「会社の工場に新しい機械を導入したい」「規模拡大のための新規事業を始めるために設備のお金を借りたい」といった、機械や車、土地建物などを購入するための資金を「設備資金」といいます。
設備資金も銀行から融資を受けることが可能ですが、運転資金と同様に設備資金の借入にも審査があり、運転資金とは全く別の視点から審査が行われます。
一般的に金額が高額になることが多い設備資金の借入ですが、申込のポイントや審査の基準はどのようになっているのでしょうか?
設備資金の審査ポイントについて解説します。
目次
設備資金の申込
設備資金の申込を行うのであれば、基本的には「取引のある銀行」へ赴き、銀行担当者と相談を行なうことが重要です。
いきなり、インターネットなどで申込を行っても、設備投資の合理性や融資の方向性などを銀行員は判断できません。
相談の際に、明確にしておかなければならないポイントは以下の3点です。
何を購入したいのか
設備資金は、機械や土地・建物などの物品や不動産を購入するための資金です。
あたり前ですが、申込時には何を購入したいのかということを明確にしておく必要があります。
その際は、できれば見積書などを持参し、どこからいくらで購入しようとしているのかも明確になったほうが話は早く進みます。
なぜ設備を導入したいのか
購入したい設備をなぜ導入する必要があるのかという点を明確にしておかなければなりません。
ただ「買いたいから」という不明瞭な理由や、「ウチも大きくなったから自社ビルくらい建てない」などと言った非理論的な理由はやめましょう。
「受注が増えて今の機械では対応できないから」とか「重機が古くなって効率が悪いから」などの売上に直結する理由が必要になります。
筆者が銀行員時代に担当していたホテルでは、全館のエアコン設備が夏前に故障したため「このままだと夏の営業に対応できない」という明確な理由があったため、すぐに融資を対応した経験がありますが、このようにやむを得ない理由の場合には、なお審査は早く進みます。
投資効果はどのようになるのか
設備資金は金額の大きな借入で、長期間にわたって返済していかなければなりません。
毎月30万円の返済を今後15年間続けていくような借入になるのであれば、設備導入によって毎月30万円のキャッシュを生むかどうかも重要になります。
つまり、設備を導入した効果が毎月いくら生まれるのかという投資効果の予測が非常に重要になります。
受注増加によって新規設備の導入が必要になるのであれば、受注はいくら増加して、増加分の利益はいくらを見込んでいるのかを銀行に示す必要があります。増加分が返済分に届かない場合には融資を受けられないこともあります。
また、「たぶん○○万円くらいの売上増加があると思う」というような曖昧な予測では、銀行は投資効果について納得しません。
合理的かつ明瞭な説明ができるようにしましょう。
設備資金審査のポイント
申込時に銀行が案件を取り上げると決定すると、審査に入ります。この審査のポイントは概ね以下の4つのポイントです。
投資そのものが必要か否か
まず、設備投資を行ないたいという計画そのものが必要か否かが重要です。
本業でうまくいっていない会社が、全くノウハウがない業種に転換を行うための設備を貸してくれと言ってもなかなか難しいでしょうし、お金もないのにエゴだけで自社ビルを購入したいなどと言っても投資の必要性なしと判断されることもあります。
基本的には現在の業務の継続性の中で、本業をより強化するための設備投資であれば、投資が必要であると判断される可能性があります。
今は銀行も融資先がなく、企業も設備投資を控える傾向にあるため、借金しても投資を行い業務拡大しようというやる気のある経営者を応援するように金融庁は求めていますし、銀行も金融庁の方針に従い融資で応援してくれる傾向にあるようです。
投資効果はどの程度で発生するのか
先ほど述べたように、投資による売上や収益の増加の見通しは設備投資借入において非常に重要です。
しかし、一般的に投資の効果が出るまでには時間のかかるものです。
このため、投資の効果が投資からどのくらいの時間で発生するのかの見通しも重要です。
投資しても5年も10年も投資効果が出ないのであれば、設備投資借入の返済金に売上が追い付かず、資金ショートしてしまいます。
設備は将来へ投資を行なうため、融資する銀行から見ても、将来的にうまくいくかどうか、どの程度の時間で上手くいくようになるのかの見通しは非常に重要です。
「この投資はすぐに利益は生まないだろう」と銀行が判断すれば融資を断られたり、「もう少し社会情勢を見ながら再度申込を行いましょう」などというように断られることもあります。
設備資金の回収は可能か
そもそも設備資金の回収が可能かどうかの審査は最も重要です。
特に既存の設備が壊れてしまい、新しい設備を導入する必要がある場合には、売上は増加しないのに借入金の返済は増えることになってしまいます。
そのような際には、現在のキャッシュフローから返済に耐えうることができるかどうかが重要になります。
努力しても返済ができないような場合には、廃業も選択肢として入ります。
また、銀行が当該企業に多額に融資をしており、廃業となった場合には融資金を回収できなくなり、銀行が困るような場合には、銀行が一緒に経営再建に乗り出すような場合もあります。
※返済の元になる資金=返済財源(返済原資)について詳しく理解したい方は↓
運転資金と設備資金の返済財源 返済原資は営業キャッシュフロー?(運転資金と設備資金で異なる実態)
増加する運転資金はどの程度か
