現金を扱わない店舗が銀行で拡大しています。
2020年の東京オリンピックを控え、キャッシュレス決済が日本で普及していきそうですが、そのような流れの中、「現金」という、盗まれたり、燃やしたりしてしまったら、誰も保証してくれない資産を預かる銀行のあり方が変わろうとしています。
そして、キャッシュレス決済の普及から金融事業まで拡大を目指すLINEが、銀行業に参入するとの発表がありました。
LINEの参入は、銀行のあり方だけでなく、お金のあり方そのものを変えてしまう可能性がありそうです。
キャッシュレス中で銀行は今後どうなっていくのか考察していきます。
目次
現金管理にはコストがかかる
銀行の本来の業務は、現金という資産を預かり、それを必要としている人に融資して社会にお金を回すことです。
なぜ、銀行が必要なのかといえば、「現金は盗まれたり、火事になってしまったら誰も保証してくれないから」です。
この本来の銀行業務にはコストが非常にかかることから、現金を扱わない店舗を拡大する銀行が増えているのです。
1円でも合わないと深夜まで
「現金が合わないと帰れない」銀行業務について、このように聞いたことがある人も少なくないのではないのでしょうか?
これは事実です。
筆者が銀行に勤務していた時にも、500円が合わずに12時過ぎまで支店内をくまなく探し回って、普段は17時に帰る女性行員が青い顔をしていたことがありました。
結局0時近くなって、機械の裏から500円が見つかったということがありましたが、筆者が経験しただけでも、このような経験は2回ほどあったと記憶していますので、このようなことは、日本全国どこの銀行でも起こっていることだと思います。
現金を探す行員には残業代が発生しますので、当然失った500円よりもコストは高くなります。
また、現金が無くならないとしても、普段から現金を管理し、それを本部や日銀へ送金するという日常業務だけでもコストはかかっているのです。
集金業務もコストがかかる
集金業務もお金がかかります。
一昔前は、年末や月末は、現金の集金だけで1日の業務が終わってしまうこともありました。
銀行は、このように管理にコストと手間がかかる現金を責任を持って預かるからこそ、事業として成立してきました。
誰もが現金を手元に持っていることは怖いので、信頼できる銀行へお金を預けてきたのです。
ネットバンキング利用者数が急増
筆者が銀行に勤務しているときにはすでに現金での決済というのは少なくなっており、多くの取引先企業が振込で決済を行っていました。
取引先からの入金は振込で、送金も振込というのであれば、現金は会社に不要になります。
また、個人でも、クレジットカードが普及し、クレジットカードで買い物をした方がポイントも貯まるというのが当たり前になり、現金を持たない個人も増えてきました。
そのような流れの中で、ネットバンキングは普及していきます。
2016年までの10年間、銀行窓口の顧客が4割減った一方、ネットバンキングの利用者数は4割増加。
世の中のお金の流れが変わっているのに、これまで銀行は、現金決済が当たり前だったころと大きく方向性は変わって来なかったと言えます。
銀行もキャッシュレスの時代に
このような流れの中、銀行の店舗も変化を見せています。
メガバンクなどは窓口業務の多くを縮小し、振込はタブレット端末からタッチパネルで行うことができるようになり、中には現金を一切扱わない支店を拡大している銀行も存在します。
キャッシュレスの流れの中、銀行も昔から変わらなかった業務形態をやっと変化させようとしている兆しがあります。
しかし、銀行がこのような施策を実行しているのは、単に「非効率的な部門を縮小しているだけ」に過ぎず、「そこで浮いた人やコストからどのように収益化して行くのか」というビジョンは見えてきません。
その反面、LINEが銀行に参入することには、明確に次の時代の金融のあり方を見据えたもののように思えます。
LINEが銀行に参入!その狙いとは
2018年11月、LINEと、みずほフィナンシャルグループが共同出資で「LINE BANK」を設立すると発表されました。
LINEとみずほ銀行が組んで銀行を設立した狙いはどのような点にあるのでしょうか?
