会社が銀行から事業資金を借りる際には、いくら不動産を担保に入れるといっても必ずしも融資を受けることができるわけではありません。
銀行の事業資金の審査は、担保価格があるかないか以上に重要な他の基準で行われます。
では、銀行の審査目線で見れば、不動産担保とはどのような役割を果たすのでしょうか?
この記事では、銀行の事業資金審査における不動産担保の役割、不動産を担保にお金を借りたい場合などについて解説していきます。
目次
不動産を担保に事業資金の融資を受けられる?
銀行から事業資金の融資を受けたい場合に、不動産を担保として必ずしもお金を借りることができるわけではありません。
事業資金の審査は担保や保証人がいるから貸すわけではなく、あくまでも事業の内容を審査して「返済に問題がない」と判断され融資が行われるためです。
担保があるから借りることができるのは昔の時代
バブル崩壊以前は、銀行は担保さえ提供すればほぼ無条件にお金を貸してくれるという時代がありました。
また、バブル期は不動産の値段が日に日に上昇し、銀行の担保価値がどんどん上昇していくため、担保価値の上昇とともに銀行もいくらでも融資に応じていました。
融資は基本的に担保評価額の範囲内までしか行われないため、例えば評価額1億円の不動産担保には1億円までの融資に応じることができますが、この不動産の価格が上昇し、2億円になったら2億円までの融資に応じると、まさに不動産価格の上昇とともに融資が膨張していったのです。
当然ながら、不動産の価格が下落すれば、この融資は銀行にとって担保割れの不良債権となってしまいます。
銀行は、バブル崩壊によるこのような苦い経験があるため、銀行はいくら不動産を担保としても必ずしも融資に応じてくれるわけではありません。
本業支援
銀行の本来の目的は、企業にとって血液であるお金を融資によって企業へ提供し、企業が健全に営業活動を行うことができ、企業が成長して、地域経済全体の発展に寄与することです。
この目的を鑑みえれば、いくら担保となる不動産があるからといって、無限に融資を行っていたら、不要な借入の返済によって企業の収益が圧迫されて、むしろ事業が傾く可能性があります。
このため、不動産担保があるからといって必ずしも融資に応じてくれるわけではありません。
「担保があるから貸してくれ」はNG
銀行の事業資金融資の本来の目的は本業支援です。
このため、企業活動の継続と発展に寄与するために必要な資金の融資を行うのです。
何にお金が必要か、なぜ融資を必要としているのかの話以前に、銀行に対して「不動産を担保にするから融資をしてくれ」とか「この不動産を担保に入れたらいくらまで借りることができる?」というニュアンスで融資の相談を行うのはNGです。
銀行員とすれば、そのような相談を受けても「は?」という感覚で、融資ができるのかどうか答えようがありません。
また、「無担保の融資枠を他ですべて使い切ったのだろう」という悪い印象を持たれてしまいます。
担保に入れる不動産があろうがなかろうが、銀行には決算書を持参し、何にお金が必要になるかを明確に説明して融資の申し込みを行うようにしましょう。
審査の結果担保は要求されるもの
不動産の担保は銀行から要求されるもので、自分から「担保に入れてくれ」と言い出すものではありません。
会社の業況に対する審査を行って、銀行から「保全能力が足りないから不動産を担保に入れてくれ」と言われて担保に差し出すものなのです。
あくまでも会社に対する審査を行って、返済ができなくなった場合の保証として担保の提供が要求されるものですので、担保ありきでお金を借りることができるわけではありません。
銀行は不動産をどう見る?
では、銀行は審査の際に不動産担保を融資案件や会社の評価に対してどのような位置づけで見るのでしょうか?
