信用金庫に融資を申し込んだときに、保証協会付き融資にしてほしいといわれることがよくあります。なぜそうなるのでしょうか。また、保証協会付き融資を利用する場合にはどのような流れになるのでしょうか。
今回はそのような点について、信金・保証協会・利用者の立場の違いも考慮したうえで考えていきたいと思います。
・信用金庫にとってプロパー融資と保証協会付融資は何が違うのか。
では、まず、信用金庫にとってプロパー融資と保証協会付融資では一体何が違うのでしょうか。
まず、何かあった時のリスク量が違います。
保証協会付融資の場合、責任共有制度の対象であっても、貸し倒れ額の80%は保証協会が代位弁済という形で補填してくれます。そのため、担保がない、または将来の回収に不確実性がある案件などでは特に信用金庫にとっては大きなメリットとなります。取り上げる担当者としても、リスクが低い分信用金庫内での審査が通りやすいため、早く確実に案件として取り上げたいという気持ちから、保証協会付融資へ誘導することとなります。
また信用金庫側には別のメリットもあります。銀行を評価する指標の中に自己資本比率という指標があるのですが、この指標を計算するときに有利になるのです。
現在、自己資本比率を計算するときの算式は「自己資本÷資産(リスクアセット)」となっており、この比率が国内で経営する金融機関の場合4%以上であることが求められています。このときの資産の考え方が独特で、リスクアセットという言葉の通り、同じ金額でも資産の持っているリスクの性格によってその計算における金額が変わってくるのです。通常の中小企業融資だと貸出金額の75%として計算されますが、保証協会付融資の場合だと、貸出金額の10%として計算されるため、自己資本比率の計算上有利になるのです。
・保証協会付融資とプロパー融資、どちらが「お得」か。
では、保証協会付融資とプロパー融資、一体どちらが「お得」なのでしょうか。利用者側と信金側に分けて考えてみることにします。
①利用者側
コスト面に着目した場合には、利用者側としては、実は保証協会付だから損をする、というわけではありません。保証料と適用される金利と会わせた金額がプロパーで借入した時の金利を下回る=金利を安くしてもらえるなら、保証協会付の方がお得になります。
利用者側として損得を考えるべきは、与信枠の問題です。信用金庫に限らず、銀行も含めて、業績がいい時には比較的容易に借入できますが、業績が悪くなってきて本当にお金が欲しい時にはなかなか借入できないのが、銀行融資と言うものです。
保証協会にも同じことは言えるのですが、保証協会にはその公的保証機関としての設立趣旨もあるため、政策的にある程度柔軟な対応をしてくれるケースも見られます。
そのため、通常の融資の場合にはできるだけプロパー融資の割合を増やすことで、将来のための与信枠を残しておくことが重要なため、通常の借入をする際にはプロパー融資を利用する方がお得と言えます。
②信用金庫側
では、信用金庫側の立場からすると、どちらの融資の方がお得なのでしょうか。実は、これも、ケースバイケースになるのです。
プロパー融資と保証協会付融資で同じ金利がもらえる、という前提であれば、確実に保証協会付融資の方がお得になります。しかし、現状の金融情勢においては、保証協会付で融資する場合にはかなり金利を下げる必要があるため、実は金利収入面においてはプロパー融資の方がお得なのです。保証協会を付保する手続きに必要な手間や時間がなくなることも、信用金庫側からするとメリットとなります。
しかも、昨今では、信用金庫の自己資本比率は比較的高止まりしており、対策を講じる必要性が薄れている一方、マイナス金利政策の影響で貸出利回りが低下の一途をたどっており、収益改善はどの信用金庫においても喫緊の課題です。
つまり、「貸し倒れの可能性が低いと考える案件」であれば、信用金庫側としてもプロパー融資の方が「お得」なので、実はプロパー融資を取組みたいという気持ちはあるのです。
・保証協会付き融資の審査基準などについて。
保証協会付き融資を利用する場合の審査基準などはどうなるのでしようか。色々な観点から考えてみましょう。
①審査基準
保証協会付き融資の場合、審査は、保証協会・信用金庫の双方で行われ、そのどちらにも合致することが求められます。
まず、信用金庫側の審査基準について説明します。
