ファクタリングとは自社の持っている売掛債権をファクタリング会社によって手数料を支払って売却する方法です(売掛金買取)。
通常、売上債権の資金化までには1ヶ月以上の時間がかかるものですが、売上債権が実際に資金化されるまでにどうしてもお金が必要となった場合には、すぐに資金化できるファクタリングが欧米では広く普及している制度です。
日本で企業がお金を調達する方法として広く認知されているのが銀行からの借入れですが、ファクタリングと銀行融資のどちらを選択すればよいのでしょうか?
売掛金買取ファクタリングのメリットとデメリットを解説します。
目次
売掛金買取ファクタリングと銀行融資の違い
ファクタリングと銀行融資はどのような点で異なるのでしょうか?
銀行融資は借金、ファクタリングは売買
銀行からの借入金はあくまでも借金ですので、会計上以下のように仕分けして、貸借対照表上には「借入金」として計上されます。
銀行から1,000万円借入れを行った場合の仕分け
借方 | 貸方 |
(現金)1,000万円 | (借入金)1,000万円 |
借入金の額が多いと貸借対照表は資産と負債の額が大きくなり、貸借対照表全体のボリュームが大きくなってしまいます。
銀行は年に数回企業の業況を審査していますが、この際に貸借対照表が重いと審査でマイナスポイントとして見られることも少なくないようです。
ファクタリングは売上債権をファクタリング会社へ売るという手続きですので、借入金が増えることはありません。売上債権という資産を現金という資産に費用を支払って交換するイメージです。
売掛金1,000万円を10%の手数料を支払ってファクタリングした場合の仕分けは以下の通りです。
借方 | 貸方 |
(現金)900万円 (売上債権売却損)100万円 |
(売掛金)1,000万円 |
ファクタリングは手数料分が費用として計上されるため、期末の決算時には損益計算書を締め付ける要因にもなりますが、銀行借入のように借入金が増えるようなことがないため、バランスシートが重くなることはありません。
銀行融資は自社の経営状況によっては融資が断られることもある
銀行融資は自社の経営状況に応じて融資を行うかどうかを審査しますが、自社の業況が悪く融資を行っても改善不可能というような場合には融資を断られることもあります。
具体的には3期連続赤字や債務超過先は融資を断られるケースが多いようです。
しかし、ファクタリングの場合には自社の内容よりも売上債権先の内容の方が重視されるため、自社が3期連続の赤字であったり債務超過であったりしてもファクタリングに応じてくれる場合もあります。
銀行融資の方が金利が低い
ファクタリングの手数料は3社間ファクタリングで1%~5%ですが、2社間ファクタリングの場合には10%~30%とかなりの高利率が適用されます。
しかし、銀行融資の場合の金利は審査結果や業況などにもよりますが1%~3%程度であることが一般的です。
また、銀行融資には地方自治体のセーフティーネット制度融資などを活用することによって信用保証協会に支払う保証料料や銀行に支払う利息の1部または全部を自治体が補助してくれる場合もあるため、場合によってさらに低いコストで資金を調達できるというメリットがあります。
2社間ファクタリングであれば取引先は関与しない
銀行から売上債権を活用して資金を調達する方法としては売掛債権担保融資という制度が存在します。
売掛債権担保融資とはその名の通り、借入金などの売掛債権を担保にして銀行から融資を受けるという方法です。
この方法は売上債権先である取引先に通知されてしまうため、取引先が売上債権を担保に入れてお金を借りたということを知ってしまうことになり、多くの経営者は自社のマイナスイメージを取引先に持たれてしまうことになることを懸念します。
一方、2社間ファクタリングは自社とファクタリング会社の2社だけの取引で、売上債権が入金になったらそのお金をファクタリング会社へ自社が支払うという仕組みになっています。
この方法であれば取引先が売上債権を売却したと知ることはないため、取引先から自社に対してマイナスイメージを持たれる懸念はゼロになります。
ファクタリングは償還請求権がない
銀行が売上債権を資金化する手段として最も代表的な手段が手形の割引です。
