目次
1.条件変更交渉とはどのようなものか
まず「条件変更」とはどのようなものなのでしょうか。
「条件変更」とは、本来、現在契約している融資について、その契約時に定めた融資条件(返済期間・金利・返済方法・保証人・その他融資に対する諸条件)を、後から変更することを指します。
ただ、最近では、「条件変更」とは、「企業業績に変調をきたしたときに、融資金の返済金額負担を金融機関と交渉して軽減してもらうこと」を指すことが多いです (以下、文中では「条件変更」とは、このことを指します)。
条件変更は、従前から金融機関と借入している企業の合意によって実施されていましたが、平成21年12月から平成25年3月まで適用されていた「中小企業金融円滑化法」によって広く一般化して、取扱件数も大幅に増えました。
現在は「中小企業金融円滑化法」は失効していますが、金融機関は現在もこの法律の精神に則って借入している企業へ対応することを金融庁から求められており、実質的にこの法律による対応は継続しています。
では具体的に、条件変更の交渉とは、実際にどのような対応をしてもらうことを交渉するのでしょうか。
実務上では様々な対応方法がありますが、原則としては主として以下のような選択肢を、その企業の置かれた状況に応じて単独もしくは複数組み合わせて、各金融機関内部での判断基準の範囲内で、その企業が返済履行できる条件を設定してもらうように交渉することとなります。
①融資の借換・一本化
現在利用中の融資を借換・一本化して期間を長期化することで、毎月の返済額を軽減する方法です。運転資金の折り返し融資など、新規資金の調達と同時に行うことが多いです。
他の金融機関からの借換を含む場合には、金利引き下げによる負担軽減を伴うこともあります。
プロパー融資・保証協会付融資を問わず利用できる手法で、後述する借換保証制度もこの方法に含まれます。
比較的経営体力があり、まだ前向きな対応を取ることが出来ると金融機関側が判断した企業に対して行われる手法で、取引拡大のために金融機関側から提案することも多いです。
②最終期限の延期
資金使途に対して借入期間を短めに設定していた場合に、借入期間を長期化することで毎月の返済額軽減を図る方法です。
一般的に、借入期間は、運転資金は5~7年程度、設備資金であれば5年~25年程度(その設備の経済的耐用年数によります)を上限として設定することが出来ます。
当初は業績好調であったため、借入条件を良くする等の為に借入期間を短く設定していた場合に、返済期間を当初の基準で適正と考えられた年数まで延長するという形で行われます。
このような方法は、資金使途との関係で最終期限を延期する方法が比較的容認しやすく、①の対応によることが取りにくい状況の時に利用することが多いです。
条件変更対応とはなりますが、金融機関内では、借入期間を適正化するというニュアンスで捉えられるため、取引上のマイナス要素は③以降に比べれば少ないです。
③返済額の軽減・元金返済の猶予
借入期間・借入金利とは無関係に毎月の返済額を設定し、自社が履行可能な返済条件としてもらう方法です。自社が履行可能な支払金額をもとに元金+利息の額を設定しますが、場合によっては元金返済を猶予してもらい、利息だけ支払う条件とすることもあります。
借入期間などに関係なく返済金額を設定するため、通常は毎月の返済だけでは完済できず、残額を最終期限一括返済(テールヘビーといいます)とするか、一定期間のみ返済金額を低減し、その後増額して返済する条件とするか、いずれかの対応となります。
毎月の返済だけでは借入期間中に融資が完済できないため、原則今後の返済計画(中期経営計や資金調達・返済計画)を立案することが求められます。また、計画の進捗状況確認と返済金額の定期的な交渉のため、通常は一定期間(半年~1年間程度)で、定期的な条件変更交渉を行うことが必要となります。
金融機関間での条件のすり合わせが重要であり、取引金融機関が多い等の理由で調整が難しい場合には、各地にある中小企業再生支援協議会に依頼して調整を行うこともあります。
返済引当条件を付けた短期資金の返済方法の変更も、この対応の一環と言えます。
④金利の引き下げ
借入金の残高に対して業績が厳しく、①~③の対応だけでは十分な対応が出来ない場合に利用する方法で、通常は他の手段と併用します。
金融機関の売上である金利収入を減額して支援する方法のため、金融機関側が積極的に支援する姿勢がある場合のみ利用できる方法で、③の場合よりも踏み込んだ抜本的な返済計画を求められることが多いです。
2.借換保証制度って何?
