもあるからです。
以下の例は、同一条件で融資した場合に、債務者区分によって金融機関の決算がどうなるかを比較したものです。
例:1000万円、金利2%で新しく貸出をした際の年間損益
正常先に貸し出した場合(貸し倒れの割合を0.3%として見積もり)
利息収入(1000万円×2%)-貸倒引当金(1000万円×0.3%)=利益17万円
要注意先に貸し出した場合(貸し倒れの割合を3.0%として見積もり)
利息収入(1000万円×2%)-貸倒引当金(1000万円×3%)=損失10万円
上記のように、同じ条件で融資したにも関わらず、その年度における金融機関の利益は、正常先に対してなら利益17万円、要注意先に対してなら損失10万円となります。
もちろんこれは損失の先行計上によって発生する違いなので、要注意先に対する融資でも貸し倒れが発生しなければ最終的には利益が出るのですが、先に会計上の損失計上が必要となることも事実です。
そのため、融資審査の結果に債務者区分がどの区分であるか、が大きく影響するのです。
債務者区分の考え方は、金融庁の定めた通称「金融検査マニュアル」および中小企業について特別なケースを定めた「金融検査マニュアル別冊」によってある程度定義されています。
その定義に則って、各金融機関が独自で自分たちのお客様に適用する基準を定め、それに基づいて債務者区分を決定する仕組みとなっています。この金融機関が債務者区分を決定するための仕組み全体を指して「自己査定」と呼ばれています。
自己査定のやり方は、各金融機関でまちまちで、その基準や実行する頻度も含めて、独自で定めていますが、金融庁が検査に入る時には、自己査定の仕組みおよび債務者区分の適切性について検証し、問題があれば指摘して改善を促しているので、業界全体ではある程度の目線合わせが出来ている状況です。
また、金融機関全体の信用リスク管理(景気悪化等の影響により金融機関の経営にどの程度悪影響が与えられるかを管理するための手法)の一環として、金融庁の指導により、貸出企業に対して信用格付(企業格付)を実施するよう求められています。これは、各金融機関が財務内容などの根拠のある基準に基づいて各企業の信用リスクをランク付けするものです。
この信用格付については、自己査定と整合的であることが求められているため、実質的には自己査定の判断根拠にも適用することとなっています。
このように、融資審査と、債務者区分・自己査定・信用格付が連動して運用されているため、融資を利用する側からも、債務者区分や企業格付には十分留意が必要なのです。
「債務者区分」の判定基準について
債務者区分の種類
金融検査マニュアルにおいて、各債務者区分とその判定基準がある程度定義されています。
その基準を参考にした上で、各金融機関が独自で債務者区分の判定基準を定めています。
金融検査マニュアルにおける債務者区分の定義は以下の通りです。なお、一般的に、破綻懸念先以下が金融機関にとっての「不良債権」となります。
正常先
業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者をいいます。
要注意先(その他要注意先)
金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実 上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある 債務者など今後の管理に注意を要する債務者と要注意先とします。
そのうち、要管理先以外の債務者が、その他要注意先となります。
要注意先(要管理先)
要注意先の債務者のうち、当該債務者の債権の全部又は一部が要管理債権である債務者をいいます。
要管理債権とは、要注意先に対する債権のうち「3 カ月以上延滞債権(元金又は利息の支払が、約定支払日の翌日を起算日として 3 カ月以上延滞している貸出債権)及び貸出条件緩和債権(経済的困難に陥った債務者の再建又は支援を図り、当該債権の回収を促進すること等を目的に、債務者に有利な 一定の譲歩を与える約定条件の改定等を行った貸出債権)」をいいます。
破綻懸念先
現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、 今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(金融機関等の支援継続中の債務者を含む)をいいます。
具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過 の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態 にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり、従って損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者のことを指します。
実質破綻先
