目次
借入の種類による違い~どこの誰が評価する?
住宅ローンの場合~保証会社が評価する
住宅ローンの場合、一般的に担保は保証会社が評価する。
評価作業はマニュアル化、簡素化されている。
また担保の評価額はプロパー融資の担保に比べて高めである。
理由は下記のとおり(プロパー融資の担保は詳細後述)
担保設定するのは保証会社であり、銀行ではない
銀行の住宅ローンは保証会社の保証付きが主流。(保証会社は銀行の子会社や、ノンバンク系の保証会社など)
保証会社は求償権を保全する為に、担保となる不動産に抵当権を設定する。
銀行は担保設定しない。
求償権とは?~住宅ローン保証の仕組み
住宅ローンでは債務者が返済困難になると、保証会社が一括返済=代位弁済をする
→代位弁済すると、保証会社には債務者に対しローン債権の返還請求権が発生する
→これを求償権という
つまり『全額返済してやったんだから、今度はこっち(保証会社)に返済してよ』ということ
→債権は保証会社に移り、債務者は保証会社にローンを返済していく
→それでも返済ができなかった場合、保証会社は不動産を売却しローンを回収する(銀行ではこの売却手続きを、担保権を行使すると表現する)
保証会社は原則として売却を想定していない
代位弁済したあとの毎月返済は、実際のところかなり少ない額でも許される。
なぜかというと
① 銀行子会社が一般的である保証会社は、銀行と一体経営ということもあり、代位弁済したからといって、急いでローンを回収しなくても困らない
② 競売でも任意売却でも、買い叩かれてローンを全額回収することは不可能。
それなら、少しずつでも返済してもらったほうが、時間はかかるが確実に回収できる
だから、保証会社は無理に担保を売却して回収しようとはしない。
評価の目安は路線価の120%程度
もともと無理な売却を想定していないので、住宅ローンの担保評価はプロパー融資に比べて高めとなる。(ここも詳細後述)
実際は路線価の120%程度で評価している。これは不動産売買で相場の目安として、一般的によく使われるものであり、銀行もその水準を用いている。
担保評価は誰がする?~保証会社の評価を銀行員が代行する
現地調査、評価は銀行員がおこなう。
保証会社が定めたマニュアルに沿って銀行員が作業し、保証会社が追認する。
(銀行系保証会社の場合はこの形態が多い)
現地調査もマニュアル化されており、新人の銀行員でも問題無くできる程度のもの。
作業するのは銀行員だが、保証会社の作業を銀行が代行しているという位置づけ。
つまり、担保を評価しているのはあくまで保証会社というスタンスである。
実際ローンの手数料には、担保に関わる事務手数料として保証会社に支払う金額が含まれている。
銀行員は、住宅ローン手続きの一環として作業するだけ。当然ながら保証会社から銀行員に手当が支払われることは無い
作業工程(下記は一例 銀行によって基準は異なる)
① 現地調査
写真は最低で4枚撮影(東西南北から一枚ずつ)
調査項目は「土地が道路に面しているか?」「未登記物件や占拠者がいないか?」程度の簡単な調査のみ
② 評価作業
土地:<土地の面積×(路線価×120%)>で評価する
路線価は主に相続税路線価 過疎地などは固定資産税路線価を調べる
路線価が無い物件は、固定資産台帳などから評価額を算出する
建物:<木造、鉄筋など構造別の単価×建築面積>で評価する(新築の場合)
構造別の単価は銀行独自で定めるが、基本的には損保会社が火災保険で建物評価を算出する係数などを参考にしている
銀行によっては現地調査を省略し、写真もパンフレットやハウスメーカーが撮影した現地写真を使用するなど、省力化が進んでいる。