信用金庫で保証協会付き融資を取り組む際には、まず信用金庫がその基本姿勢に合致しているかを判断されます。その際には、資金使途・返済財源、企業内容などを検討します。
保証協会融資を審査する場合には、今回の融資単体の保全についてはほぼ検討する必要がないため、プロパー融資に比べれば、信用金庫内部での審査基準はかなり緩やかなものとなります。また、信用金庫内部では取り組みに対して消極的な案件でも、保証協会が保証してくれるなら、という条件で取り組む場合もあります。
ただし、資金繰りの状況などによっては、次回与信時にプロパー対応できるか、等も検討材料になることがあります。
次に保証協会側の審査基準について説明します。
保証協会も、基本的には信用金庫と同様の審査をします。その中で、保証協会独特のアプローチについて説明します。
保証協会の中で独特の考え方は、その企業の直近の財務諸表から判定した財務スコア(CRD評点)を審査に活用している点です。これは、財務データを指標化して倒産確率を出したもので、このスコアの多寡によって、審査結果に大まかな方向性が与えられています。
また、もう一つの要因としては、制度融資や提携商品の利用があります。
保証協会には、保証協会独自の保証制度のほか、国や各地域の自治体が制定している制度融資、各地域の個別金融機関との協議で設定している提携商品があります。これらの商品については、通常の保証とはまた異なる審査基準が存在するため、このような制度を利用することで、通常よりも円滑に保証審査が通りやすくなることがあります。ただし、制度融資・提携商品を利用するには、その条件に合致する必要がありますので、その点に注意が必要です。
②保証人
保証協会付き融資を利用する際には、保証協会に対して、法人であれば代表者が保証人にとして参加することが必要となります。個人事業主の場合には、他の個人に保証人として参加してもらうことは必須ではありません。その時、信用金庫側にも同一の保証人が必要となります。
ただし、近年、金融庁・経済産業省が主導で、個人保証の負担を軽減して事業者が緒戦しやすい環境を整備する観点から、「経営者保証ガイドライン」という事業資金に対する個人保証のガイドランを制定しており、一定の条件をもとに代表者・第三者による保証を不要とするように促しています。最近は経営者保証ガイドラインに基づく個人保証のない融資の取り組みもわずかながらではあるものの増加傾向にあるため、経営と個人の分離などの条件を満たせる企業であれば、保証人なしで取り組めるケースも増えてきています。
③金利と保証料の関係
保証協会の保証料は、9つの料率区分(責任共有保証料率の場合0.45%~1.90%)に分かれており、どの区分の料率を利用するかは、前述のCRD評点によって決定されます。また、それ以外にも、貸出形態(ABL保証など)や利用する保証制度などによっても適用される保証料率が異なります。
また、保証協会付き融資の場合には、信用金庫側の金利も安くなります。もともと金利には貸し倒れリスク相当分が含まれていますが、保証協会付き融資の場合には貸し倒れリスクが低下するためです。保証協会付きにすることでの金利の引き下げ幅には各信用金庫による考え方やもともとの金利設定などによっても異なりますが、相場感としては0.25%程度低下すると考えてよいでしょう。この程度の引き下げ幅の場合には保証料の方が高くなるため、結果的には割高になることが多いと思いますが、保証協会との提携商品による低利融資や地方公共団体の制度融資を利用することで大幅に適用金利が下がるケースもあるため、その損得はケースバイケースとなります。
・信用金庫で保証協会付き融資を利用するときの流れ。
では実際に、信用金庫において、保証協会付き融資を利用するとき、信用金庫ではどのような流れで対応することになるのでしょうか。
- 顧客からの相談
担当者は大体、各事業先にたいして、「この企業に対しては、どの程度の融資対応ができる」という肌感覚を持っていますので、この時点では各担当者の判断で融資案件の内容について聞き取りします。
この時点での対応は、その支店の融資に関する方針や担当者の心証もかなり左右してきます。支店長によっては、担当者に判断させず案件はすべて持ち帰ってくるよう指示している人もいれば、担当者レベルでしっかり判断してからでないと話も聞いてくれない人もいます。担当者としても、支店内で自分が困るような案件は受けたくないので、業績不安がある先や心証が悪い相手の案件は、あまり審査せずにそもそも回避するようなケースもあります。支店長や担当者との普段からのコミュニケーションが、対応を大きく左右する局面です。