業務拡大のために設備投資を行う際、経営者の多くが「今後増える費用は返済金だけ」と安易に考えていることも少なくありません。
そのようなことはなく、実際には業務拡大によって、人件費や仕入れ、光熱費なども増加します。
このような増加運転資金はどのくらいで、投資効果が出るまでのランニングコストはどのくらいなのかもしっかりと審査を行い、返済が可能かどうかも審査の対象となります。
設備資金には時間がかかる
実際に設備資金が融資となるまでにはかなりの時間が必要になると考えておきましょう。
ここまで説明してきたように、審査そのものの観点も複数あり、しかも審査の大半が将来への予測ですので、銀行担当者が稟議を上げても「この計画じゃだめだ」と何度も上司や本部から差し戻しになることもあります。
また、何かを購入するための資金ですので、用意しなければならない書類も様々です。
融資まで早くて1か月、長い場合には2~3か月程度の時間がかかることもあると理解しておきましょう。
必要書類が多い
設備資金の融資には必要になる書類が膨大です。住民票、印鑑証明書、納税証明書などの公的な書類はもちろん必要になりますが、設備に関連した様々な資料が必要になります。
機械設備の見積書、パンフレット、市場価格と比較して適正かどうかを示すために同業他社の価格表などなどです。
不動産の場合には、登記簿謄本、建築の見積書、テナントが入居済のビルの場合には部屋ごとの入居状況を示す資料と、家賃の支払い状況などです。
特に、工場建設などの場合には、非常に多くの業者にお金を支払わなければなりません。土地は不動産業者へ、建物は建設業者、中の機械は機械メーカーや代理店へ、空調は空調関係の業者などです。
これらすべての業者の見積もりやパンフレットが必要になるため、書類集めだけでかなりの時間が必要になります。
また、先ほど述べたように、将来への予測が非常に重要ですので、予測の資金繰り表や、どの取引先へどのくらいの金額を販売するのかなどを説明する資料も必要になります。
金額が高額になることが多い
銀行は、会社の格付けを決定する際には「この会社へはいくらまで融資する」という限度額を設定しています。
※銀行の企業格付けと債務者区分と融資&金融検査マニュアルとは?
設備資金はこの金額をオーバーすることが多く、この金額をオーバーしてしまうと審査はより面倒になります。
本部稟議だけでなく、担当の役員や場合によっては頭取まで稟議を回覧する場合もあるため、金額が大きくなればなるほど審査は煩雑になり、時間がかかります。
※銀行融資の審査稟議書と融資課長 支店長決済 審査部の本店決済の違い
数年後まで審査を行う必要がある
設備資金の審査は将来の予測を行うのが最も時間がかかります。
15年の借入期間であれば極端な話15年先までの資金繰りの予測を立てなければなりません。実際にはそこまでの予測は不可能ですが、書類上は必要になることもあります。
この予測は希望的観測ではなく、1年後にはこの取引先の受注がどうなるなどと言った具体的な予測を立てなければならないため、業務拡大のための設備投資の資金を借りたい場合には担当者の段階で稟議書を作るのに非常に時間がかかります。
信用保証協会の保証がつく場合には保証協会の審査にも時間がかかります。
融資実行後も設備資金は面倒
晴れて融資を受けることができたとしても、設備資金は融資実行後も少々面倒です。運転資金のように「お金を借りたら終わり」ということはありません。
支払いはすべて銀行が管理
設備資金の支払いは基本的にすべて銀行が管理します。
融資金は設備資金融資用の銀行口座へすべてプールさせ、設備の支払期日が来たら銀行がその都度、その口座から業者へ振り込みを行っていきます。
つまり、基本的に設備資金の融資金に借主が触る機会がないようになっています。
設備資金は設備購入のためにしか使えない資金ですので、他の用途に使われないよう銀行が厳格に管理します。
領収書の提出が必要
支払いは銀行が行ないますが、支払人名義はあくまでも当該企業ですので、領収書は自社に届きます。
この領収書はすべて写しを銀行へ提出しなければなりません。
支払い先の数が多いと「この支払いの領収書が足りない」などと銀行から言われるため、こちらも非常に面倒です。
不動産は担保の設定が必要
不動産を購入する際には、その土地と建物に銀行の抵当権の設定を行なわなければなりません。
また、新築の場合には当該建物を登記する保存登記を行なわなければならず、保存登記完了後に建物に関して抵当権を設定します。こちらも融資実行後の手続きとなり、一連の手続きに長い場合には1か月以上の時間がかかりますし、費用も数十万円かかります。
銀行との初めての取引で設備資金借入は難しい
先ほど述べたように、設備資金はその企業のこれまでの営業の継続性という観点から、当該設備の導入に合理性があると考えられるからこそ融資に応じてくれるものです。
したがって、これまで全く取引がない銀行へ設備導入の申込を行っても、銀行からしてみれば何も知らない状況ですので、継続性がわかりません。2つ返事で融資案件の取り上げに応じてくれることはまずないと言ってよいでしょう。
どの銀行とも取引がない人は、まずは、取引先などに銀行を紹介してもらってからの方が話は早く進むでしょう。
また、初めて取引する企業に対しては、企業の内容そのものの審査を行い、取引を行なってよい企業なのか悪い企業なのかの審査を行うため、融資が実行されるまでにはさらに時間がかかると考えたほうがよいでしょう。
設備資金の金利
設備資金の金利はどのくらいになるのでしょうか?