信用保証協会の保証制度の中で、資金繰りを円滑化することを目的として、既に借り入れしている保証付き融資を借換・一本化することにより、返済額を軽減するための保証制度です。借入期間10年(うち元金据置1年間利用可)とできるほか、借り換えと同時に、追加資金の上乗せができる場合もあります。
この制度を利用する場合には、借り換えによる負担軽減額と業績改善に向けた今後の対応策、今期見込みと向こう2年の計画上の業績内容についてまとめた事業計画書を提出する必要があります。
その際、セーフティーネット保証(100%保証)と一般保証(80%保証)は区別して取り扱う必要があり、特にセーフティーネット保証を一般保証で借り換えできないことには注意が必要です。
また、平成28年3月より、既に条件変更を行っている保証協会保証付融資について借り換えによる正常化を行い、新規資金調達がしやすい環境を作ることを目的とした、「条件変更改善型借換保証制度」が創設されています。
認定支援機関と一緒に、状況説明書・事業計画書を作ることを条件にして、借入期間15年(うち元金据置1年間利用可)とできるほか、この資金を利用する場合にも、同時に追加資金の上乗せができる場合もあります。
3.条件変更交渉を行う時のポイント
条件変更交渉は各金融機関と企業の同意をもって成立しますが、前提として、大事なことが二つあります。
まずは、一つ目は原則全取引金融機関が条件変更の条件に合意する必要があることです。
金融機関側にとっては、よほどの大企業でない限り、1社に対する条件変更交渉が金融機関経営の根幹を揺るがすことはありません。そのため、条件変更交渉には是々非々の姿勢で臨むのですが、基本的にはどの金融機関も公平な負担をすることを求めてきます。
基本的には貸出シェアの按分で負担する交渉となりますが、メインバンク・預金等も含めた今までの取引内容・担保の取得状況などにより負担割合が変わるケースも多いです。
ただし、前出の①融資の借換・一本化対応による返済の軽減の場合には、対応する金融機関との交渉だけで実行できることもあります。
もう一つは、金融庁の検査に耐えられる形式を整える必要があることです。
条件変更を行った債権については、その内容によっては、金融庁の検査において不良債権として位置づけられると、金融機関側が予想していない多額の損失を計上する必要に迫られるからです。
以上のことから、自社の状況も踏まえたうえで、金融機関側が対応しやすい内容を整備してあげることが必要なのですが、住宅ローンなどの定型化された融資商品とは異なり、判断基準・判断ポイントについても、各金融機関・担当者毎に考え方が違うことがよくあるため、条件面をすり合わせていく段階では注意が必要です。
その中でも、条件を判断していく際のポイントにはある程度共通事項があります。その内容と判断基準を、以下に紹介します。
①自社の返済能力はどの程度あるか
前提として、現在の業績でどのくらいの返済能力があるか、は金融機関側が真っ先に確認する事項です。この場合の返済能力は、一般的には狭義のキャッシュフロー(「税引後当期利益+減価償却費等の資金流出を伴わない支出額」で算出する。以下、キャッシュフローという)となりますが、事業継続のために一定の再投資が必要な業種では、キャッシュフローから必要投資額を引いたものが、返済能力と認識されます。
直近決算では赤字でキャッシュフローがマイナスという場合には特殊要因控除後で判断したり、改善計画を策定する場合には計画上のキャッシュフローで判断したりします。
ある程度の返済能力が期待できる、ということが条件変更交渉の前提となります。
②自社の返済能力と、実際の元金返済額を比較する。
①で算出した返済能力について、実現可能性を検証するとともに、その返済能力に対して、実際の返済額がどの程度あるかを検討します。
通常、条件変更が必要な企業の場合には、現在の返済額が理論上の返済能力を大幅に上回っていることが多いです。
③「当面の返済額」を決定する
②の検討結果に基づいて、条件変更をする「当面の返済額」を決定します。
①で判定したキャッシュフローの範囲を一つの基準として、企業が存続できる合理的な条件を設定するのですが、ここで設定する金額は多すぎても少なすぎてもだめです。
金融機関側としては、返済が履行できず再度条件変更するような事態は絶対に避けたい一方で、企業側に過剰な資金が滞留し結果的に回収額が減少することも避けたいからです。
自社の状況や今後の見通し、金融機関側からの要請も踏まえて、適正な金額を設定する必要があります。
経営内容が極めて厳しい場合には、「当面は元金は返済しない」という方法も選択できますが、あくまでも一時的な対応となります。
④返済計画を立案する
当面の返済額が決定すると、その条件で融資が完済できるかどうか、が決まってきます。
条件変更後の内容で融資が完済できる場合には問題ありませんが、完済できない場合には、残りの融資について、どのように返済するか、計画を立てる必要があります。
その場合の返済計画には、大きく分けて二つあります。