- 信用金庫内での検討
支店に持ち帰った案件は、担当者、渉外担当約席、融資担当約席で、現状での対応状況をもとに対応方針について、協議します。その後、支店長や本部審査担当との協議も踏まえ対応方針を決定しますが、最初の協議段階で支店長も参加して、その場で対応方針を決定する場合もあります。
この時点で案件に対する方向性は概ね決定するため、保証協会付き融資を利用するか、プロパー融資を利用するかも、だいたい決まってしまいます。なのでこの時点でどのように話をもっていくかはとても大切です。
このとき、融資判断に必要な情報や資料が不足するときには、今後の流れも意識しながら、ヒアリングや資料依頼が行われます。
なぜ、「今後の流れも意識」するのかというと、「この段階で資料を細かく依頼しすぎると、顧客側が融資実行を過剰に期待するため、結果として後で対応できないため融資を謝絶しないといけなくなった時に断りにくくなる」と信用金庫側が考えているからです。
そのため、判断が難しい案件の時には、追加資料をあまり依頼せずに安全策(より厳しい判断をする=金額を減らす、保証協会付き融資のみとする、謝絶する等)に向かいがちなので、自社の現状を十分に理解した上で、必要と思われる情報は積極的に提供したほうが、結果として適正な判断を下してもらえる可能性が高まります。
- 保証協会への打診と承認。
信用金庫内部での対応方針がおおむね決定したら、保証協会に案件を打診します。
その際には、保証協会制定の保証審査依頼書に所定の内容を記載して、信用金庫の支店長公印を押印の上、筆者の地域の保証協会では、関係書類とともに、FAXで送付していました。その際、保証協会に対して代表者の個人保証が必要なケースでは、信用金庫から保証協会に対して個人情報を提供することについての同意書の提出要請があります。
このFAXでの申請は、一応正式な手続きの一環であり、保証協会においても申し込みとして認識されます。
その後、この案件の保証協会担当者が決定し、保証協会による審査が行われます。
保証協会の担当者による審査の過程で、質問事項や必要書類などが信用金庫側に依頼がありますが、信用金庫だけで対応できないときには、顧客への問い合わせ等があります。
この時点で、保証条件・金額・保証料率などの条件のほか、提携商品や特別な制度融資の利用について保証協会側から打診があることもあります。通常の案件では決裁が難しい場合でも、そのような特別な条件付きの融資制度の場合には、審査がおりやすい場合があるためです。
決裁がおりると、保証協会から信用金庫に対して、文書での保証決定通知があります。この時点では正式な保証依頼前なので、完全な保証承諾ではありませんが、前提条件が変わらなければ、基本的に保証審査は終了となります。
保証決定通知を受けた時点で、支店内部で再協議し、この条件で受け付けることを決定します。
なお、正規の手続きでは上記の流れになりますが、電話等で事前に保証協会の地区担当者に問い合わせて、案件の感触を確かめるということは、日常的に行われています。また、対応が厳しい案件になると、信用金庫の担当者単独、もしくは、顧客と同行して保証協会の担当者と直接協議するケースもあります。
- 申込書類の提出
上記のように、支店内での対応方針が決定し、保証協会の保証決定がおりたら、借り入れに関する信用金庫向けの借入申込書と、保証協会に対する保証申込書、保証契約書を顧客からもらいます。
その後、保証申込書、保証契約書を保証協会に提出し、保証書の発行を受けます。
保証協会としては、この時点で正式な保証承諾となります。
- 信用金庫での審査
信用金庫内部で正式な審査手続きをします。
事前段階で審査手続きに準じた検討は行っているため形式的な審査ではありますが、この時点で既存の借入金に延滞が発生している、申込人の状況が事前相談時と異なっているなどの場合には、事前の結論が変更となるケースもあります。
- 融資の実行
正式な稟議決裁を受けたあとに、融資を実行します。このとき、保証協会に対して、原則全融資期間に対応する保証料を一括で支払う必要がありまする
この信用保証料は融資の金利と同等の性格のため、この融資を期限前に繰り上げ返済した場合には、所定の方法で再計算し、保証料が返還されます。