基本的には運転資金よりも低めの金利が適用される場合が多いようです。
プロパー資金は格付けによって決定
保証協会の保証を付けないプロパー融資を受ける場合には、基本的に金利は格付けの範囲内の金利となります。業況がよい会社の金利は低いですが、業況が悪い会社の金利は高くなることが一般的です。
しかし、設備資金は経常的に必要になる融資ではなく、金額も高額となるため、格付けの範囲外の融資として取り扱われることが一般的で、別枠として審査を行い、金利を決定することがあります。
さらに高額に対して高金利を適用してしまった場合には、利息負担だけで会社の資金繰りを圧迫し、それは会社の経営のためにはなりません。
そのため、一般的には1.5%~3%程度の金利が適用されると考えたほうがよいでしょう。
制度資金・政策金融公庫は商品によって決まっている
地方自治体の制度資金融資や日本政策金融公庫から設備資金の借入を行う場合には、金利や融資限度額があらかじめ決まっています。
この金利はプロパー融資よりも低いことが一般的で、1%半ば~2%後半の金利が適用されることが多くなっています。
しかし、このようなパッケージ商品は融資限度額や融資条件や利用条件や借入期間が決まっています。
このため、金額が大きな設備投資では対応することができないことも多いため、そのような場合には、プロパー資金で対応するしかない場合もあります。
設備資金を運転資金に流用すると
設備資金は設備購入のためにしか使用することができないお金です。
このお金を設備購入以外の目的で使用してしまった場合にはどのようになってしまうのでしょうか?
基本的には流用不可能
基本的に、設備資金の融資金は専用の口座へプールして、銀行が支払いを管理します。
しかし、購入する設備が自動車1台などの少額の場合には、「あとから領収書だけくださいね」という対応を銀行がとることがあります。
基本的に設備購入以外には使用することができない設備資金ですが、やろうと思えば、運転資金などのほかの目的にも使用することができるケースも存在します。
もしも使ってしまうと大変なことに
もしも設備資金として融資を受けたお金を他のことに使用してしまった場合には、貸したお金を全額返済してくれという話になります。
このお金がない場合の対応はケースバイケースです。
具体的な対応として、運転資金として使用した分を新たに運転資金として融資を行い、そこから設備の支払いを行うなどの方法で帳尻を合わせるケースなどが考えられます。
しかしこれは偶然銀行が良心的な対応をしてくれただけで、最悪の場合には期限の利益喪失となり、一括返済ができない場合には、資産差し押さえなどの強制執行手続きがとられ、倒産や経営者の自己破産に追い込まれる可能性もないとは言えないため、設備資金は絶対に申込時に申告した支払い先への支払い以外へお金を使わないようにしてください。リスクが大きすぎます。
運転資金を設備投資に使うことは実際よくある
反対に、運転資金として融資したお金を設備購入に使用してしまうことは珍しくありません。
先ほど述べたように、設備資金は書類も審査も運転資金よりも非常に煩雑です。
一方、運転資金は、会社が堅調な会社であれば、会社経営上融資の必要がなくても「この会社なら○○万円までは融資できる」という企業も少なくありません。
そのような会社は、社長の自動車を買うからとか、格安の競売物件が出ているから、などという理由で適当に運転資金を借りてその中で必要なものを購入してしまうということは珍しくありません。
運転資金は今後数か月にわたる会社の運転資金ですし、会社に利益が出ていても、その利益分をストックして運転分は借入で賄うなどということもあります。つまり融資を受けた後のお金の行方は会社の自由です。そのため、設備資金のようにお金の流れを追いません。
また、融資ノルマに追われる銀行員は、業況が良好な会社へ営業をかけて「○○万円借りてください。何かに使ってください」などと営業するのは日常茶飯事です。
ある意味、何に使っても実質的には自由な資金ですので、運転資金を設備資金に回すということはよくあることです。
設備資金審査を有利に進めるには
設備資金の審査を有利に進めていくためには申込時から以下の3点に注意を払う必要があります。
投資に合理性があることを説明する
