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地方経済と中小零細企業のビジネス

長野県松本市の有力産業と中小零細企業の現状と将来の発展性を統計データから考察

長野県松本市は地域ブランド調査の魅力度ランキングに必ず上位に位置する人口24万人ほどの長野県第2位の自治体です。

上高地などの自然や、国宝の松本城があり、芸術家草間彌生さんの出身地ということで博物館では草間彌生展が開かれ、街には草間彌生デザインのバスが走ります。

また、世界的指揮者である小澤征爾さんが毎年夏に市民とともに30年ほど音楽祭を行っており、市民が小澤征爾さんの指揮のもと演奏をしたり歌を歌います。

さらに毎年平成中村座が歌舞伎の公演を行い、街の中を練り歩きます。自然と芸術と文化の街です。

そのような松本市も少子高齢化の中、経済的には決して楽観視できる状況ではなく、少子高齢化も確実に進展しています。

元銀行員の手塚大輔氏
この記事では、人口と経済という観点から松本市を分析してみました。

目次

松本市の人口

松本市の人口は地方都市の中では大きく減少しているというほどではありません。

近隣町村を合併して現在の松本市の形になったのが平成22年です。その時の人口は約24万3千人です。

平成28年の人口は約24万2千人ですので、それほど大きく人口が減少しているという状況ではないようです。

社会増で自然減をまかっているが

松本市は長野県の中でも社会増つまり転入者が多い自治体です。

少子高齢化によって自然減している人口を社会増が賄っているという背景があります。

実際に平成27年の人口は前年と比較して増加しており、長野県の中で非常に珍しいニュースとして話題になりました。

毎年9000人強の転入者と転出者が存在し、東京と神奈川から1300人程度の転入者が存在します。

同じく転出者も東京と神奈川に1500人程度存在しますが、これは進学した学生が多く存在していると考えられるため、この学生が戻ってこられる雇用を作ることができれば人口減少対策の大きな柱となるのではないでしょか?

生産年齢人口は確実に減少

松本市は人口総数は大きく減少していませんが、生産年齢人口(15歳〜64歳)の人口は確実に減少しています。

平成2年の生産年齢人口は約15万9千人です。

しかし、平成27年の生産年齢人口は約14万3千人と、間で平成の大合併で人口が4万人程度増えているにも関わらず生産年齢人口は1万6千人も減少しているため、これは非常に大きな減少であると言えるでしょう。

増大する高齢者

一方、高齢者数の数は激増しています。

平成2年に65歳以上に高齢者数は約3万4千人と人口構成比で14.4%でした。10人うち1人か2人が高齢者というのがわずか28年前の松本市でした。

しかし、平成27年の高齢者数は約6万4千人と人口構成比で26.7%です。松本市も例外なく、約3人に1人が高齢者ということになります。

生産年齢人口を高齢者人口で割ると2.38ですので、松本市は2.4人の現役世代で1人のお年寄りを支えていかなければならない状態です。

日本全体では東京オリンピックの翌年である2021年には高齢者割合は30%を突破すると言われていますので、この現状は今後さらに厳しくなっていくことが予想されます。

2040年には4万人減という予測も

関東経済産業局が行なった地域経済分析システムを活用した松本市の分析によると、2040年には松本市の人口は20万人になると予測されています。

団塊の世代が寿命を迎え人口減少時代に入るのが2020年です。

では2020年には高齢化は収まるのかといえばそのようなことはなく、今度は団塊ジュニア世代(現在の40代)が高齢者になります。

現在の松本市の50代と40代の人口は約6万4千人です。

人口20万人に対して6万4千人が高齢者となりますので、生産年齢人口の負担は今よりもさらに厳しくなることが予想されます。

出生者数は減少、出生率は増加傾向

松本市の出生者数はここ30年の中では2000年の2680人をピークに右肩下がりです。

2016年の出生者数は2098人ですので、ピーク時よりも600人程度減少しています。

しかし、出生率で言えば必ずしも減少しているわけではありません。

平成7年の松本市の出生率は1.62%でしたが、平成15年には1.38%と激減しました。

しかし、平成24年には1.53%まで回復しています。

全国平均の出生率を大きく上回る出生率ですので、子育て対策等一定の効果をあげていると言えるでしょう。

出生者数が減少しているのは、子供を産んでいないわけではなく、親の数が減少していることが原因であると考えられます。

 

人口減少の解決策

人口減少のためにはどのような解決策を図って行くべきでしょうか?

