
経費の支払いありきで「毎月これくらいの経費がかかるから、手元に100万円あればいい」などと安易に考えている人も少なくないのではないでしょうか?
毎月の売上が完全に安定している企業でもない限りは、そのような適当な運転資金の把握を行っていたら、急に売上が減少したときや、規模拡大となったときにお金が足りなくなって倒産に追い込まれる可能性も大いにあります。

目次
経常運転資金
企業の正常な営業活動を行っていくうえで恒常的に必要と認められる運転資金を経常(正常)運転資金といいます。
計算式
経常運転資金の計算式は以下のようになっています。
経常運転資金=売上債権+棚卸資産-買入債務
この方法が最も簡単に経常運転資金を算出する方法です。
仕入も売上も掛けにて行う企業に必要な考え方で、現金で仕入や販売を行っている企業には必要ない考え方です。
なお、現金商売の企業は創業時の仕入資金さえあれば、その後は売上即現金となるため、運転資金の融資は必要ありません。
売上債権
売上債権とは、売掛金や受取手形などのすでに売上済ではあるが、
まだ入金となっていない資産を示します。
棚卸資産
棚卸資産とは、仕入れた商品の在庫です。
こちらも将来的には売上によって現金化する資産を示します。
買入債務
買入債務とは、仕入れにかかる未払いの代金である買掛金や支払手形を示します。
会社の営業サイクルは支払いが先、入金は後
会社の営業は
①商品を仕入れる(買掛金発生)
②在庫をストックする
③在庫を販売する(売掛金発生)
④買掛金を支払う
⑤売掛金が入金となる
というサイクルで営まれます。
先に買掛金の支払い期日が到来するため、
売上債権入金前に手元に現金をもっていないと支払いができません。
このため、将来の入金分である売上債権と棚卸資産から将来の支払い分である買入債務を差し引いた金額を手元に持っていなければならず、この金額が会社を運営していくにあたって必要な運転資金となります。
売上債権 | 経常運転資金 |
棚卸資産 | |
買入債務 |
買入債務は売上債権の入金よりも先に支払い期日が到来するお金です。
であるならば、買入債務の代金だけ手元に持っていればよいとお考えの方もいるかもしれません。
しかし、仕入れ以外にも会社には人件費、光熱費、家賃などの仕入れとは関係のない費用も支払わなければなりません。
商品販売の際には商品仕入原価のほかにもこのような経費を考慮して価格設定しているはずですので、買入債務の代金だけが手元にあるだけでは足りず、将来入金となる予定のお金-将来支払予定のお金が必要な運転資金となるのです。