手形の割引とは売上金の代金として受け取った手形を銀行に資金化してもらう手続きのことで、要するに資金化までに時間がかかる受取手形を担保に、銀行から手形の現金化までの期間お金を借りるという方法です。
銀行は手形の振出先が経営的に問題のない先であれば高確率で入金となることが見込めるため、手形を銀行が預かりその代金を利息を差し引いて資金化してくれます。
しかし、手形の期日に手形振出先の資金ショートや倒産によって手形が決済できずに不渡りとなった場合には、その手形金額を自社で負担しなければなりません。
これを債権求償権といいますが、債権求償権は前述した売掛債権担保融資にも存在します。
手形割引にしろ売掛債権担保融資にしろ経営者は常に取引先の倒産や資金ショートなどを懸念しなければならなくなります。
一方、2社間ファクタリングでは債権求償権がないのが一般的です。
売上債権先が破たんしても、そのリスクはすべてファクタリング会社が負い、ひとたび2社間ファクタリングで債権を売却してしまえば、その後は売上債権が正常に履行されようがされまいが関係ないというのが債権求償権がないファクタリングのメリットです。
ファクタリングのメリット
ファクタリングのメリットは以下の通りです。
2社間ファクタリングは償還請求権がない
売上債権先である取引先が関与しない2社間ファクタリングでは債権求償権がないのが一般的です。
手形の割引にしても売掛債権担保融資にしても取引先の債務不履行(手形や売掛金などを決済できない)によるリスクはすべて自社が被らなければなりませんが、2社間ファクタリングであれば売却後にその債権が不履行となった場合のリスクはすべてファクタリング会社が負う契約となっているのが一般的ですので、リーマンショックや山一證券の破たんのような社会全体を揺るがすような急な不況が襲ってきた時でも当時よく見られたような連鎖倒産のリスクは皆無です。
急な景気変動によって手持ちの売上債権が履行されないかもしれないというリスクヘッジとしてもファクタリングは有効な手段であると言えるでしょう。
2社間ファクタリングは取引先が関与しない
ファクタリングに抵抗がある経営者がファクタリングを忌避する大きな理由の1つとして挙げられるのが取引先へマイナスイメージを持たれることです。
「あの会社は債権を売却しなければいけないほど、資金繰りが厳しいのか」などと思われてしまうと今後の取引に影響するかもしれないと経営者は心配しますが、2社間ファクタリングでは取引先は一切関与しません。
あくまでも自社とファクタリング会社の契約ですので、取引先に売上債権を売却したと知られる懸念は全くないのがファクタリングのメリットです。
借入金ではないのでバランスシートのオフバランス化が図れる
借入金が多いとどうしてもバランスシートが重くなってしまいます。
今は銀行の企業審査のトレンドはバランスシートはできるだけ軽くして資産も負債も多く持たないスリムな経営が求められている時代ですので、借入金や売上債権は少ないに越したことはありません。
また、売掛金や受取手形などの売上債権には毎年貸倒引当金を計上しなければならなくなりますので、売上債権は多く持てば持つほどバランスシートは重くなっていきます。
バランスシートを重くさせる原因である売上債権を無くすことで貸倒引当金を毎年計上する必要もなくなりますし、当然のことながら銀行借入れによる「借入金」という負債も増えることもありません。
ファクタリングはコストがかかりバランスシートを重くする原因である売上債権を現金に換えてくれますので、バランスシートを軽くしたいという経営者にはうってつけです。
資金化が銀行融資よりも早い
ファクタリングは最短即日で資金化することができますし、時間がかかっても1週間程度で資金化可能なのが一般的です。
一方銀行融資は早くて1週間、時間がかかる融資となると3週間以上かかる場合も珍しくありません。
銀行融資には信用保証協会の保証が付くことが一般的ですので、銀行審査の前段階として信用保証協会の審査があり、さらに融資金額によっては銀行の支店での融資の後に銀行本部の融資もあるためどうしても時間がかかってしまうのです。
とにかく急いでお金が必要という経営者は銀行融資よりもファクタリングをおすすめします。
