つなぎ資金とは、数日後、数か月後などの決まった期日までにお金が入金となるまでに、その期間だけ必要になる資金のことです。
銀行ではもちろんつなぎ資金の融資に応じていますが、つなぎ資金の審査にポイントや申込方法はどのようなものでしょうか?
この記事では銀行のつなぎ資金の審査のポイントと、申込時の注意点などについて説明していきます。
目次
様々なつなぎ資金
つなぎ資金とは、確定している入金があるまでに、必要な運転資金を借りることを示します。
売上高1,000万円の仕事に500万円の経費がかかるのであれば、手元に500万円がない限りは、この仕事を実行することができません。
このため、売上1,000万円が入金となるまでに、必要な運転資金500万円を融資するのがつなぎ資金です。
つなぎ資金にはさまざまな用途があります。
建設業のつなぎ資金
最もつなぎ資金を利用する場面が多いのが建設業です。
建設業は、工事完了後に売上金がすべて入金となるため、工事前と工事中には手元に資金がないと、人件費や重機の費用などを支払うことが出来ません。
このため、工事契約から工事完成までの期間の資金をつなぎ資金として融資することになります。
不動産業のつなぎ資金
不動産のディベロッパーなどは最初に土地を買収し、その後開発を行い、開発した土地を売却する業種です。
売上が確定しているわけではありませんので、つなぎ資金とは少し性格が異なりますが、開発した土地が売却できる見込みの期日まで、土地の仕入れ代金を短期資金で融資することがあります。
しかし、実際に販売ができるかどうかは不透明ですので、ある程度の信用できる業者でないと、融資を受けることは難しいといえるかもしれません。
経常運転資金もつなぎ資金的に融資が行われる場合も
製造業などの継続的に仕事を受注している業者でも運転資金の融資は必要です。
通常、売上の入金よりも支払いのタイミングのほうが早くなるため、売上が入金となるまでは、必要な運転資金を手元に持っておく必要があるのです。
ざっくりとした経常運転資金は以下の式で算出できます。
経常運転資金=売上債権+棚卸資産-買入債務
ここから算出された現金を手元に持っていないと、会社は営業ができないことになります。
通常は、長期運転資金で経常運転資金を融資しますが、理想は、建設業のつなぎ資金のように、売上債権が入金となるまでの短期で融資を受けて、売上債権の入金とともに返済、その後また短期で借入を行うというサイクルが理想的とされています。
その後、利益を出せれば会社の内部留保が充実し、借入を行う必要がなくなるというロジックです。
このように、経常運転資金を売上債権が入金となるまでの短期で借りるという方法もありますが、実際にはほとんどケースで経常運転資金は長期資金で融資されています。
銀行への申込方法
つなぎ資金にはさまざまな活用場面がありますが、銀行に申し込む際には最低限以下の3つのポイントは明確にしておかないと融資を受けることができなくなります。
どのような理由でつなぎ資金が必要なのか
つなぎ資金がなぜ必要になるのかという説明がまず重要です。
インターネット上によくある情報として
「短期資金のほうが金利が低い」
「短期資金のほうが審査が甘い」
などと散見されますが、このような事実はありませんので、このような安易な理由で申し込むのは厳禁です。
なぜ、短期間だけ資金が必要になるのかを説明できなければなりません。
契約済みの工事の運転資金、売掛金が入金となるまでのつなぎなどの、つなぎの資金が必要になる理由を明確に説明することが重要です。
必要金額はいくらなのか
必要な資金も根拠を示して説明できるようにしておきましょう。
工事代金のつなぎであれば、工事代金の原価計算を行った書類を持参する必要があります。
また、経常運転資金が必要であれば、現在の売掛金や棚卸資産や買掛金の残高が分かる試算表を持参する必要があります。
返済が一括になるつなぎ資金では、不要なお金は絶対に融資しません。
不要なお金を融資すると、一括で返済できないリスクが高くなるためです。
このため、いくら必要になるのかの根拠を詳細に示す書類とともに相談へいくことをお勧めします。
期日に入金となる根拠はあるのか
短期資金は借入を行う期間が短いため利息負担額は長期資金よりも少なくなります。
しかし、返済は一括で行われるため、確実に返済できるという案件でないと銀行のリスクは、毎月分割で返済する長期資金よりも高くなってしまうのです。
そのため近年は短期資金で対応できる経常運転資金でも長期資金で対応しているといえます。
期日の入金に問題がないという根拠を銀行に提出する必要があります。
具体的には、工事の発注先との契約書などです。
この際、公共事業であれば入金は間違いないため融資を受けやすくなります。
また、経常運転資金を借りるのであれば、売掛金の内訳を示し、長期間未入金で不良債権化している売掛金はないかなども重要です。
このように、つなぎ資金は、つなぎ資金が必要な理由、必要な金額、入金となる根拠の3つを銀行との相談の際に明確にする必要があります。
つなぎ資金の審査
それではつなぎ資金の審査はどのような視点で行われるのでしょうか?
