その内容について、以下で説明していきます。
目次
事業資金の審査ポイント
①資金使途
資金使途は、その借入の正当性を検討するという点で意外と重要な審査ポイントです。
a.資金使途の納得性
まずは、審査をするうえでの前提条件として、その借入金の資金使途が企業にとってどんな効果をもたらすかを検討します。
企業に何らかの変革をもたらす資金(企業体としてより成長を目指すための資金、効率化による収益向上のための資金、現実に発生している問題点を改善する資金) 等であることが理想的ではありますが、実際には企業運営の現状維持を目的とした資金であることが多いです。
その上で具体的な資金使途(運転資金・設備資金)について、業種やビジネスモデル上、資金の必要性として妥当なものであるかを検討します。
このように、借入金の資金使途がその企業の実態に合致したものか、前向きな資金であるかなどについて、信用金庫側から見たときの納得性が求められます。
その際、マネーロンダリングや反社会的勢力の関与などの非合法な取引がないか、経営陣・従業員の個人的なものでないか、なども同時にチェックしています。
b.金額の妥当性
資金使途の納得性が得られたら、次は金額の妥当性についての検討となります。
金額の妥当性は、購入価格・見込額が世間相場と合っているか、必要額が企業の事業規模から見て妥当か、という着眼点で審査します。
その際、契約書・見積書などの客観的な資料を踏まえて検討することが多く、場合によっては公的な統計や業種別審査辞典等の書籍の情報と照合することや、過去の融資案件の中での情報と比較することなどにより、総合的に判断します。
c.使用した内容の客観性
納得性と金額の妥当性が検証できれば、最終的な資金使途の確認が取れるかを検討します。特に設備資金や用途が明確な資金の場合は、その確認を書面や現地確認で行うことが一般的です。
また、融資金の資金の動きを確認(資金トレースと言います)し、利用状況を確認するとともに、支払先の企業との取引開拓に活かすこともあります。
以上のほか、具体的な資金使途によって、さらに詳しく検討するポイントがあります。そのうち運転資金についての検討ポイントは後述します。
②返済能力
資金使途の面で問題がなければ、次に返済能力を検討します。返済能力を検討する際のポイントは以下の通りです。
a.現在の経営状況
まずは、その企業の現在の経営状況について、定量的に検討します。その時の基本になるのは、その企業の決算数字になります。
通常3年程度の決算内容を比較して、特に安定性(財務内容は安定しているか)・収益性(収益は十分に出ているか)・成長性(企業として成長しているか)に着目して検討します。
返済能力を検討する際に、特に重視して見るのは、キャッシュフローです。
キャッシュフローには広義のキャッシュフロー(企業の資金繰り全般を指します)と、狭義のキャッシュフロー(毎期の損益から得られる実質的な収益)があり、特に金融機関が与信判断上で重視するのは後者です(以後、文中では「キャッシュフロー」とは狭義のキャッシュフローを指します)。
キャッシュフローは、「税引後当期利益+資金が流出しない費用(減価償却費、繰延資産償却費)」により算出します。その期の損益計算書上で特殊要因がある場合は、その特殊要因を控除して算出することもあります。
このように算出した数字は、1年間の損益計算において実際に現金を獲得する能力を金額で表す指標であるため、借入金の返済能力を示すものとして重視されるのです。
b.今後の経営への影響の把握
基本的な財務内容を把握した上で、次に今回の借入金による経営施策が財務上にどのような影響を与えるかを検討します。
具体的には、申込時点でその企業から、今後の企業経営に与える財務上の影響を定量的にヒアリングします。
大幅な影響を与えるようなケースでは、企業側に、中期的な経営計画書(計画期間3-5年程度)を提出してもらうことが多いです。
特に大きな経営内容に変更がない場合には、信用金庫側がその企業へのヒアリングに基づいて数値を修正します。
その際、経営計画の基本となる数字(売上計画や経費計画)については、個別にその数字を算定した根拠などを確認します。
この時、計画数値の根拠づけは出来るだけ堅実なものを利用したほうが、信用金庫に対する受けは良くなります。信用金庫に限らず金融機関は一般的にリスク要因を嫌うため、将来計画を固く見積もる傾向があるからです。
そのようにして、借入期間中における毎年のキャッシュフローを確定させます。
c.返済可能性の検討
b.で算出したキャッシュフローに対して、実際の返済額が十分にあるかを検討します。