子育て世代を増やす

松本市は出生率自体は向上しているため、子育ての環境面などではそれほど問題ないと言えるでしょう。

問題があるのは若いお父さんやお母さんではなく、子育て世代の人口自体が減少しているという点になると言えます。

そこで、子育て世代の数を増やしていくということがとても重要になります。

移住促進などのさらなる若い人の定住促進や転出防止措置を講じる必要があります。

転出者のUターン促進

地方都市の多くが一度進学のために東京に行くと地元に戻ってきません。

松本市も転出者のうち2割近くが東京と神奈川に転出しており、学生が進学したまま戻ってこないということが課題となっています。

これまで大卒者の就職先として、地方都市で存在するのは役所か地方銀行か地方のメディアしかないと言われてきました。

働く場所がないという現状を企業誘致などによって解消していかなければ子育て世代の定住促進は望めないでしょう。

健康寿命を延ばす

いくら子供の数を増やしても現在の松本市の人口が20年後には20万人に減少し、高齢者の数が6万4千人になるという事実を大きく変えることは不可能です。

そのため、高齢者にできる限り医療費をかけないようにするしかありません。

その考え方の1つが松本市が強力に推し進めている健康寿命という考えです。
健康寿命=平均寿命−要介護期間
で算出することができます。

つまり、要介護の期間が長ければ健康寿命が長くなり、医療費の負担を抑えられるということです。

長野県全体の健康寿命は全国平均を大きく上回っています。

日本一の長寿の県である長野県のお年寄りは医療ではなく健康を理由として長寿を保っています。

しかし、松本市は長野県内の中で健康寿命は最下位で、健康保険料も長野県内の中で最も高くなっています。

健康寿命の長寿化の促進とともに医療費の抑制などの施策を講じていかなければ今後現役世代の負担はさらに増大していくことは明白です。

雇用の促進と社会保障費の抑制

結局のところ、若者の流出を抑え、転入者を増やすためには雇用を創出するしかありません。

松本市は2017年の野村総研の住みたい街ランキングで総合ランク8位、子育てしながら働きやすい環境ランクで1位を獲得しました。

参考:https://madoguchi.iyell.jp/growth-possibility-city/

都市としてのポテンシャルはあるため、雇用をどのように創出するかが若い人の定住促進には大きなポイントでしょう。

さらに、国全体で社会保障費が増大する中で健康なお年寄りの多い長野県としてどのように社会保障費をかけない施策を講じていくのか、この2点が少子高齢化が進む中での大きな課題と言えるでしょう。

 

松本市の経済

松本市は県庁所在地ではない自治体としては非常に珍しく日本銀行の長野県の支店がある自治体です。

そのため、よく「商都」などと呼ばれることがあります。

しかし、実際には商業は衰退し、その分を工業が引っ張っているというのが現実です。

減少する商業人口

商都と呼ばれた松本市の労働者人口はこの10年で大きく減少しています。

平成19年の商業の労働者人口は約27000人ですが、平成26年の商業の労働者人口は約19000人と激減しています。

売上規模で見ても、平成19年の約1兆3千億円から、平成26年には約8200億円手へと激減しています。

事業所数が平成19年から26年までで約1000箇所減少しているため、小規模な小売店や卸売業が閉鎖となっていることが分かります。

市民が市外の事業所へお金を使っていることが窺えます。

工業は拡大している

一方、工業は拡大傾向にあります。平成24年の工業の従業員数は約12000人です。

平成26年には工業へ従事する人の数は約14000人まで増加しています。

売上は平成26年から28年にかけて44兆8千億円から平成26年には約48兆3千億円まで増加しています。

商業が減少傾向にあることに対して、工業は拡大傾向にあることが分かります。

松本市は食料品製造業が占める割合が高く、22.8%を占めています。

売上規模では電子機器製造が9600億円と最も多くなっています。

商業の減少分を工業の拡大によって、経済、雇用共に賄っていることがわかります。

観光

松本市は松本城と上高地という観光資源を抱えており、平成26年から28年にかけて510万人〜520万人の観光客が毎年訪れています。

このうち、松本城が3年連続で前年度の観光客数を上回っており、平成26年の約87万人から、平成28年には約98万人と大きく増加しています。

国全体での城ブームや積極的な外国人観光客の誘致がなど功を奏していると言えます。

外国人観光客の延宿泊者数は平成27年の約12万7千人から平成28年には約15万9千人と大きく増加しています。

伸び率で言えば県内の中でも軽沢や長野市に次ぐ伸びとなっています。

農業は縮小傾向

農業世帯数は平成12年の約9300戸から、平成27年には約7100戸と減少しています。

松本市は県内の中でも、農地転用が難しい自治体と言われており、農業振興地域の面積は平成26年の約24800haから平成28年の24900haとむしろ増加しています。