融資審査の基本とともに、不動産担保の立ち位置についても解説していきます。
銀行の2つの審査基準
銀行が企業や融資案件を審査する際には、以下の2つの審査基準があります。
①返済能力
②保全能力
返済能力とは、貸したお金を返済していける能力があるかどうかです。
具体的には、会社に利益がない会社は、融資金を返済していくことができませんので、返済能力がないという判断となってしまいます。
このため、赤字が続いている会社は、その後、黒字に転換できる見込みがない限りは融資を受けることができません。
保全能力とは、融資金が返済不能となった場合に、お金を回収することができるかどうかということです。
銀行にとって、最も確実な保全能力は信用保証協会の保証です。信用保証協会は融資金が回収不能となった際には、銀行へ融資金の残金を立て替えてくれるためです。
不動産担保とは、この保全能力を得るためのものです。
評価額1,000万円の土地を担保にすれば返済不能となった場合に、担保となる不動産を処分することで融資金の回収に充てることができるためです。
ただし、今は都市部以外の不動産は買い手がつかない状態ですので、銀行は回収に充てることができるかどうか分からない不動産を担保にして保全能力を確保するよりも、確実に融資金の回収に充てることができる信用保証協会の保証の方が安心です。
このため、初めて銀行と取引する際には信用保証協会の保証をつけて融資を行うことが一般的なのです。
不動産担保にどの程度の保全能力があるのか
不動産担保は確かに融資金の返済が不能になった場合に、不動産を処分することで回収に充てることができます。
しかし、それは理論上の話で、必ずしも回収に充てることができるわけではありません。
不動産担保には評価額がありますが、評価額の算定自体は路線価や基準地価をもとに算定することはできます。
つまり、不動産を担保にする場合には、どのような不動産も評価額をつけることはできるのです。
しかし、不動産を実際に換金して融資金の回収に充てることができるかどうかは別問題です。
担保となる不動産を処分する際に買い手がつかなければ換金は不可能です。
評価額よりも低い値段でしか換金できないこともありますし、場合によっては買い手が全くつかないこともあります。
特に地方都市や空き家の問題などでも分かるように、買い手が全くつかない状態ですので、いくら担保評価額がついても「保全能力がある」と認められるのはあくまでも書類上の話ですので、不動産担保を回収に充てることができるかどうかはかなり怪しいのが現実です。
銀行は、貸したお金は現金で返済されることを望んでいます。
このため、信用保証協会の保証の方が不動産担保よりも圧倒的に保全能力が高いのです。
担保によって得られるのは保全能力だけ
前述したように、不動産を担保に入れても保全能力だけしか確保できません。
本業から返済可能かどうかの返済能力を担保によって確保できるわけではないため、不動産を担保としても必ずしも融資を受けることができないのです。
また、銀行にとって最も確実な保全能力である、信用保証協会の保証を受けるためには、信用保証協会の審査に通過する必要があります。
信用保証協会の保証審査の際に最重視されることは、返済能力があるかどうかです。
つまり、順番的に、①返済能力がある会社が信用保証協会の保証を得ることができ、②結果として保全能力を得ることができるのです。
返済能力がない会社は信用保証の保証による保全能力を得ることが出来ません。
事業資金の融資を受けるためには返済能力が最も重要で、保全能力は返済能力がある会社には後からついてくるといえるでしょう。
事業に必要なお金を融資する
銀行が事業資金の融資を行う理由は、そのお金が事業の継続や成長にとって必要であるためです。
いくら不動産を担保に入れて、保全能力が確保されたとしても、そもそも返済能力のない会社や、融資によって資金繰りが苦しくなり、返済能力が落ちてしまうという会社は融資を受けることができません。
返済はあくまで事業の収益から
不動産担保による保全によって回収可能かよりも、営業活動の中から返済可能かが審査の際には優先されるため、保全が図れているからといって、必要もない資金や、返済能力を圧迫する融資は行いません。
「回収できるからよい」というものではないのです。
あくまでも融資によって事業の継続や発展できるということを銀行の事業融資審査は重視します。
担保は補完的な役割しかない
ここまで見てきたように、不動産の担保というのは、返済能力を確保することはできません。
また、不動産担保は信用保証協会の保証よりも保全能力の低いものです。
では、何のために担保を要求するかといえば、プロパー融資の補完的な役割です。
後述しますが、プロパー融資は返済能力に全く問題のない企業に対して融資を行うものです。
このため「返済におそらく問題はないが、一応保全能力を確保するために担保にとっておく」というような目的かつ、審査の建前である返済能力と保全能力を確保するために、不動産を担保に入れています。
さらに、審査の現場では融資の稟議を上司や本部に対して通しやすくするという意味合いがかなりあります。
稟議書を作成する際に、「返済能力に全く問題がないうえに、不動産担保によって保全も図れており、返済・回収ともに問題がない」と記述すれば、上司に突っ込まれる割合が減少し、審査がスムーズに進みます。
プロパー融資は人間が審査の可否を決定しますので、ロジックが完璧であればあるほど融資案件を否決にされる確率が低くなります。
このため、反対に「保全は図れていないが、返済能力には全く問題ない」という稟議書を書いたとしたら「保全はどうするんだ?」と突っ込まれて稟議が差し戻しになることもあります。
つまり、実際に不動産担保で融資金の回収に充てることができるかどうかというよりも、審査のロジックをより完璧に組み立てるために担保が要求されるのです。
保全能力が完璧である信用保証協会の融資が、プロパー融資よりも審査時間が早いのは、信用保証協会の保証は稟議のロジックが完璧であるため、審査がスムーズに進むためです。
銀行が担保を要求する場合
それでは銀行が不動産担保を要求する場合にはどのようなケースがあるのでしょうか?