法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいいます。
具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失 を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している債務者などのことを指します。
破綻先
法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者を言います。
債務者区分を決定するために、信用格付がどのように利用されているか
債務者区分を決定する際には、まず金融検査マニュアルの例示などから、各金融機関が独自に設定している形式基準に基づいて、形式的な債務者区分を決定します。
その後で、実態も含めて上記の債務者区分の定義としてどの区分に該当するかを、個別に指定する作業を経て、最終的な債務者区分を決定しています。
その際、信用格付は、形式基準の一つとして、債務者区分を決定する根拠の一つとして適用されており、債務者区分と信用格付のランクが紐づけされています。
「信用格付」はどのように行われているか
そもそも信用格付とは
前述の通り、信用格付とは、金融機関の信用リスク管理に利用するために実施するもので、その企業の信用リスクを客観的な一定の基準に基づいてランク付けしたものです。
貸出債権だけではなく、金融機関が所有する有価証券などについても、信用格付によって評価されています。
信用格付には、どのような種類があるのか
信用格付には、外部機関である格付会社(ムーディーズ、S&P、JCR)などによる格付によるものと、各金融機関が独自の基準に基づいて付与しているものがあります。
また、各金融機関の基準に基づいて格付を行う場合でも、多数の財務データや貸倒データに基づいた倒産確率モデル(CASTER、CRD、CRITS、SDBスコアリングモデルなど※注)を基に倒産確率の階層に基づいた基本的なランク付けを実施し、さらに必要に応じて財務内容を実態評価することや、後述する「定性評価」などを評価に反映させたうえで、最終的な信用格付を実施しています。
信用金庫では、SDBモニタリングを利用した格付を行っているところが多いのではないかと思います。
信用格付のランク付けの階層は各金融機関によって様々ですが、通常では8~12階層程度に分類されており、その階層を債務者区分とリンクさせています。
そのランク別の貸倒発生率を後日検証し、モデルの前提条件と大きく相違していないことを確認しながら運用しています。
※注:
CASTER:
三井情報㈱が提供する財務分析システム。地銀など170行で採用されている。CASTERをベースにした信用リスク管理システムCARMも50銀行で採用されている。
CRD(中小企業信用リスク情報データベース):
信用保証協会、政府系金融機関、民間金融機関からなる一般社団法人CRD協会が運営するモデル。保証協会における融資判定にも利用されている。
CRITS:
一般社団法人全国地方銀行協会が運営するモデル。会員行64銀行から提供された財務データ・貸倒データに基づいて、倒産確率、信用リスク管理に必要なデータを提供している。
SDBスコアリングモデル:
信用金庫業界が共通で整備しているスコアリングモデル。各信用金庫から提供された財務データや貸倒データをもとに倒産確率・財務諸表平均値などを算出している。
例として、どのような項目を、どのように評価しているのか
各金融機関が財務内容として評価する項目は信用リスクに対する考え方によって様々ですが、例えば以下のような項目が、その評価対象となります。
・自己資本額、自己資本比率=自己資本の厚さを判定
・経常利益額、経常利益率=利益額・率の高さと安定性
・売上高、売上高の増減= 売上高の金額・増減率の安定性
・総資本回転率、在庫回転率=資金の回転率の早期性
・不明瞭資産=資産内容の中に不明瞭な資産がないか
・キャッシュフロー=現金の潤沢さ、毎年のキャッシュフローの状況
・財務内容以外での資本余力=代表者などの所有資産等の厚さ
「定量評価」と「定性評価」と信用格付
信用格付などで企業を評価する場合に、その判断基準の考え方として、「定量評価」と「定性評価」と言われるものがあります。
以下では、それぞれの特徴、関係性などについて説明します。
「定量評価」とは何か
「定量評価」とは、文字通り、数字で測定が容易な項目で企業を評価するものです。
代表的なものとしては、企業の決算書などの財務資料を基にした各種指標や、企業や経営者の所有資産額などを利用して企業を評価することです。
定量評価の優れたところは、他の企業との比較が容易であること、過去の貸倒実績などに基づく客観的な評価ができるところです。
汎用性が高く、システム化も比較的容易なため、信用格付の評価基準においても、定量評価に基づく倒産確率モデルが、その大きな割合を占めています。
「定性評価」とは何か