一方、販売農家の経営耕作地面積は平成12年の約6800haから平成27年の約4800haへと激減しており、耕作放棄地が増えているのが分かります。

自給的的農家数は平成27年までの15年間で500戸ほど増えているのに対して、プロである販売的農家の数は、販売規模の大小にかかわらず全ての販売規模で減少しています。

農家の減少をプロへ集約させるという施策が機能していないと言えるため、農家のプロである販売農家を増やしていかないと、農地の荒廃を避けることはできないでしょう。

金融

銀行の融資残高は平成26年の約7960億円から、平成28年には約8050億円と増加しています。しかし、制度資金の利用は件数金額ともに減少しています。

つまり、カードローンやフリーローンなどの個人ローンによって融資量を確保しているという他県の地方銀行と変わらない状況と言えるでしょう。

異次元の金融緩和と日銀のマイナス金利の影響で長野県内の地方銀行の経営も非常に苦しくなっており、本業のもうけである業務純益は毎年減少しています。

 

松本市の財政

松本市の財政は比較的健全な状態にあると言えるでしょう。

歳入の3割は交付金関係

ほとんどの自治体がそうであるように、松本市の歳入の約3割が交付金関係です。

平成28年の歳入総額921億円のうち、地方交付税は138億円、国庫支出金が103億円、県からの交付金が約50億円と合計で約290億円となっています。

自治体によっては約半分が交付金関係で回っている自治体があることを鑑みれば、松本市の歳入の状況は比較的自主性が保たれていると言えるでしょう。

赤字の事業

歳出面で見ると、当初予算よりも決算額が大きくなった赤字事業は、水道事業費が約11億円の赤字、下水道事業が20億円、病院事業が4億円の赤字となっています。

水道事業に関しては民営化などの改革を行い、赤字を補填するまたは歳出を抑制することで、圧縮する必要がありそうです。

人件費率は約20%

松本市の人件費は約157億円となっています。支出総額の20%程度を占めており、収益事業ではない役所組織としては多いと言えます。

松本市の市税収入は353億円ですので、実に市民の支払う税金の約40%が公務員の人件費に消えている状況です。

人件費圧縮は急務と言えるのではないでしょうか?

財政は比較的健全

松本市の収入総額は約920億円、このうち、交付金関係が290億円です。

また、歳出総額のうち約105億円が公債費つまり借金返済となっています。

国の財政を見るときに「プライマリーバランスが重要」と聞いたことがないでしょうか?

プライマリーバランスとは、借金返済部分を除いた金額がプラスマイナスゼロであれば財政は健全とされる考え方です。

国や地方の借金は借り換えを行うことができるためです。

松本市の歳入のうち、公債(借金)による収入が77億円です。

借金の返済が105億円で借金の収入が77億円ですので、28億円が純粋な借金返済部分と言えます。

以下で借金の収入と返済部分を控除したバランスシートを作成してみました。

収入 支出
税収入等563億円 825億円
交付金関係290億円 余剰金28億円
合計853億円 合計853億円
実際に松本市はプライマリーバランスが取れていると言えます。

さらにここから赤字事業を25億円削減し、157億円の人件費の2割を削減し、30億円を削減することができれば50億円程度の財源を確保することができ、仮に県からの支援がなくなったとしてもプライマリーバランスを維持することができます。

松本市の財政は比較的健全であると言えるでしょう。

 

まとめ

松本は、全国の中でも自然と文化と芸術面のポテンシャルが高く、財政も健全な自治体であると言えます。

しかし、他の自治体と同様に最大の課題は少子高齢化で、2040年には人口のうちの3割以上が高齢者になるという予測もあります。

まさに今が正念場と言える状態です。

雇用を確保し生産年齢人口の定住を図るとともに、長野県内で最下位である健康寿命を伸ばすことで医療費を抑制することが急務であると言えるでしょう。

元銀行員の手塚大輔氏
あくまで執筆時の現状と考察になることをご理解ください。執筆は2018年4月です。

手塚大輔氏による▶長野県の他の各市の経済と有力産業の現状と将来の発展性の分析

資金繰ラウンジ運営者 こくもち
僕は長野県に住んでいるのではありませんが、以前、スノー関連業界で仕事をしていたことがあって長野のスキー場には何度も足を運んでいますし、地方経済という視点でも関心があったので、手塚さんに執筆していただきました。



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