実際問題、担保を要求するかどうかは銀行の判断ですが、主なケースとして以下の4つの状況が考えられます。
設備資金
会社の建物などを建築する際の設備資金を借りる場合には、信用保証協会の保証があってもなくても融資によって購入や建築した不動産を担保に入れることになります。
この場合には、保全能力を確保する以上の意味合いがあります。
銀行から融資を受けて購入または建築した不動産に担保を設定しておかないと、この不動産を担保に他からお金を借りてしまう懸念があるためです。
銀行融資で購入・建築した不動産を担保に他からお金を借りてしまったら、借主は担保の設定がある借入金の返済を優先する可能性が高くなり、返済に支障をきたすおそれがた高くなります。
このため、設備資金によって不動産を購入した場合には、当該不動産を担保に入れるのです。
継続的に借入がある場合の根抵当権
銀行と継続的に取引がある会社は、融資の都度抵当権を設定することが実務上手間になり、費用もかかるため、不動産に対して根抵当権という権利を設定することがあります。
根抵当権とは融資額ではなく、極度額を設定します。
根抵当権2,000万円であれば、2,000万円であれば繰り返し当該不動産を担保とした融資を行うという権利です。
お金を借りていないときでも、根抵当権を設定しておくことができるため、融資の都度、抵当権の設定と解除を行うよりも手続き面でも費用面でもコストカットを図ることができるのです。
しかし、根抵当権があるからといって、必ずしも銀行から融資を受けることができるわけではありません。
返済能力等の審査をクリアした会社が根抵当権によって保全能力を補完する程度の意味合いです。
また、根抵当権の範囲内で、いつでも融資が可能な手形貸付や手形割引の融資枠を設定する場合もありますが、この際も返済能力がない会社は融資を受けることができません。
最近では、根抵当権を設定している会社であっても、信用保証協会の保証を付けることが多く、根抵当権を設定した不動産が担保として使用されないケースが多くなっています。
そのような、取引先は根抵当権を解除することもよくあります。
メインバンクの意地
特に審査的な意味はなくても、メインバンクの意地として、取引先の工場や建物に担保を設定していることもあります。
他行から不動産担保でお金を借りることができないためにするためですが、このような意味のない担保は解除することが社会的に求められていますので、だんだんとこのような担保の扱いは縮小傾向にあります。
しかし、やはり、銀行には潜在的に本社や工場を担保にいれているということがメインバンクとしての証というような考えが古くから残っています。
無担保融資枠の補完
銀行は企業ごとに無担保でいくらまで融資を行うのかという枠を設定しています。
業況のよい企業には高額の枠が設定され、業況の悪い企業は逆になります。
融資額が大きくなり、無担保枠の融資枠を超えてしまうと、銀行から担保の提供を要求されることが多々あります。
保全が図れている企業と、保全が図れていない企業では、銀行の格付けが異なります。
企業の格付けを落とさないために、不動産担保によって格付けを維持し、追加の融資に応じるということがよくあります。
パッケージ商品とプロパーローンの担保の違い
「不動産担保ローン」のような名称で、金利や融資限度額や融資期間があらかじめ決められている、不動産を担保としたパッケージ商品が存在します。
このような商品と、プロパー融資で担保を提供する場合では担保の取り扱いはどのように異なるのでしょう?