短期資金であるつなぎ資金は、自社の業況や今後の見通しが主な審査基準となる長期資金の審査とは大きく異なり、具体的には以下の3つの点で審査の特徴があります。
取引先の安全性
つなぎ資金とは、工事代金や売掛金が入金となるまでの短期間の運転資金の融資を行うものです。
したがって、工事の発注先や、売掛先が本当にお金を支払う企業かどうかが重要になります。
取引先が工事代金や売掛金の入金してくれなかったら、手形貸付の期日となったときに返済ができないためです。
このため、工事の発注先が地方自治体や大手ゼネコンであれば、入金がほぼ確実であるため審査には通過しやすくなります。
また、地元で「倒産するかもしれない」などと噂が立っている企業の工事のつなぎ資金などは融資を受けるのが難しくなってしまいます。
どこからの入金をつなぐために必要な資金なのかという点が審査の際に重視されるのが、つなぎ資金審査が他の審査と異なる点です。
当該企業の安全性
つなぎ資金とは、後日入金になってくるまでの資金が資金化するまでの短期間の運転資金を融資するものなので、一見して借入を申し込む企業の安全性はそれほど審査されないと思いがちです。
実際に、売上債権を売却するファクタリングなどは売掛先の信用が重視され、自社の信用はそれほど重視されません。
しかし、つなぎ資金の審査は申込企業の内容もしっかりと審査されます。
つなぎ資金を融資してから、入金となる間に企業が倒産してしまう可能性もあります。
また、倒産間近の企業は、倒産することが分かっていて、倒産する前に融資を受け、お金を手に入れたら倒産してしまう計画倒産をするということも考えられますし、実際にこのような事例はよくあります。
つなぎ資金というのは、短期間の融資だからこそ、銀行も売掛先や工事などの発注元の信頼で簡単に融資してしまうということが、バブル崩壊前はよくありました。
融資を受けた直後に計画的に倒産してしまうようなことがないように、最近は、つなぎ資金でも申込企業の審査もしっかりと行っています。
債務超過で倒産寸前の企業はつなぎ資金の融資を受けることは難しいでしょう。
事業の収益性
工事代金のつなぎの融資を受ける場合には、その事業(工事)そのものの収益性がどのようになっているのかも審査の際には重要です。
要するに「儲かる仕事をやっているのかどうか」ということです。
倒産間近の企業の行動パターンとして、非常に安い値段で公共工事を落札し、利益度外視で資金繰りのためだけに仕事をしているというケースがあります。
以前筆者が勤務していた銀行の取引先建設業者は、かなり低い落札率で工事の受注を繰り返しており、結果として、公立学校の改修工事中に倒産してしまったということがありました。
工事の引き当て資金を融資していましたが、そのお金は貸し倒れてしまったということがありました。
このような事例があるため、つなぎ資金を融資する際には、しっかりと適正な利益率で仕事を受注しているかどうかという点も審査の際に重視されます。
恒常的に利用する場合には極度枠の作成を
恒常的につなぎ資金を銀行から借りている場合には、その都度審査を受けるのが面倒です。そのため、銀行に極度枠という枠を作成しておいた方が、急な資金繰りにも対応することが出来ます。
極度枠とは、限度額の範囲内でほぼ審査なしに銀行から借入を行うことができるという枠です。
つなぎ資金は極度内手形貸付
つなぎ資金は短期的にお金が必要になるため、手形貸付で融資が行われます。
このため、つなぎ資金の極度枠を作りたいのであれ手形貸付の極度枠を作成し、極度内で手形貸付を受けることになります。
ただし、融資取引のない銀行にいきなり極度枠を作成してくれといってもほぼ不可能です。
何回かつなぎ資金の融資を受けておき「面倒だから極度枠を作成したい」と申し出ることがよいでしょう。
また、業況の良い会社には「極度枠を作りませんか?」と銀行から申し出てくることもあります。
その都度審査が不要
極度枠は融資の都度審査を受ける必要がありませんし、印鑑証明書や商業登記簿謄本などの公的証明書を用意する必要もありません。
枠の範囲内で印鑑と手形だけで簡単に融資を受けることが出来ます。
極度枠を作成しておけば、「この仕事を受けても銀行は融資してくれるだろうか?」と心配する必要もありません。
極度枠の審査
銀行に極度枠の審査は比較的厳しいといえます。
極度枠を作ってしまえば、つなぎ資金に利用するためでも、わざわざ工事の契約書や売掛金の明細などは必要ありません。
その都度つなぎ資金の融資を受ける場合には、取引先の信用も審査材料とされますが、極度枠は自社に対する信用のみで作成する枠であるためです。
そのため、銀行にとって以下の信用を得ている必要があります。
〇取引先から仮に入金がなくても極度額の回収には問題がないと判断できる
〇入金に間違いない、優良企業との取引が多い
〇急に倒産する心配はなく、財務的にも健全である
これらの信用を銀行から得られた場合には極度枠の作成に応じてもらえる可能性があります。
また、必要もない金額を融資することはありませんので、年間の平均手形貸付残高程度の金額までしか極度枠の作成はできないでしょう。
まとめ
つなぎ資金は確定している売上が入金となるまでの短期間の運転資金をつなぐための融資です。
このため、工事の発注先や、売掛先の信用が重視されます。
銀行へ申し込む際には、何のためにいくら必要で、どのくらいの期間必要なのかをしっかりと資料をつけて説明するようにしましょう。
また、取引先の信用だけでなく、自社の信用も重視されます。
繰り返しつなぎ資金を利用するという企業は、極度枠の作成を銀行へ依頼するのもよいでしょう。