借入金の返済は、基本的にはその企業の収益から毎回の返済ができることが前提となります。
そのため、金融機関側が最も理想的としているのは、収益から得られる理論的な返済能力が、毎月の必要返済金額を上回っていることです。
ただし、すべての企業がそのような返済能力があるわけではありません。その場合には、また別の判断基準で返済能力の有無を判定します。
例えば、借り入れのうち運転資金はある程度反復利用することを前提として設備資金はキャッシュフローで返済できることや、年間のキャッシュフローですべての借入金が一定の年数(だいたい10~15年程度)で返済可能であることをもって、返済能力があると判断することもあります。
③保全
資金使途・返済能力面で取り組み可能な案件について、保全面について検討します。
「保全」とは、融資を実行した後にその企業に業績悪化や万が一の事態が発生した時に、融資金の回収可能性を高め、金融機関側の損失を軽減させるための手段(担保など)のことを言います。
そのため、まずはその企業に対する融資に保全が必要か、というところから検討します。
なぜなら、財務内容が抜群に優れている企業には、そもそも「保全」の目的である、融資金が返済できないという状況が発生しないからです。また、財務内容がそこそこでも、返済計画に失敗の可能性がないと判断した場合にも、「保全」は不要であると位置付けることがあります。
保全が必要と判断した場合には、具体的な手段を検討し、企業と交渉します。
最も一般的な保全方法は信用保証協会付保融資で取り組むことや、不動産に抵当権を設定すること等があります。その他、株式や預金、その他の金銭債権に質権を設定することもあります。
最近では、売掛債権や動産・在庫品を担保にするABL(動産・債権担保融資Asset Based Lending)なども注目を浴びており、取り組みも進んできてはいますが、まだ一般的な手法ではありません。
また、有力な資産背景を持つ人を連帯保証人とすることも有力な保全方法の1つですが、「経営者保証に関するガイドライン」などの積極的な利用が求められている社会背景などから、最近は利用することが少なくなっています。
運転資金の審査ポイント
先程までは事業資金全般に共通する審査ポイントを整理してみました。さらに、各資金使途によって、個別に検討するポイントがあります。
ここでは、利用することの多い「運転資金」についての審査ポイントを整理してみます。
そもそも「運転資金」という言葉はよく聞きますが、厳密にはどのような資金のことを指すのでしょうか。
事業の収支を現金の出入りで見た時には、売上があがると現金が手元に入ってくる一方で、売上を作るのに必要な仕入・経費の支払いとして手元から現金が出ていき、差額の利益分が現金として手元に残ることになります。
ただし、実際にはそのようにはいかず、売上金を回収するタイミングと仕入代金や経費を支払うタイミングがずれていて支払いの方が先行する場合には、手元に現金がないと事業が継続できません。そのギャップをうめるために必要になるのが、「運転資金」となります。
そのような性質を踏まえて、金融機関が運転資金の審査ポイントとして検証しているのは、以下の点になります。
①運転資金の必要性
上記で説明した通り、「運転資金」とは、ビジネスモデル上発生する収支のギャップから発生するものです。そのため、運転資金の必要性を定量的に説明するためには、見積書などではなく、理論的にどの程度必要となるのかを計算上で算出しています。
その計算をするために、「経常運転資金」という考え方があります。これは決算書上に計上されている売掛債権(受取手形・売掛金等)の金額から、買掛債務(支払手形・買掛金・未払費用)を引いたもので、決算書上から算出される静的な運転資金の理論額となります。
さらに、それに加え、売上回収期間と買掛支払期間から想定される概算額や売上の季節変動、大口受注によるスポット資金、事業計画に基づく増収による運転資金の必要性などを様々に勘案し、運転資金としての必要性について検討します。
実際には、理論的には運転資金が不要なケースでも今までの資金調達の結果として運転資金のニーズが発生することは当たり前に発生するので、金融機関側でも色々な理由をつけて取り組み出来るように検討はしますが、あまりに理論値と乖離していると、決算書が実態を表していないのではないか、赤字補填資金ではないかと疑われることもあるので、運転資金として必要となる理由は十分に説明する必要があります。
②返済方法
運転資金の返済方法は、その必要性に応じて、基本的な返済方法が決まってきます。