パッケージ商品は担保が必須
「不動産担保ローン」というパッケージ商品は銀行では個人用としての取り扱いしか行われていません。
筆者の知る限り、事業資金で不動産担保ローンのパッケージ商品は銀行では存在しません。事業用の不動産担保ローンのパッケージ商品は消費者金融などのノンバンクでのみ取り扱いがあります。
なぜなら、不動産担保ローンは、回収できるかどうかの保全能力のみをあてにした融資であるためです。
つまり、仮に現金での回収ができなくても、担保の処分によって回収できればよいと考えているということです。
先ほども述べたように、銀行の事業資金融資の基本的な考えは、融資によって企業が継続・発展できることを目的としています。回収できればよいわけではありません。
このため、「返済できなくても回収できればよい」という考えのもとに設計された不動産担保のパッケージ商品は銀行では事業用としての取り扱いがないのです。
パッケージ商品の融資限度額は評価額の一定範囲内
パッケージ商品は不動産担保の処分によって回収できればよいとの考えのもとに融資が行われる商品です。
このため、担保評価額を超える融資は絶対に行いません。
なぜなら、担保評価額を超える部分については回収できない可能性が高くなるためです。
また、評価額通りの値段で処分できない場合のリスクを補完するために、一般的には評価額の半分程度の融資となります。
しかし、プロパー融資で不動産を担保に融資を行う場合には、この限りではありません。
プロパー融資は返済能力が最優先
プロパー融資は信用保証協会や民間保証会社の保証を一切つけない融資です。
このため、返済が不能になった際のリスクはすべて銀行が負うことになります。
また、先ほども述べたように、不動産を担保にとっても必ずしも評価額通りに不動産が処分できる保証はどこにもなく、不動産の処分にも銀行はコストが必要になります。
つまり、保全能力としてそれほどあてにはできないのが不動産担保なのです。
このため、プロパー融資はよほどのことがない限り、返済には問題がないという取引先に対してしか融資を行いません。
つまり、返済能力に関して、最も厳しい審査を行うのがプロパー融資であるといえるでしょう。
なぜ、不動産の担保を必要とするかといえば、①稟議の際に返済能力と保全能力を満たし、審査をスムーズに進めるため②無担保融資枠を超えた場合の保全を図り、銀行のルール内通りの融資を行うためです。
現金での返済ができなくても担保の処分によって回収できればよいという不動産担保のパッケージ商品に対して、現金での返済が可能な企業に補完的な意味合いで担保を要求するプロパー融資では、考え方が180度異なるのです。
場合によっては保全以上の貸付も行われる
プロパー融資で何よりも優先されるのは返済能力で、担保は補完的な役割しかありません。
このため、返済能力に全く問題がない企業には、多少担保割れしていても希望額の融資を行うこともあります。
返済に問題ないから担保割れでも融資に応じても問題ないという稟議書を書き、上司や本部が納得できる程度の充実した返済能力があれば、担保評価額の範囲内かどうかはプロパー融資ではそれほど大きな問題ではない場合があります。
無担保のプロパー融資の取り扱いも多数
返済能力に問題がないという企業は、無担保でプロパー融資を行うことも珍しくありません。
銀行にとって頭を下げてお金を借りてもらう超優良企業においては、無担保の融資枠をもっている企業も多数あります。
銀行から無担保のプロパー融資を受けられるようになったら、銀行にとって何も返済には問題ないと判断されている優良企業であると、自社を評価してもよいでしょう。
まとめ
銀行の事業資金融資において、不動産担保があるからといって必ずしもお金を借りることができるわけではありません。
最も重視されるのは、企業の業況から判断される返済能力で、現金で返済できるかどうかが審査の際には最も重要になります。
また、不動産担保よりも確実な保全能力は信用保証協会の保証で、信用保証協会の保証審査は返済能力を判断していますので、返済能力のない会社は不動産担保があっても銀行から事業資金の融資を受けることが難しくなります。
また、プロパー融資においてはさらに返済能力が重要になります。信用保証協会の審査に余裕で通過できる企業が借りることができるのがプロパー融資ですので、信用保証協会や他の銀行の審査に通過できない企業が、不動産担保に事業資金を借りるのはほぼ不可能であると考えましょう。
融資案件や企業の審査の際には①返済能力と②保全能力が重視されます。
不動産の担保とは主に保全能力を確保するために行われるもので、保全能力があっても返済能力がない会社は融資を受けることは難しいでしょう。
反対に、返済能力に全く問題がないとされる超優良企業は無担保でもプロパー融資を受けることができることがあります。
昨今、金融庁は保全が図れていない企業でも積極的支援するように銀行に求めていますので、今後はますますプロパー融資が増えていく傾向にあるようです。
銀行の方針に左右されるものの、処分にコストがかかる不動産だけを根拠に融資を受けることはますます難しくなるのではないでしょうか?
銀行の事業資金審査の重点はあくまでも返済能力とその企業の技術力などの数字に見えない力で、今後はますますその傾向が強くなりそうです。