2020年サービス開始を目指す
LINE傘下のLINE Financialとみずほ銀行は共同で「LINE Bank設立準備株式会社」を設立することで合意したと2018年11月に発表しています。
この準備会社では、新銀行の設立に向けた準備と検討を進めるとしています。
出資比率はLINE Financialが51%、みずほ銀行が49%で、2019年春をめどに設立し、2020年にはサービスを開始する予定としています。
2020年にはLINEの銀行「LINE BANK」が誕生する見込みとなっています。
LINEのユーザーを目的とするみずほ銀行、銀行のノウハウを吸収したいLINE
LINEの銀行「LINE BANK」をみずほ銀行とLINEが設立する目的は、LINE・みずほ双方のメリットが一致したためだと考えられます。
LINE:参入障壁と法的規制が厳しい銀行ノウハウをみずほ銀行から吸収したい
みずほ:LINEが抱える7800万ユーザーと接点を持ちたい。LINE Payの決済の流れの中にビジネスチャンスを見つけたい
などの双方の思惑があります。
みずほ銀行は、ソフトバンクと共同出資でJ scoreを設立したり、LINEと共同で銀行を設立したりと、来るべき次世代のキャッシュレス・フォインテック・AIの金融時代に今から備えている数少ない銀行と言えるのではないでしょうか?
LINEを入り口とした金融サービスの展開
LINEのキャッシュレス決済サービスは、最近では若者の間で当たり前のように普及し始めています。
LINE内で使えるLINEコインを購入し、そのLINEコインで決済ができるLINE Payは、LINEの友達に送ることもできるので、飲み会の割り勘の支払手段としてもかなり普及し始めました。
このように、すでにLINEを入り口として、お金の流れは始まっていますが、今後は、LINEを入り口とした、投資やローンなど、さらに多くの金融サービスの展開をLINEは「LINEフィナンシャル」という事業構想の元に進めています。
野村證券と組んでLINE証券
AIによる投資信託FOLIOへの出資
損保ジャパンと組んでLINE保険
近日設立予定の貸金業者「LINE Credit」
仮想通貨販売所
など、LINEはLINEを入り口とした金融事業展開を構想しているのです。
LINE BANKが設立されることで、これらの構想が一気に加速していく可能性があります。
LINE BANKの目指す形
では、LINEは銀行設立によってどのようなサービスの展開を検討しているのでしょうか?
利用者にとっては利便性が向上し、LINEにとっては、金融の入り口を牛耳ることができる可能性があるインパクトのある構想となっています。
LINE Payが入り口になる
基本的には、現在のキャッシュレス決済事業のLINE Payが金融サービスの入り口になるのではないでしょうか?
今は、クレジットカードやコンビニなどでLINEコインを購入していますが、LINE銀行が設立されればLINE銀行に入金しているお金からダイレクトに24時間LINEコインが購入できるようになる可能性があります。
LINE Payで決済・送金
LINE Payは今でこそ、LINEスタンプの購入やLINEの友達に送金する程度にしか使うことができませんが、今後は小売店や飲食店でも使えるようになりますし、さらにネット販売などでの決済に使うことができるようになるでしょう。
ここで、銀行の送金システムを頼らずに決済や支払いができる流れをLINEが抑えることができます。
利用者にとっても、口座番号の確認や、手数料などが発生せず、アプリで送金することができるので、安くて便利です。
近い将来は子供への仕送りはLINE Payでという時代も来るかもしれません。
お金が足りなくなればLINEでローン
さらに、決済をしようと思ったとき、友達と割り勘しようと思った時に、すぐにLINE上で小口のローンを受けることができるというような構想もあります。
あらかじめ個人に与信枠を与えておき、この枠の中からお金が足りない時にはすぐに融資を行い、LINEコインに変換して送金するなどということも可能になる可能性があります。
お金が余れば金融保険サービスへ
お金が余っている人は、投資や保険サービスもLINEから簡単に行うことができるようになります。
このように、「個人の資産の置き所」と「決済・支払・送金手段」をLINEが抑えることで、LINEは、決済、送金、ローン、投資などの金融事業を展開させようとしているのです。
仮想通貨が目指す形に近いのでは
LINEの構想は、銀行の形というよりも仮想通貨が目指す形に近いように思います。
円などの法定通貨を通さずに、すぐに送金ができ、この送金は海外にも可能です。
銀行口座を持たない人でも、LINEアカウントさえあれば誰でも貨幣経済に参入することができるというのも、仮想通貨が目指す形と似ています。
仮想通貨が法定通貨を何も裏付けとしていないことに対して、LINEは銀行を設立し、法定通貨の裏付けのもとに金融サービスを展開するので、仮想通貨よりも入りやすく、信用を得やすくなるのではないでしょうか?
もちろん、将来的には仮想通貨でもLINEコインが買えるようになるかもしれません。
今後銀行はどうなるのか
このように、現金ではなく、瞬時に取引ができるLINEコインのような仮想通貨が普及し、その通貨で決済や送金が瞬時に行うことができるようになると、銀行のこれまで果たしてきた役割が不要になってしまいます。
これまでは、全国銀行協会に加盟している銀行だけが、送金を行うことができたのに、今後はアプリに中で送金が完結していまい、アプリの中だけで融資や投資が完結してしまうためです。
ユーザーにとって利便性が高いこのよう流れは止まることはありません。
本来的な銀行の役割を断たれたと言っても過言ではない銀行は今後どうなってしまうのでしょうか?