経常運転資金の問題点
実務上では、この経常運転資金の算出方法は少々ざっくりしすぎています。
売上債権も棚卸資産も確かに「将来の入金分」です。しかし、いつ入金になるのかは不透明です。売上債権は3か月先まで入金となるのかもしれませんが、在庫を多く抱える会社では1年先に入金となる棚卸資産を抱えている可能性もあります。
つまり、売上債権や棚卸資産や買入債務が入金となる「時間」という概念が
具体的に考慮されていません。
回転率によって正確に算出する方法
上記の経常運転資金の算出式の「時間の概念の欠如を解決する運転資金の算出」方法が、
回転率を使用する方法です。
売上債権はいつ現金化するのか、在庫はどのくらいの日数で売上に変わるのか、買入債務はどのくらいの期間で現金で支払わなければならないのかなどがそれぞれ異なります。
このため、これらの日数を個別に算出して、必要な運転資金はどのくらいなのかを知る方法があります。
それが回転率によって必要運転資金を求めるという方法で、こちらの方法のほうが正確に運転資金を求めることができます。
年間売上1億円、売上債権2,000万円、棚卸資産1,000万円、買入債務1,500万円の会社を例に考えてみます。まず最初に、この会社の1日あたりの売上高を計算しておきましょう。
1日あたり売上高=1億円÷365日=273,972円
棚卸資産回転期間
棚卸資産回転期間とは、商品を仕入れてから何日で販売しているのかという考え方です。
計算式は以下の通りです。
棚卸資産回転期間=棚卸資産÷1日あたり売上
上記事例でいえば、1,000万円÷(1億円÷365日)=36.5日
この会社は商品を仕入れてから36.5日で販売していることがわかります。
売上債権回転率
売上債権回転期間とは、商品を販売してから何日で現金回収しているのかという考え方です。
計算式は以下の通りです。
売上債権回転期間=売上債権÷1日あたり売上
上記事例でいえば、2,000万円÷(1億円÷365日)=84日
この会社は売上があってから84日で現金回収していることがわかります。
買入債務回転期間
買入債務回転期間とは、商品を仕入れてから何日で支払うのかを示す考え方です。
買入債務回転期間=買入債務÷1日あたり売上
上記事例でいえば、1,500万円÷(1億円÷365日)=54.8日
この会社は商品を仕入れてから54.8日で支払いを行っていることがわかります。
3つの回転期間から必要運転資金を算出
この会社は
①商品を仕入れてから販売するまで36.5日
②商品を販売してから現金化するまで84日
③商品を仕入れてから支払うまで54.8日
ということが上記3つの回転期間から求めることができます。
つまり、運転資金が必要になる日数である運転資金回転期間は
①36.5日+②84日-54.8日=65.7日
となります。
この会社の1日あたりの売上高は273,972円ですので、
必要運転資金=273,972円×65.7日=17,999,960円
の運転資金が手元に必要になるということがわかります。
ちなみに、冒頭の方で解説した方法の「売上債権と棚卸資産と買入債務だけで」必要運転資金を算出すると以下のようになります。
売上債権2,000万円+棚卸資産1,000万円-買入債務1,500万円=1,500万円
回転期間から算出される運手資金よりも約300万円少ない数字となりました。
これは、この会社は売上債権回転期間が他の2つの回転期間と比べて突出して長いため、売上債権回転期間が、必要になる運転資金の日数を多くしているためです。
この場合、回転期間をしっかりと計算しておかないと、3か月後には運転資金が枯渇するということにもなりかねません。
やはり運転資金は回転期間を活用して詳細に把握したほうがよいでしょう。
効率のよい経営のために
回転期間の計算から、運転資金が必要な日数を短くすれば経常運転資金が少なく済むということがわかります。
効率よい経営を行うために、以下の3つの点を強化できれば運転資金の心配はなくなります。
棚卸資産を少なくする
棚卸資産を少なくする、つまり余分な在庫を持たなければその分棚卸資産回転期間は短くなります。
例えば上記の会社の棚卸資産が500万円の場合を考えてみましょう。
500万円÷273,972円=21日
21日で在庫が売上に変わっていますので、必然的に運転資金が必要な日数も短くなります。
回収サイトを短くする(売上債権を少なくする)
売上債権を少なくする、つまり、回収サイトを短くして、今まで3か月先の入金だったものを2か月先に変えてもらうなどということができれば、その分、売掛金の残高は減少することになり、売上債権回転期間は短くなります。
例えば上記の会社の売上債権が1,000万円の場合を考えてみましょう。
1,000万円÷273,972円=36.5日
売上債権が少なくなると回収サイトが短くなった分、運転資金が必要な日数が短くなることになります。
支払いサイトを長くする(買入債務を増やす)
仕入れ先への支払いを遅くすれば、その分支払いを先延ばしにできるため、運転資金が必要な日数が短くなることになります。
上記の会社の買入債務が2,000万円であった場合を考えてみましょう。
2,000万円÷273,972円=73日
これらすべての改善が図れた場合の運転資金の必要日数は21日+36.5日-73日=-15.5日となります。
要するに支払いの前15.5日前に入金がある状態ですので資金繰りには困らないことになり、この会社は運転資金の融資を受ける必要が全くありません。
少し極端な例ですが、このように、効率のよい経営をめざしてみましょう。
※支払サイトと回収サイト(入金サイト)に関してもっと掘り下げたい方向け↓
支払サイトと入金サイトの資金ギャップで資金繰り! 買入債務回転期間と売上債権回転期間
見込みで必要運転資金を計算する
1年の途中で受注が急に減少することもあれば、増加することもあるのが会社経営です。
そのようなときは、今後の変動に合わせて必要な運転資金を計算し直してみましょう。
1月~6月までの売上が6,000万円(月商1,000万円 1日あたり売上高328,767円)、売上債権1,000万円、棚卸資産500万円、買入債務800万円の会社の必要運資金を、回転期間から計算した場合には以下のようになります。
棚卸資産回転期間=500万円÷328,767円=15.2日
売上債権回転期間=1,000万円÷328,767円=30.4日
買入債務回転期間=800万円÷328,767円=24.3日
運転資金回転期間=15.2日+30.4日-24.3日=21.3日
運転資金=(15.2日+30.4日-24.3日)×328,767円=7,002,737円
受注が減少した場合
受注が減少し、売上が今月から月商600万円に減少した場合を考えてみましょう。
今後6か月間の予想売上高=600万円×6か月=3,600万円
実績売上6,000万円+予想売上高3,600万円÷365日=263,014円
突然売上が減少したため、それぞれの回転期間は以下のように変化します。
棚卸資産回転期間=500万円÷263,014円=19日
売上債権回転期間=1,000万円÷263,014円=38日
買入債務回転期間=800万円÷263,014円=30.4日
運転資金回転期間=19日+38日-30.4日=26.6日
運転資金=26.6日×263,014円=6,996,172円
売上が減少したことによって、運転資金が必要な日数が増えて、売上が減少したにも関わらず当面必要な運転資金は変わらないことがわかります。
受注が増加した際には注意が必要
受注が急に増加することは会社にとっては一見喜ばしいことなのですが、売上債権回転期間が増加しないように注意が必要です。
売上が増加したことによって、売掛金の回収サイトが長くなってしまった場合には、売上債権の金額が必要以上に大きくなり、その結果として売上債権回転期間が長くなることがあります。
取引先と、現在の売上債権の回転期間を超えない日数で回収サイトを交渉する必要があります。
また、今の売上債権回収期間よりも長くなる場合には、今後必要になる運転資金はより多くなりますので銀行と相談するなどしてしっかりと準備をしておきましょう。
準備をしておかないと、売上があるのに現金が足りなくなり、黒字倒産となってしまうこともあり得ます。

それぞれの回転期間は常に把握しておく必要があります。
まとめ
会社の運転に必要な資金は正確に把握しておかないと、売上はあるのに、現金が手元にないため支払いができずに黒字倒産になってしまうという事例は少なくありません。
「毎月これくらい払っているから」という安易な考えは現金が潤沢にある企業だけにしか通用しない考え方です。
売掛金の入金と買掛金の支払いの狭間で毎月資金繰りを行っている企業は本当に必要な運転資金を正確に把握する必要があります。
経常運転資金の算出式はざっくりと必要な運転資金を求めることができますが、売上債権や棚卸資産や買入債務にいつ現金がともなうのかという時間的な考えが考慮されていないため、実際に必要な金額とは異なります。
運転資金を求める際には売上債権、棚卸資産、買入債務それぞれの回転期間を求めて、自社の本当の資金ギャップは何日なのかを考えてから、必要運転資金を求めましょう。
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