大口受注によるスポット資金であればその大口売上の回収時期による一括返済、売上の季節変動による資金需要であれば資金回収時期での一括返済、回収期間の差によるものや経常運転資金として必要性があるものであれば基本的には短期資金の書き換えや長期資金による利益償還となります。
このような返済方法以外で企業から申し出があった場合には、金融機関側は運転資金需要以外のところで資金が必要となっているのではないかと検討しますので、注意が必要です。
信用金庫の担当者と面談する時に気を付けるポイント
理論的には、上記のような審査ポイントで信用金庫では審査をしていますが、実はその基準を全て、細かく数字で検証しているわけではありません。
むしろ「この人がやっている事業は大丈夫」と担当者が感じた心証をもとに、このような基準に合致するように裏付け資料を集めて、各信用金庫内の基準に則った稟議書の形にまとめていくのが、融資案件を進める際の基本的なスタンスになります。
最終的な稟議書の取りまとめは、支店内で作業している融資担当者が行うことが多いのですが、そのための材料を聞き出したり、資料をまとめたりするのが、実際に顧客を訪問する渉外担当者の役目です。
そのため、いかに渉外担当者に自分たちの良さを理解してもらった上で、彼らが聞きたいことにキチンと回答してあげるかということが、面談する時に最も大事なことです。
よって、そのための具体的なポイントは、以下の点になります。
①わかりやすい説明をしてあげる。
顧客側は、「金融機関の人間は、なんでもわかっているだろう」と思っていることが多いのですが、実際には知らないことの方が圧倒的に多いです。特に、各業界固有のことについては、ある程度勉強はしているものの、顧客に教えてもらうことの方が圧倒的に多いです。
そのため、業界のことや、自社のことについて、中学生に教えるぐらいの感覚でわかりやすく教えてあげた方が、信用金庫内部での自社の理解度が上がり、本部との交渉などにおいても有利に働きます。
さらに、数字に基づいた根拠資料があれば、それを提示してあげた方が、さらに色々な意味での説得材料になります。
②事実に基づいて、簡潔に説明する。可能なら数字で示す。
先程の説明にも通じるところなのですが、面談時に説明する時には、事実や数字・データに基づいた説明をすることが大切です。
なぜなら、面談時にどんなに担当者が理解してくれても、その人が信用金庫の内部にいる上司・同僚や本部担当者に説明することが出来て、初めて融資案件が前に進むからです。
状況によっては、企業側が担当者の上司・本部担当者に直接説明する機会が持てることもありますが、必ずその機会があるとは限りません。自社の担当者に、社長に変わって信用金庫内でプレゼンしてもらうには、客観的な裏付け資料が最大の武器になります。
担当者が信用金庫内で1つの案件を説明する際に、使える時間は通常5分程度です。その程度の時間内でも、直接話を聞いていない上司・同僚が理解できるように、担当者に対しても資料を使ったできるだけ簡潔な説明をしてあげることが大切です。
③尊大な態度をとらない。卑屈にもならない。
信用金庫の担当者は、比較的、控えめな態度でお話しするのではないかと思います。そのような時に、時々尊大な態度で臨まれる経営者の方がいますが、これはやめた方がよいです。
担当者は営業としての実績がほしいので、ある程度は話を聞いてくれますが、やはり人間がやることなので、嫌な気持で進める案件は、往々にしてうまくいきません。
その一方で、卑屈になりすぎるのも良くないです。相手から侮られたり、逆に経営内容に不安を感じさせたりするからです。
ビジネスの相手方として対等な感じで、かつ毅然とした態度で臨む経営者が、一番商談が進めやすいし、相手方の意向を信用金庫内で取り上げやすいです。
④相談したあと、進展がなかったら、確認する。
融資の相談をして、一定期間(1週間程度)経過しても、相手から新しい反応がなかった場合には、進捗状況を確認するとよいでしょう。信用金庫の担当者は結構忙しく、自分の苦手なタイプの案件だと、先延ばしにしてしまうことが往々にしてあります。
そのような時には、進捗状況を確認することで、相手方に対してプレッシャーをかけることも必要です。その際には、企業側が「次に自分が何をすればよいか」等のような聞き方から話し始めると、過度に相手を追い詰めずに確認することが出来ます。
こんな対応は厳禁! 注意しましょう。
では、逆にどんな対応をするのが良くないのでしょうか。
基本的に避けるべきなのは、「この人は信頼できない」「真面目に商売をしていない」と思わせることです。普段の人間関係でも大切なことですが、信用金庫は融資取引の前提として「取引先との信頼関係があること」をとても重視するからです。