物件の大多数が居宅やマンションなどであり、現地調査の項目が少ないという点が
省力化の進んだ理由。
プロパー融資の場合~銀行本体で調査、評価する
プロパー融資の場合、銀行本体で担保評価をおこなう。
ここでいうプロパー融資には事業資金以外に、アパートローンや収益物件購入などの
プロパーローンも含まれる。
評価は厳密におこなわれ、評価額は低めである。
ここからは上述した住宅ローンの場合と比較しながら説明していく
担保評価は誰がする?~子会社が評価する
銀行本体が直接担保取得するので、銀行が調査・評価する。
実際は銀行グループ内、専門の100%子会社等が銀行の委託に基づき対応する。
評価の手順や情報のやりとなど内部限りのことがらが多く、系列内で行うのが基本。全くの外部会社に委託する銀行もあるが、あくまで少数。
グループ内とはいえ、銀行本体ではなく子会社に評価させるのは、担保評価の客観性・中立性を保ち、将来の担保権行使に際し齟齬のないようにするためである。
住宅ローンのような一律の評価目安は無い
プロパー担保の評価も路線価を基本とするが、あくまで参考値として使う程度。
また銀行は数多くの担保物件を持っているので、対象の近くで担保設定している物件の評価額も参考にし、評価額を算定している。
路線価の120%、と一律に評価できないところが住宅ローンと大きく違う点。
作業工程
①現地調査
評価に影響する周囲の状況など、必要に応じ写真は何枚でも撮影する。
実査も入念に行うため、住宅ローンに比べ調査時間は長いものとなる。
(ここで余談:アパートの建築予定地や工場用地など、背広姿で写真撮影しているの
は銀行員かハウスメーカー・建築会社の社員がほとんど。
関係者なのでヘルメットを着用しているのがハウスメーカー。銀行員はヘルメッ
トをしないので見分けることができる)
②法的調査
道路、用途地域、建築条例、制限事項などを市役所や土木事務所に赴き調査する。
③近隣相場、鑑定士等への意見聴取
近隣の売買事例、実勢相場といった価格構成要素を調査する。
必要に応じ、契約している不動産鑑定士に意見を聴取する。不動産鑑定書を作成してもらう場合もある。
担保評価にはこうして手間と費用がかかるため、債務者は3万円から5万円程度を担保に関する事務手数料として銀行に支払うのが一般的。
④上記より導き出した要素を銀行基準:数式や加減要素に照らし合わせ担保評価を算出する。(詳細後述)
⑤銀行では、債務者が破綻し担保を競売した場合の売却額を、上記の担保評価を用いて予想している。
担保評価で出た数値を単純に「評価額」
競売を想定し、上記「評価額」を割り引いた数値を「査定額」などと呼ぶ。
一般的に評価額を100とすれば査定額は80~60%で、この数値は債務者区分により銀行が独自に決めている。
*上述のように担保評価とは「競売したらこのくらいで売れる」と予想すること、と表現することもできる。
競売となった場合の売値が査定額より著しく低かった場合、担保評価をした担当者にペナルティが来ることがある。(人事査定に影響。最悪減給や降格など)
したがって担保評価をする人間には「本来なら担保評価は1億円だが、ここは9千万円にしておこう」といった心理が働く場合がある。
これが、銀行の担保評価額が低くなる要因のひとつになっている。
プロパー担保の評価額算出について
評価の基本
「売れるか?」が大前提
上述のようにあくまで「競売したときいくらで売れるか?」を想定して評価するのが大前提。
相場がいくらだからとか、駅から近くて利便性が高い、などは重視しない。
売れると考える物件の評価は高くなり、売れない物件は当然評価が低いものになる。
銀行が考える <売れる物件><売れない物件>とは?