まずは、自社の収益を改善させて、その収益で支払う方法です。この場合には、改善計画を立案して金融機関に提示する必要があります。その後、提出した計画に基づいて、進捗状況のモニタリングが行われますので、現実的な計画を立てる必要があります。
もう一つは、余剰資産の整理による返済資金の捻出です。もっとも代表的なものは、会社もしくは経営陣所有の遊休不動産の売却ですが、それ以外にも、事業用に利用している不動産の売却、在庫の圧縮、有価証券・自動車・船舶の売却、経営陣の自宅売却など、色々な方法があります。
実際には、この二つを組み合わせて、実現可能性の高い抜本的な計画(実抜計画)を立案することが多いです。
このような条件に留意しながら、各金融機関の融資条件やスタンスを加味して、全金融機関が同意できる条件を考えていきます。実際には、メインバンクとなる金融機関と十分打ち合わせしてから、各金融機関に条件変更交渉をしていくことが必要です。
4.条件変更交渉を行うタイミング
上記では、条件変更交渉におけるポイントを整理してみましたが、実際にどのようなタイミングで条件変更交渉を行うのが良いのでしょうか。
原則としては、まだ経営状況に余裕のあるタイミングで、1~2年後を踏まえて相談することが一番です。このようなタイミングで相談すると、既存金融機関から前向きな対応を引き出せることがあるほか、他の金融機関からも有利な条件を引き出せる可能性もあります。
ただ、現実にはそんなに早くから手が打てるケースは少ないため、その時の自社の状況に応じて、適切なタイミング・方法で取り組む必要がありますので、いくつかの状況を以下に例示してみます。
①資金不足に陥る寸前のとき
この場合には、一刻も早く相談して、返済をストップする必要があります。なぜなら、借入金の返済を履行した後に、それを取り消して資金を返してもらうことは出来ないからです。そのため、すぐにでも返済を据え置きもしくは減額することを交渉し、了解を取る必要があります。
ただし、金融機関側でも、条件の策定や本部への稟議申請が必要なため、すぐには結論が出ません。条件変更交渉が完了しないうちに返済用口座に売上代金が振込されると、その売上代金を使用できない可能性もあるため、とにかく早く交渉し、手元の資金が最大化する形を取ることが必要です。
②今期の決算が大幅に悪化するとき
決算が確定する前に、今期の業績見込みと、来期以降の改善策をある程度準備した上で、早めに相談しましょう。決算期よりも前倒しであるほど望ましいです。なぜなら、確定した決算が出来る前なら、担当者との交渉次第で対応の幅が広がるからです。
確定した決算が出たり、決算直前だったりすると、その決算内容を前提としての交渉となるため、金融機関側の対応の幅も限定されます。一方で、決算期まで時間があると、あくまでも今後の業績見込みとしてとらえられるため、今後の対応策をセットにして説明することで今後の業績に対してある程度の楽観的な印象を与えることができれば、比較的前向きな対応を引き出せる可能性もあります。
③現状で推移すると、数か月~1年後に資金繰りが厳しいと見込まれるとき
現状と今後を保守的に分析して年間の資金繰り計画を立てた上で、資金に一番余剰がでるタイミングで金融機関側の了解が取れるようなスケジュール感で交渉するのが良いでしょう。
なぜなら、一度返済額の軽減などの条件変更(先述の1.③返済額の軽減・元金返済猶予~④金利引き下げの事を指します)を行うと、正常化を図るまでは、新しい資金調達が極めて困難となるからです。
これは、新しく調達を希望する資金使途が極めて合理的で企業の収益性をプラスにするような案件でも同様です。つまり、金融機関側が条件変更交渉をするときには、「正常化するまで今後の資金需要は自己資金で対応してほしいので、それが出来るような返済計画を考えてください」というスタンスで交渉に臨んでいるのです。
そのため、企業側としては、出来るだけ手元の資金が厚いタイミングをえらび、将来の資金繰りに備える必要があるのです。
ただし、最近では、前述の借換保証のように、一時の業績悪化から立ち直って業績が回復した企業に対しては、前述の借換保証制度のように既存の条件変更した借入を借り換える形でリセットして、新規の資金調達をしやすくする方向で対応するケースもあります。
5.条件変更交渉において、もっとも重視すべきこと
実際の交渉にあたって、最も重視するべきなのは、自社のことをよく理解してくれている金融機関を作り、その金融機関との交渉を軸にして取引金融機関全体との交渉をまとめることです。
この時の金融機関は、必ずしもメインバンクとは限りません。サブ以下の金融機関が、改善計画を一緒に立案したり、中小企業再生支援協議会を利用して支援したりすることで、金融機関全体の同意を得るようなケースもあります。
このような対応をしてくれるのは、経営者の人柄や自社の将来について強く共感してくれる金融機関です。そのような取引金融機関を作るためには、日ごろから、金融機関とのコミュニケーションを厚くしておく必要があるのです。