先ほど述べたように、設備投資によってどの程度の売上上昇や利益上昇が望めるのかを根拠を示して説明する必要があります。
根拠と数字を経営者が把握しているということは、設備導入の動機に信ぴょう性を加えることになり、銀行への印象はプラスになります。
やりたいからは不可
この事業をやりたいから、この設備が欲しいからという理由が通用するのは、よほど本業によって利益が出ている会社だけで、普通の会社がそのような曖昧な動機で審査に申し込んでも相手にされません。
業務拡大や新規事業の際には、創業時と同じようなしっかりとした事業計画書を提出して事業の妥当性を銀行から理解してもらう必要があります。
また、全くの新規事業を始める際には、合理的な事業計画書も必要ですが、その新規事業にかける熱意なども意外と審査には重要になりますので、想いはしっかりと伝えるようにしましょう。
設備資金こそ将来の資金繰り表が重要になる
設備導入後には「売上」「経費」「借入金返済」が現在の状況とは異なるはずです。
導入後にどのように上記指標が変化し、資金繰りはどのようになる見込みなのかを少なくとも導入後3年間程度の計画を立てるようにしましょう。
一般的に、設備を導入してから、最低でも1年間は投資効果が表れないものです。そのため、最初の1年間は売上の上昇がなくてもやむを得ないといえますが、その際には、1年間の元金据置期間を作るなどの計画もあらかじめ作っておいたほうが、銀行員の印象はよくなります。
よい銀行員悪い銀行員の見極め方
設備資金は高額の融資ですので、銀行員から見るとノルマをこなすために非常においしい案件です。
このため、バブル崩壊以前には、必要もない設備を銀行が企業に導入させて高額の借入を負わせて、その後、倒産に追い込まれるという事例が数多くありました。
こういった観点から、設備資金を銀行からすすめられて借りる時には注意が必要です。
よい銀行員
よい銀行員は企業へ足しげく通い、経営者と日常的にコミュニケーションをとり、会社の小さな変化にも気づく人です。
そのような人は、会社の設備が老朽化して、作業効率が悪くなっているなどのことが目につきます。
そのような人から「社長、そろそろ設備を新しくしませんか?」と提案があった場合には、たいてい社長の考えていることと同じであるため、信用して構いせん。
悪い銀行員
悪い銀行員とは、自分のノルマのことしか考えていない銀行員です。
そのような人は用事があるときにしか会社へは顔を出さず、融資ノルマに困ったときだけ「設備を新しくする予定などはないですか?」など尋ねてきます。
普段から、会社へ顔を出していないため会社の現状を把握できておらず、疑問形の提案しかできないのです。
また、社長個人と個人的に親しくなり、お願い形式で融資の提案をしてくる銀行員も存在しますが、この場合にも要注意です。
銀行から言われようと、責任を取るのはすべて経営者です。
人に頼まれてお金を借りて、あとで投資に失敗しても、その担当者はたいてい転勤してしまっているので、個人的な情で投資を判断するのもやめたほうがよいでしょう。
自社の潜在的なニーズを引き出してくれる良い銀行員と付き合うようにしましょう。
まとめ
設備資金は借入額が高額になるため、審査には時間もかかります。また、その設備投資に合理性がないと融資を受けるのは難しくなります。
このため、申込時に設備導入後の売上の計画、資金繰りの計画をできる限り詳細に銀行に説明できるようにする必要があります。
これまでの業務からの継続性が審査の際には重要になるため、できれば取引のある銀行へ申込を行ったほうがよいでしょう。
また、設備資金の審査には時間がかかるため、融資を受けたい時期の半年程度前には銀行へ相談に行ったほうがよいでしょう。
設備資金は融資実行前も融資実行後も銀行に提出する書類は膨大ですので、面倒ですが、しっかりと対応する必要があります。
そして、間違っても設備資金として融資を受けたお金を、他の目的に使用することがないようにしてください。
設備投資は企業にとっては成功すれば大きいですが、失敗すれ倒産の可能性もある行為です。実際に、本業で儲かっている会社が別業種に投資を行い、失敗して倒産に至ったという事例は数多くあります。
銀行員から設備投資の持ちかけをしてくることは、儲かっている会社ほど多いのですが、設備投資の決定は自己責任かつ合理的な根拠をもとに行いましょう。