「定性評価」とは、財務内容や所有資本額など数値で判断できる「定量評価」(会社の決算内容や所有資産額など、数字として測定できる基準による評価)と対となる考え方で、経営には大きな影響を与えるが数値化が難しい項目(経営者の力量、技術力など)をできる限り定量的に評価しようとするものです。
単純には数値化が出来ないため、色々な尺度との比較によって、その優劣を定量化していこうという試みです。
もともと数値化できないものを定量化しようという試みのため、その評価基準は各金融機関・信用金庫によって大きく異なります。どの程度採用されているのかは個別の信用金庫の内部的な判断基準となっています。
「定性評価」の着眼点
定性評価には、各金融機関の考え方が大きく反映するため、評価項目や判断基準を一般化するのは難しいですが、以下のような点を着眼点として評価することとなります。
・業歴:会社としてどの程度の業歴を有しているか。
・経営者:経営者の経営手腕はどの程度か。
・技術力:独自の技術を有しているか。
・市場価値:市場でどの程度のポジションを有しているか。競争相手はどこがいるか。
・取引先:取引先の経営安定度はどうか。幅広い取引先を有しているか。
・市場規模:その会社の主力市場は成長市場か衰退市場か。
・従業員:離職率はどの程度か。社員教育はどの程度されているか。
・ブランド価値:商品のブランド力はどの程度あるか。
④「定量評価」と「定性評価」の関係性
先述の通り、信用格付においては、基本的に倒産確率モデルによる信用リスクの判定がその根幹である以上、定量評価が評価基準のうち大きな割合を占めています。
それは、信用格付によるランク付けは、定期的に貸し倒れ実績率との比較検証による見直しを求められているため、客観的な指標による統一的な評価が必要とされるためです。
一方で、信用格付=債務者区分≒融資判断基準という運用になっている関係上、業務上においても信用格付を活用するため、信用格付の決定基準に幅を持たせた上で、個別企業の評価においては定性評価による実態判断も加えている金融機関もあります。
金融庁から、後述する「事業性評価」による融資の推進などが求められている状況から、今後も定性評価を信用格付に併用していく方向性に向かっていくものと考えられます。
今後の信金融資の方向性
上記のように、今までの融資審査は、財務内容等の定量的な判断基準から決定した債務者区分と案件毎の返済可能性等の審査に基づいて、融資可否を判断しています。
その中では、信用格付という企業の信用リスクを評価する枠組みが大きな役割を果たしていました。
しかしながら、現在、状況が少しずつ変わってきています。
金融行政を統括している金融庁のスタンスが、金融検査マニュアルを策定した時代とは大きく異なってきているからです。
金融検査マニュアルは、不良債権問題の対応策として制定されていたものです。その後の景気低迷期を超え、金融機関の不良債権問題は解決に向かってきていました。
その一方で、成長産業に十分に資金が回らないことによる日本全体の成長性低下が課題となってきており、金融庁は金融検査マニュアルを中心とした検査体制全般を見直そうとしています。
事業性評価と金融仲介機能のベンチマーク
金融庁は、平成26年頃から、担保・保証に過度に依存せずその会社の事業の内容や将来性を評価した「事業性評価」による融資を行うように金融機関に要請をしています。
また、平成28年には、金融仲介機能のベンチマークという制度の運用を開始し、金融機関に対する検査の代わりに、5つの共通ベンチマーク(全金融機関を監督する指標)と50の選択ベンチマーク(各金融機関が自主的に選定する指標)を定め、そのベンチマーク項目の達成状況を各金融機関が自主的に報告・公表することで金融機関の経営改善を図る、という仕組みを打ち出しましたが、その共通ベンチマークの一つに事業性評価に基づく融資の実行件数・金額も対象となっています。
さらに、平成29年には、金融庁による検査・監督体制の将来的な大幅見直し案を発表し、2019年以降に金融検査マニュアルを廃止する方向性まで公式に打ち出しています。
このように、金融行政側が金融機関に求めるものが、確実な不良債権処理による預金者保護の方向性から、成長企業へ資金提供するためのリスクテイクの状況にシフトしてきています。
一方で、金融機関側においては、行政側の本気度を確かめたいという意向もあり、ゆっくりと制度設計の準備をしながら、慎重な対応を行ってきました。
しかしながら、金融検査マニュアルの廃止という当局側の本気度もあり、ここにきて各金融機関ともに事業性評価による融資に積極的に乗り出してきているところもあります。
背景には、マイナス金利政策によって有価証券運用で稼げなくなってきていることと、運用低迷と貸し倒れの減少から各金融機関が優良先での金利競争が激化していることがあります。
事業性評価による融資を進めていくためには、先述した定性評価をうまく評価項目に組み込んだ枠組みを構築していく必要があり、今後は信用格付による債務者区分重視の姿勢から、定性評価を中心とした事業性評価重視の姿勢へと各金融機関の姿勢が転換していくことが期待されています。