具体的に例示すると、以下のような点です。
①ウソをつく
一番いけないパターンが「ウソをつくこと」です。
言いたくないこと・隠しておきたいこと等があるのは当然ですが、積極的にウソをつくことはやめた方がよいです。
なぜなら、融資をする際には、双方に信頼関係があることが前提になるからです。
担当者が聞いて帰った内容が、支店で上司と一緒に検討した結果でウソだとわかった場合には、内容次第では、現在の申し込みを謝絶するだけではなく、その企業との取引自体を疎遠にせざるを得ないケースもあります。
特に自社にくる担当者とは、できるだけ腹を割って話しましょう。
ちなみに、「ウソをつく」ことの最上級は「決算を粉飾する」「実態のない事業について説明して資金調達する」です。これらのケースだと、現在利用中の融資も含めて一括返済要請を受ける可能性があるばかりか、詐欺罪として刑事告発されるケースまであり得ますので注意しましょう。
②資金流用する、無駄遣いする
審査上のポイントとして意外と「資金使途」の重要性が高いことは先述しました。
そのため、当初の申し出と違う資金使途に資金を流用することはNGです。これは、審査をした時の前提条件が崩れるためです。
資金の流用が判明した場合には、その融資について全額返済を求めることもありますし、その後の融資取引にも多大な影響を与えます。逆にどうしても資金流用せざるを得ない状況が発生した場合には、状況に応じて速やかに相談しておくほうが賢明です。
また、会社の資金で、社長等の個人的な支出をするのも慎むべきです。
もちろん、信用金庫からの融資が必要ないほど資金に余裕のある会社であれば、さして問題にはなりません。
しかしながら、融資を受けることが事業を継続する上で必要不可欠な企業は、社長に対する仮払金・貸付金、事業に関係ない固定資産(社長一家の個人的な車や趣味の船舶等、事業に利用していない別荘等)などが決算書に計上されていると、審査上はマイナス要素として捉えることもありますので注意が必要です。
③無計画な借入申し込みをする
計画性のない借入申込をすることも可能な限り避けたほうが良いです。
信用金庫内部で融資のための稟議をする際、当面どの程度の資金が必要か等の検討をしますが、基本的には顧客からの申し出を軸に検討します。顧客こそが自分のことを一番よくわかっているはずという前提で考えているからです。
その際、金額面・時期面などで計画的でない借入申込を繰り返すと、そもそも自社のことも把握していないという評価をされ、説明内容に信憑性がなくなってしまうのです。
④脅す・買収する・政治家を使う
借入申込をする際に、信用金庫側とビジネスとして交渉を行うことは当然です。
しかしながら、脅したり、担当者を買収したり、政治家などを使って圧力をかけることは厳禁です。
基本的には信用金庫としては、顧客とケンカはしたくないのですが、不法な手段に訴えかけると、強硬に対応することになります。
顧客としての必要な要望はきちんとすべきですが、不法な手段は慎むべきです。
また、買収や過剰な接待は、経緯はどうあれ結果的に信用金庫の担当者の立場を悪くし、最悪は不祥事件として処罰対象とされます。その場合、買収・過度な接待をした顧客に対しても厳しい態度で臨みますので、やめた方がよいです。
⑤事前に断らずに他の金融機関と相見積もりする。
ずっと借入の相談をしていて、ある程度融資条件のすり合わせもできていたのに、ある日いきなり、他の銀行と相談した提示条件を出してきて金額・金利面での交渉をするケースもありますが、これもNGです。
通常の事業活動では相見積もりを取ることは一般的なので、信用金庫との交渉でも気にしないという方もいらっしゃるかもしれませんが、信用金庫の法人融資はオーダーメイド商品のようなもので、大まかな対応方針を出すまでの顧客・支店内・本部との折衝にこそ、難しさと価値があると考えています。
そのため、後出しで他の銀行の条件を出してきた場合、その時は条件的に頑張ってくれるかもしれませんが、次回以降は顧客側に立った提案はしてくれないでしょう。もしかしたら、次回以降は「あちらの銀行に行ってください」と言われてしまうかもしれません。
だからといって、相見積もりをしてはいけないというわけではありません。最初、もしくは早い段階で、他の銀行にも相談していることを上手に表明しておくことは、融資条件面(金額・金利・保全など)で有利な条件を引き出すポイントになることもあります。
あくまでも、後出し・だまし討ちにしないこと、彼我の力関係をわきまえた交渉をすることが重要です。
王道で当たり前といえば当たり前なんですが、それが出来ていなかったりもしますもんね。