現在、日本の中小企業において、後継者不足による廃業の増加が問題と言われていますが、実態はどのようになっているのでしようか。現在の状況と問題点をまとめてみました。
目次
中小企業の後継者問題
中小企業の後継者問題については、近年大きな問題として認識されています。2017年版中小企業白書によると、2016年の開業・廃業の状況は、中小企業の倒産による廃業は減少傾向が続いている一方で、休廃業・解散件数は29,583件と過去最大となっています。
このように、中小企業において休廃業・解散件数が増加している要因は、経営者の高齢化進展と後継者の不在が原因と考えられています。
①経営者の高齢化
2017年版中小企業白書によると、中小企業経営者の年齢分布についてみたところ、1996年から2015年の20年間に経営者年齢の山(最頻値)は、47歳から66歳へと移行しており、経営者の高齢化が着実に進行しています。
また、休廃業・解散した企業に絞ってみても、60歳以上・80歳以上の経営者の割合は過去最高となっており、経営者の高齢化が進展することで、休廃業件数が増加していることが見て取れます。
なお、今後5年間で30万社の中小企業経営者が70歳になることが想定されており、より一層高齢化による休廃業・解散する企業の増加が懸念されています。
②後継者の不在
2017年版中小企業白書によると、中小企業(中規模法人)において、後継者が決まっている企業は全体の41.6%にとどまっており、後継者対策が十分にできているとは言えない状況です。中小企業の経営を引き継ぐには以下のようなハードルがあるため、現経営者の子息や従業員が実際に事業を承継するためには周到な準備が必要ですが、後継者が決まっていないと準備不足になりがちであり、結果として事業承継が上手くいかない可能性があります。
a.経営者としての資質
中小企業では経営者に求められる資質が多く、経営管理・営業・生産・財務など幅広い領域において、組織を引っ張っていくリーダーシップが求められます。その能力をつけるためには、本人の資質に応じて事前の準備期間が必要となります。
b.経営者の個人保証
中小企業ではほとんどの場合、事業資金として銀行からの借入金があり、代表者が個人保証しています。後継者になるということは、その借入金に対して責任を持つということが必要となりますが、一般的に個人が負担するには過大な金額となるため、二の足を踏む場合が少なくありません。
c.事業承継に伴う資金負担
事業承継にはその会社の株式(自社株)を引き継ぐ必要がありますが、その株式はその会社の利益の蓄積をもとに評価されるため、優良な企業ほどその評価額は高くなります。そのため、多額の相続税を支払う必要があるのです。
また、従業員に経営を引き継ぐ選択をする場合には、自社株・事業用資産の買い取り等が必要となるため、子息が事業承継する場合よりもより多い資金負担が必要となります。
d.事業承継に対する計画的な取り組み不足
以上のようなハードル事業承継を行うには様々な事前準備が必要であるが、2017年版中小企業白書によると、後継者が決定していない企業では対策が進んでいない項目が多く、計画的な取り組みの不足していることが指摘されています。
後継者不足で事業承継がなされないことの問題点
では、後継者が定まらず中小企業の事業承継がなされないことで、どのような問題が発生するのでしょうか。
後継者不足で事業承継されない中小企業の中には、業況が厳しく生産性の低い企業もあれば、長年の経営によって積み重ねてきた顧客やノウハウなどの強みにより高い生産性を有している企業も多く存在しています。
このような生産性の高い企業が休廃業により退場することは、その分だけ社会全体の生産性低下につながります。日本の企業は99%が中小企業であることから、中小企業の休廃業増加は日本の生産性そのものも引き下げるほか、顧客・ノウハウなどの事業価値も散逸し、日本経済全体に悪影響を与えることになるのです。
政府としての取り組み
このような背景の中、円滑な事業承継の促進に向けて、政府としてはどのような対策を取っているのでしょうか。
中小企業庁は、事業承継に関する現状分析と事業承継に対する知識・手法を網羅的に整理した「事業承継ガイドライン」を平成28年12月に10年ぶりに改正するとともに、その具体的な手法などを分かりやすく紹介した「事業承継マニュアル」を平成29年4月に発行し、中小企業経営者に対する事業承継への認知度向上を図っています。また、平成33年までの5年間を「事業承継支援の集中期間」と定め、支援体制を強化する方針です。
また、国として、具体的な解決手段として、以下のような幅広い施策を実施し、円滑な事業承継に向けた支援を行っています。
①事業承継税制
事業承継をするにあたり現社長から後継者に自社株の引継ぎをする場合、ある一定の条件に該当するときには、事前に手続きをすることで、その自社株の引継ぎに課税される相続税・贈与税の納税が免除される制度です。
②遺留分の減殺請求の特例
後継者の他に相続人がいる場合、相続時における遺留分の請求(相続人が財産分配の不公平について一定の割合まで請求できる制度)について、自社株に関する部分については、計算から除外すること、もしくは価格を事前に決定しておくことができる制度です。
③.事業承継補助金
事業承継をきっかけとして、一定内容の経営革新に取り組む場合に、最大で200~500万円の助成金が受けられる制度です。
④事業承継に関する信用保証制度の特例
事業承継に関して、必要な資金への対応について、信用保証協会の保証枠の特例が設けられています。
⑤経営者保証に関するガイドライン
銀行借入の商慣習として、「会社に対する借入に対して経営者が個人保証する」というものがありますが、このガイドラインでは会社との資金面での明確な分離等を条件として、経営者保証を不必要とするように求めるもので、金融庁による銀行への指導なども行われています。
⑥事業引継ぎ支援センター
各地の商工会議所等に開設された事業承継の相談窓口で、事業承継相談の1次対応をするとともに、登録している機関とともに協力して事業承継への対応を進める調整役となっています。
信用金庫として後継者不足と事業承継に関して果たせる役割
このような状況の中、中小企業を専門とする金融機関である信用金庫は、どのような役割を果たせるのでしょうか。
信用金庫の特徴は、日々の活動として企業へ直接訪問しているところです。その密接なコミュニケーションにより、会社の財務内容だけでなく、事業内容や経営者とその親族・従業員のことまで担当者が知っています。
そのような立ち位置であるからこそ、事業実態に即して上記のような情報提供を行ったうえで、第三者的な立場での冷静な意見表明を行い、経営者の気持ちと実態に寄り添った対応を行える立場にあります。
また、信用金庫にとっては、メイン取引先である中小企業の事業承継が上手くいくことは、信用金庫の顧客基盤の維持・発展にも直結します。
そのため信用金庫では、取引先の維持と発展に向けて、事業承継への相談に注力しています。本部に専門の担当者を置いている信用金庫や、事業承継に詳しい専門家や事業引継ぎセンターへの紹介等を行っている信用金庫もあります。
また、事業承継の一つの形態であるM&Aの仲介業務にも取組んでおり、中小企業のM&Aを得意とする日本M&Aセンターと提携してM&Aの仲介にいる信用金庫が全国で201金庫あり、後継者のいない企業には、M&Aという選択肢を提供できる態勢も整えています。また、信用金庫の中央機関である信金中央金庫の子会社「信金キャピタル」においても、M&A案件の仲介を行っています。