円がブロックチェーンで管理されれば銀行の信用は不要になる
冒頭述べたように、銀行の社会的な価値は「現金という管理が困難な資産を預かることができるため」です。
自宅に置いておけば盗難や火災の可能性があるので、頑丈な金庫がある銀行に大切なお金を預けてきたのです。
しかし、キャッシュが不要になり、絶対にデータ改ざんが不可能なブロックチェーンで現金が管理できるとしたらどうなるでしょう?
銀行の本来的な役割である、大切な預金を預かるという仕事は世の中から必要なくなってしまいます。
ブロックチェーンとまでいかなくても、すでに預金が厳重にセキュリティが管理された情報で管理されている現状でも、現金決済がなくなれば銀行の本来的な役割はなくなってしまうのです。
個人相手の収益には限界か
銀行の役割がないというと、「銀行には融資のノウハウがある」という声が聞こえてきそうです。
しかし、現状は個人ローンの審査は銀行ではなく保証会社が行い、保証会社はコンピューターによって点数化するだけのスコアリングシステムで審査をしています。
今後AIがさらに融資に関与するようになれば、このような審査はLINEのような企業の方が得意になる可能性が高いでしょう。
つまり、個人ローンの分野では銀行はもはや優位性を見い出すことができないのです。
キャッシュレスによって浮いたコストを相談業務やサポート業務に仕向ける
窓口を縮小し、現金の管理コストを減らし、浮いたコストを銀行は「相談や顧客サポート業務に向ける」と言っています。
では、具体的にどの業務かといえば、そこはまだ見えていません。
ネット銀行は事業資金融資を行なっていません。
筆者はここで浮いたコストを一気に事業資金融資に振り分けるべきだと思います。
事業資金融資には面談や訪問や人間の目である目利きが必要な分野です。
そのため、店舗を持たないネット銀行は、事業資金融資を行なっていないのです。
個人ローン、資産運用などの業務は、今後、アナログな銀行が優位性を保つことができない分野です。
アナログ分野の優位性を唯一保つことができる事業資金融資を今こそ強化すべきでしょう。
給与が電子マネーに
2018年12月、政府の国家戦略特区諮問会議は、現行法で認められていない電子マネーによる給与の支払いを解禁する方針を決定しました。
これは給料が「Edy」「LINEコイン」「Suica」などに直接入金されるということです。
こうなってしまうと、銀行の優位性は完全に断たれてしまいます。
これまでは、いくら電子マネーが普及しても、入り口は銀行だったからです。
銀行に振り込まれた給料から、電子マネーに入金するという流れだからこそ、銀行口座は絶対に必要なものでした。
しかし、入り口から電子マネーになり、電子マネーで決済ができ、電子マネーでローンを借りることができ、電子マネーで投資ができるのであれば銀行は不要になります。
国を挙げてのキャッシュレスの施策によっても銀行の優位性は失われつつあります。
筆者が銀行に勤務していた数年前までは、「調達コストがかからない給与振込や年金振込をとってこい」と随分言われたものですが、その頃には、まさか数年後には電子マネーと戦わなければならなくなるとは夢にも思いませんでした。
まとめ:現金が消えた時に地方銀行も消える?
地方銀行の半分以上が本業での減益が続いています。
銀行には、事業資金での優位性があるといっても、そもそも地方に金融機関が飽和状態の現状の中、銀行同士が競争して、全ての銀行が事業資金融資で生き残っていけるほどのパイは今の日本の地方都市にはありません。
地方にはまだまだ現金しか信頼しないお年寄りが数多く残っており、そのようなお年寄りにとっては地方銀行は頼りになる存在です。
LINEは最初は若年層を入り口として、LINEの金融事業を展開し、やがては高齢者まで広げていきたいと考えていますので、今後、高齢者を含めて現金での決済が消えた時には、日本の多くの地方銀行の役割はなくなってしまいます。
地域の企業を融資の面からしっかりとサポートして行くことができる銀行は生き残れるかもしれませんが、そのような銀行は残念ながらごくわずかでしょう。
「現金を管理し、送金する」これは消費者にとっては面倒なことでした。
だからこそ、銀行の存在意義があったのですが、利用者の利便性が向上すればするほど、古いビジネスモデルから脱却することができない多くの銀行は今後経営がさらに困難になるのではないでしょうか?