<売れる物件>
A・30~50坪の宅地→個人の住宅用地として売れ筋の広さだから
B・更地→すぐ売ることが可能だから
C・適度に交通の便が良い→利便性と静かさ、両方を備えているから
D・嫌悪されるものが近くに無い→墓地、鉄道など 学校もうるさいので近過ぎは×
↓ ↓
<売れない物件>
a・広すぎる土地、狭すぎる土地→広すぎると切り売りするのに手間と費用がかかる
逆に狭すぎると使い道が無く、売れない
b・建物がある土地→取り壊し費用がかかる
取り壊しできなければ居抜きで売買するしかなく、売れる可能性が低くなる
c・交通の便が良すぎる→幹線道路沿いはうるさいし、危険
鉄道に近い、駅に近すぎるのも同じ
特に国道など交通が激しすぎる道路沿いは、基本的に商売をやりにくいし住む
場所でも無い
d・嫌悪施設の近くは×→窓の外が墓地、隣が学校のグランドなどは不可
銀行は「穴場物件 訳あり物件」という発想は持たない
*心理的瑕疵も嫌がる(いわゆる事故物件)
担保権を行使すれば一時的にせよ所有権は銀行に移る。事故物件であれば当然売却は難しくなり、売却する際の売り手責任も発生する。
銀行に事故物件を押しつけられた、など悪評が立つことは避けたいので 原則担保に取らない。やむを得ず担保に取る場合、評価は恣意的に低くする。
評価額の算出方法
路線価を基本とした減点方式~だから最高でも路線価と同額
路線価は、その土地周辺の交通や生活の利便性を折り込んでいる。だから銀行の担保評価も原則路線価を基準とする。
加算する要素があれば評価が上がり、逆に減価要素があれば下がるが実際の作業では減点することがほとんどで、加点することはまず無い。
このあたり、作業工程の項で上述した心理的要因も影響している。
評価の参考にする近隣の銀行担保物件も、実のところ同じ作業で評価されたものであり、結果的に担保評価は路線価より低いものとなってしまう。
調査の結果文句無い物件だとしても、良くて路線価と同額が最高。
減点の具体例
接する道路が狭い→いわゆるセットバックが必要になるなど利便性が劣る
地勢が悪い→水はけが悪い、地盤が弱い土地など総称して地勢が悪いと表現
日照が劣る、悪臭がする→ひとが嫌がる物件は当然評価が下がる
川、海に近い→水害の懸念が高いため
祠や遺跡がある→学術調査が必要になるとその期間中は売ることができない
一般相場との乖離とその原因
一般の不動産相場も、実は路線価をもとにその何割増し、で設定されている。
例:路線価100万円<相場120万円など
上述のように銀行評価は上限でも路線価と同額であり、路線価を上回ることはまず無い。結果的に銀行の担保評価は総じて路線価より低いものが大半となる。
これが、銀行の担保評価は相場の6割、などと言われる根拠となっている。
物件毎のポイント
一般住宅
一般的な居宅は減価償却年数も短く、10年程度で評価はゼロとなる
したがって中古住宅として売る、という想定はせず逆に居宅の取り壊し費用を
評価から減じる
居住系収益物件:アパート、マンション等
収益物件は、競売の場合そのまま売るものと想定している。
評価の基本はいわゆる「レントロール」→どの位の利回りで回っているか?を担保評価に反映させている。
これが、スルガ銀行の不正融資で書類改ざんの原因となった部分でもある。
他の銀行も含め、従来は正直なところちゃんと調べていなかった部分だが、スルガ銀行の影響で、レントロールも現在はかなり厳しく審査している。
現地調査についても同様。
例えばスルガ銀行の場合、現地調査にあわせカーテンを使って入居を偽装したりしていた(入居率が高くなれば利回りも高くなる)
他行はもともと違う方法で入居率を調査してきた。(悪用を防ぐため各銀行とも調査方法は厳秘扱いとしている)
昨今入居率の調査はより厳しくなっているので、不正はできないようになっている。
ロードサイドテナント:コンビニ、貸店舗、事務所等
基本は居住系収益物件に同じ。
ロードサイドテナントでは、レントロールにおいては賃貸先(店子)を重視する。
特に賃貸契約はその中身もしっかりと吟味する。
例えば一方的に店子の都合で出て行かれた場合、建物は取り壊して更地渡しとする契約となっているか?なども重視する。
ロードサイドテナントの場合、建築したテナントが次の店子にも引き継ぎができるか?という建物の汎用性も重要なポイントとなる。
ロードサイドで某大手コンビニ特有の建物が他に流用されているのを見かけるが、
引き継ぎが上手くいっている例の一つと言える。
工場等
原則そのまま居抜きで売却できるものは少ない。
売りにくい物件であり評価は低い。
用途が特殊な物件:寺社、学校等
用途が限定され、次のオーナーが使うにも許認可や条件、制限など多い。
基本的に売買する物件とは考えられていない。例えば、潰れた学校を他の学校が 買い取ることなどまずあり得ない。
上記より、原則銀行は担保としない。