売上債権が優良先であれば審査に通りやすい
ファクタリング審査において重要となるのはあくまでも売上債権が期日通り履行されるかどうかですので、自社の業況よりも売上債権先の業況が審査の際に重要視されます。
自社の経営が悪化していても取引先が優良であればファクタリングによって資金を融通してもらえる可能性があるのもファクタリングのメリットであると言えるでしょう。
なお、売上債権先の信用調査は売上債権先には秘密で行われるため、2社間取引の場合には信用調査で取引先にファクタリングを行おうとしていることを知られることはありません。
銀行融資に断られても資金化のチャンス
銀行融資は自社の業況が悪ければ融資を断る可能性があります。
しかし、前述したようにファクタリングは売上債権が正常に履行されるかどうかが最も重要になります。
このため、自社に融資が出ないというような状況であってもファクタリングによって運転資金を確保することができる可能性があり、経営者の中にはファクタリングは最後の手段と考えている人もいるようです。
ファクタリングのデメリット
ファクタリングにもデメリットがあります。
手数料が高い(2社間ファクタリング)
ファクタリングには取引先が関与する(売上債権の代金を取引先が直接ファクタリング会社に払う)3社間ファクタリングと、取引先が関与しない(売上債権の代金を自社がファクタリング会社に支払う)2社間ファクタリングがあります。
3社間ファクタリングの手数料は1~5%程度、2社間ファクタリングの手数料は10%~30%程度です。
通常3社間ファクタリングの場合には債権求償権があることが多く、2社間ファクタリングの場合には債権求償権がない場合が一般的です。
また、3社間ファクタリングとして利用されるのは医療報酬債権ファクタリングなどの債務不履行の可能性がほとんどない売上債権の場合ですので、一般的にファクタリングを行おうとする場合には2社間ファクタリングを想定したほうがよいでしょう。
この場合の手数料がだいたい10%~30%程度ですので、銀行融資の1%~3%の金利に比べて明らかに高い資金調達コストであり、ファクタリング最大のデメリットはやはり手数料が高いことが最初に挙げられます。
振込口座を変更させられる可能性がある
2社間ファクタリングは売上債権の決済代金が取引先に入金されてから自社がファクタリング会社へその決済代金を支払う仕組みです。
ファクタリング会社からしてみると売上債権の決済代金をファクタリング会社へ支払ってくれないリスクがあるため、売上債権の決済口座をファクタリング会社が管理する必要があります。
このため、売上代金の決済口座をファクタリング会社指定の口座へを変更を指定される場合が多いようです。
自社からするといつもの決済口座を使用できないため、取引先への振込先の変更を通知しなければならなくなり、この点はデメリットであると言えるでしょう。
自社の内容が良好でも売上債権先の業況によっては審査に通らない
ファクタリングのメリットとして自社の内容が悪くても取引先の内容が良ければファクタリングが成立する可能性がある点が挙げられますが、これは裏返すと、自社の内容がいくら良くても取引先の内容が悪ければファクタリングに応じてもらえないという可能性があるということです。
内容が悪い先の売上債権は自社にとってもファクタリング会社にとってもデメリットです。
ファクタリング会社はそのリスクの度合いに応じて、手数料を決めていますが、最大の手数料をとってもカバーできないリスクの高い会社の売上債権はいくら自社の内容がよくても買い取ってくれないこともあります。
売掛債権売却買取ファクタリングのメリット デメリット まとめ
ファクタリングには早期資金化、バランスシートのオフバランス化、急な景気変動へのリスクヘッジを行うことができる、取引先に経営が苦しいなどの懸念を持たれることがないというメリットがありますが、銀行融資に比べると圧倒的に高いコストが発生します。
ファクタリングはメリットとデメリットがはっきりしている資金調達方法ですので、経営者は「銀行融資に断られた人の最後の手段」などと言った偏見は持たずに経営手段の1つとしてファクタリングを頭の片隅には入れておいた方がよいでしょう。